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第88話 地の底に墜ちて

 ……あの変態ツル野郎は俺の足元、地面を突き破って生えてきた。


 一気に数メートルは成長した植物のモンスターである。

 当然、相応に深く根を張っていたらしく、俺たちが落下したのは奴が枯れたことで出来た大穴であった。


「……い、痛てて……」

「うう……」


 こ、腰を打った……


 大穴の深さはおよそ十メートルくらいだろうか。

 落下した衝撃で少しだけ意識が飛んでいたが、幸い大きなダメージはなかった。


 どうやら枯れたツルたちがクッションになってくれたらしい。


 ありがとうな変態ツル野郎……この大穴作ったのもお前だけど。


『大丈夫か二人とも!?』『意識は? ケガは?』『1←これいくつ?』『緊急通報は通ったからすぐに近くのインフラ整備士あたりが来るぞ!』

「あ、ああ……俺は大丈夫です……」


 俺たちを追って飛んできたカメラゴーレムから飛び出してくるコメントに応じつつ、俺は周囲を見回して状況を把握する。


 ……まさか、俺が助けられる側になるなんてな。


 緊急通報とはリスナー側が「配信者が危険だ!」と判断した際にギルドへ通報ができるシステムのことだ。

 配信を見ている複数のリスナーが通報すれば、ギルドによって近隣のインフラ整備士が派遣される、というもの。


 俺も何度か救助した経験がある。


 だが、ここ戦火の地平は配信者同様に担当するインフラ整備士も少ない。

 到着するのは、おそらく五分くらいは見ておくべきか……


 ……メイド服も、ボロボロになっちゃったな。


 帰ったらアナに謝らないとなぁ。


 なんて考えながら、俺は一緒に穴へ落ちたもう一人の安否確認をする。


「……そっちは大丈夫か、シキータ?」


 俺の上にのしかかる形のシキータへ声をかける。


 地面が崩れた時に姿勢を崩したシキータを俺がかばったのだ。


 頭を守るように抱きしめてたから大丈夫だと思うが……


 コレでどこまで衝撃が軽減できたかは分からないが、まあ男の胸板よりも女の乳房の方が幾分かマシであろう。

 おっぱいがあってよかった。


 その点に関してだけはトリントに感謝しつつ(まあTS薬なんて飲まされてなければそもそもこんなことにはならなかったんだが)シキータを揺さぶると、彼女はゆっくりと瞼を開いて……すぐに慌てて身体を起こした。


「イ、イロウどの!? 申し訳――いたッ!」

「どこか痛むかッ?」

「だ、大丈夫です……少し、足をひねったみたいで」


 そうか……


 ホっと俺は安堵する。


「なら、しばらくはこのまま動かない方がいい。空いた穴はデカいが、どうもここは根っこの端だったようで狭いからな。下手に動かず救助を待つぞ」

「…………なさい」

「シキータ?」


 今にもかき消えそうな声。


 薄暗い中でも分かる真っ青な顔。


 カタカタと小刻みに震えだす彼女の口が続けたのは――


「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 謝罪の言葉だった。


「なっ、おいシキータ!?」

「また守れなくてごめんなさいまた傷つけてしまってごめんなさいまた危険な目にあわせてしまって約束を破ってしまって守れなくて助けられなくて――」


 違うっ、これは……


「すまない、少しミュートにする!!」


 これをリスナーに聞かせるわけにはいかない。


 とっさにカメラゴーレムのマイク機能を停止させる。


「何も成せなくて、何もできなくて――」

「シキータ!」


 彼女が連ねるのは謝罪の言葉じゃない。


 自分を傷つける後悔の刃だった。


「落ち着けシキータ! 俺たちは無事だ!!」


 トラウマの再起。

 PTSDなんて類の症状だろう。


 懺悔するようにうわ言を繰り返すシキータの肩を揺らすが効果はなかった。


 そりゃそうだ。

 今のシキータが見ているのは俺ではなく、過去に起こった後悔の記憶。

 そのフッラッシュバックだ。


 呼びかけ程度で落ち着くはずがない。


 ……だったら!


 俺はシキータを全力で抱き寄せた。


「むぐっ!? むぐぐ~!?」

「落ち着けシキータ! 深呼吸だ!」


 彼女の頭を自分の胸元へ押し付けるようにして抱き寄せて、その耳元で強く語り掛ける。


 今はとにかくシキータを現実に引き戻さないと……!!


「俺たちは無事だ! ちゃんと生きてる!」

「……むぐ! むぐぐ~むぐぐ~!!」


 最初は震えるだけのシキータだったが、次第に震えは落ち着いてきて……しばらくすると何かを訴えるようにパンパンとこちらを叩いてきた。


「むぐ……まっ、イロ――息が!」

「……あ」


 シキータは別の意味で真っ青になっていた。


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