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第86話 戦いの最中であろうとも

 過激、苛烈を極めるシキータの戦い。


 それに対し、ドロリーの戦いは優雅というほかになかった。


「うるさい――《バブルガムボム》」


 挑発するシキータに悪態を返しながらも、ドロリーは自身の戦いを続ける。


 ガーゴイルの群れに削岩魔法を使ったように、モンスターたちの攻撃を的確に対処してすかさず反撃の一手を叩き込む。

 その一方で俺とトリントに飛んでくる流れ弾を片手間で防ぎながら、魔力の糸を忍ばせたモンスターを操って群れの陣形を切り崩した。


 力で圧倒するかのようなシキータの戦いに対し、ドロリーのそれは巧みな戦略が見て取れた。


『……複数の魔法をああも容易く併用するとはな』

『そ。不老の大魔女ドロリーと言えばあたしたちの世界では畏怖の対象だったもの。呪いによって蓄えた膨大な魔力と知識をもってして戦いを掌握する。記録じゃすっごく昔から国に携わっていたりとか――』

『でもトリントより肌はもちもち』

『ぐぬぬ……』

『やめてあげなさいドロリーさん』


 トリントの念話を遮りながらも、ドロリーの矛先はモンスターへ向いている。


 どうやらこちらの軽口をたしなめるくらいの余裕すらあるようだ。


 ごく一部を除いて幼女のような容姿のドロリーからは想像もつかないが、なるほど確かに。その戦い方には老練さが見て取れた。


『さっすがドロリー嬢!』『強靭!』『無敵!』『最強!』

『そしてカワイイ!』『だからこそいいのだ!!』 


 シキータに負けず劣らずの活躍を見せるドロリーに、彼女のリスナーたちも大盛り上がりだ。


 ……さて。


 ここ戦火の地平であってもシキータとドロリーならば問題はないようだ。


 生半可な配信者では大苦戦する危険なエリアなのだが、二人にとっては余裕すら感じられる。


 しかもトリントの口ぶりだと、これでもまだ全力ではないのだろう。

 残念ながら、それを目の当たりにできる機会はなさそうであったが。


「先にギブアップしてもいいんだぜ? アタシ一人でも十分だからよ!」

「冗談。ドロリー一人でも事足りる」


 ……だが。


 こうも戦ってばかりだと取り付く島もないな……


 コラボ配信としての手ごたえは上々だ。

 二人の戦いっぷりはド派手で見ごたえがあるのでコメントの反応もいいし、何より対決という形にしたのが二人の不仲を逆に「バチバチに競い合う関係」に見えるようになっているのも功を奏した。


 この調子なら、お試しとしては大成功と言ってもいいだろう。


 しかし、今回の目的はそれだけじゃない。


『不仲である二人の仲を取り持つ』


 それがラッカリカから課せられたミッションだ。


 ……当初の目論見では、不仲である二人がロクに連携すら取れずに苦戦しているところを突っ込んでその原因を聞きだす、とか考えていたんだが……


 なまじ二人とも強すぎるせいか、シキータもドロリーもロクに連携すら取らなくても個々にモンスターを蹂躙していっていた。


 一応「互いに邪魔をしない」という意識はあるみたいで、ちゃんと役割分担はしているみたいだし……これはどうしたものか。


 仲を取り持つどうこう以前に、事情が分からなければシキータとドロリーの関係に踏み込むことすら難しいだろう。


 下手に地雷を踏んでしまいさらに関係が拗れる、なんてことになればもう最悪だ。

 それだけは避けないと……


「――ふう。これでラストか?」

「完全勝利。ぶい」


 俺がどうしようかと考えあぐねている内に、戦闘の方は一段落がついてしまった。


 モンスターの増援が途切れたのを確認して、シキータとドロリーがそれぞれに戦闘態勢を解除する。


 あたりには撃破されたモンスターたちが転がっていた。


 壮観だな……


 ここまでやればしばらく襲撃はないだろう。


「なかなか多かったなー! ま、大物を倒したアタシの勝ちってところか」

「数でならドロリーが圧倒」

「雑魚相手に頑張ってたみたいだしな」

「大きな土くれを倒した程度で調子に乗るほど馬鹿じゃない」

「は?」

「む」

「お前らなぁ……」


 すぐに勝敗を競っていがみ合うシキータとドロリー。


 君たちいつでも張り合わないといけないわけなの……?


 溜息をつきながら俺とトリントが仲裁へ入ろうとした――瞬間。


『サポーター危ない!!』

「――トリントッ!」


 カメラゴーレムから飛び出したコメントの警鐘。


 その真偽を確かめるより早く、俺はトリントをシキータたちの方へ突き飛ばす。


 トリントはこの中で唯一の非戦闘員だ。

 まずは彼女の安全を第一にしつつ、俺は未知の脅威へ応戦しようと――あ。


「イロウ……」

「兄ちゃん!?」

「なにやってるのイロウくん!?」


 ――た、戦えないの忘れてた……!?


 己の失態に気付くと共に、俺は足元から伸びた何かに足を絡め取られた。


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