第84話 お姫さまを守れ!
『グギャアアアアアアアアアッッッ!!!!』
建物の中だけでなく、あらゆる物陰からモンスターの大群が飛び出してきた。
『うわ大群』『いきなりな歓迎だぞ!』『ガーゴイルだ!』『アレ石なの?』『たしかダンジョンのは動いている間は生身になってるとか』『さっすが危険エリア』『初手でこの数か』『いくら二人でも大丈夫なのこれ?』
シキータとドロリー、双方の配信を映すカメラゴーレム越しにモンスターの大群を目の当たりにしたコメントたちが口々に反応を上げる。
……確かに、これは数が多いな。
あのモンスターはガーゴイル。
ゲームなどで見るような、翼を備えた悪魔のような姿をしたモンスターだ。
普段は石像に擬態してこちらの不意を突いてくる上に、ああやって飛翔しながら魔法を使ってくる厄介な個体としても有名である。
それが、ざっと見積もっても五十体ほど。
しかもモンスター個々の強さが初心者向けエリアで跋扈するようなモンスターの比ではない。
あのあたりのボスモンスターと比べてどちらが厄介か、なんてのはよくギルドや配信者間でも有名な議論である。
シキータかドロリー。
もし、どちらか一人だけだったらすぐにでも近隣のインフラ整備士などに助けを求めていただろうな……
「ハッ、さっそくお出ましか!」
「面倒くさい……」
だが、ここにいるのは彼女たち二人がいる。
俺とトリントを守るように前に出て、シキータとドロリーが身構えた。
「《廻填武装》――四肢装甲!」
「《魔法詠唱》」
シキータが四肢に鎧を纏い、ドロリーが魔法の詠唱に入る。
すでにガーゴイルの軍勢も戦闘態勢だ。
戦いの火蓋を切るのに、空気が張り詰める暇すらなかった。
「そこ動くなよ、兄ちゃん!」
「わ、分かった!」
「あたしの心配は!?」
『グギャアアアアアァッッ!!』
トリントの文句がガーゴイルの咆哮にかき消される。
奴らの先陣だ。
すでに俺たちへ照準を定めた数体が魔法の詠唱へ入っている。
大口を開けたガーゴイルから唱えたのは――火球だ!
「しゃらくせぇ! 《魔法詠唱》!」
無数の火炎弾が俺たちへ迫る。
だが、俺たちの矢面にはシキータがいる。
はじめてダンジョン配信をした時にはチンピラをぶん殴って黙らせたりしていたが、異世界で騎士団長まで上り詰めたシキータが得意とするのは本来守ることである。
「《アーマード・リフレクター》!!」
シキータの詠唱したのは防御魔法。
ガントレットを模した魔法障壁が火炎弾の前に立ちふさがり、第一陣の弾幕を容易く防いでしまった。
「安心しな兄ちゃん! アタシがゼッタイ守ってやるからよ!」
「だからあたしの心配は!?」
「……くる」
トリントが訴えるのもつかの間、すぐにドロリーが警鐘を鳴らす。
シキータの防御魔法越しに俺とトリントが顔を上げると、上空はすでにガーゴイルたちがこちらを中心に旋回していた。
……とっくに取り囲まれてるな。
いわゆる制空権はモンスターにある。
連中から降り注ぐ魔法攻撃はシキータが的確に防いでいるものの、弾幕が過激で反撃に出られない状況にあった。
「――ったく、突っ立てるだけでおしまいかよ?」
「うるさい」
だからこそ、もう一人が動いた。
――いや、唱えたと言うべきか。
「《ロックスマッシャー》」
一歩たりとも動くことなくドロリーが魔法を唱えた。
敵は魔法に長けたモンスターだ。
ガーゴイルたちはすぐにドロリーの攻撃を察知して空中の陣形を組み替えて防御魔法を展開する。
瞬間。
連中の身体に亀裂が走った。
……なるほど、削岩魔法か!
俺は内心で舌を巻いた。
石造に擬態するガーゴイルの身体は岩石の外皮で覆われている。
それを天然の鎧として用いて半端な攻撃は簡単に防いでしまうのだが――ドロリーはそれを逆手に取ったのだ。
削岩魔法は攻撃魔法ではない。
それゆえにガーゴイルの防御魔法を無視して、奴らにダメージを与えたのだ。
外皮を砕かれて混乱するガーゴイルの群れに、ドロリーは容赦なくトドメの攻撃魔法を連発して一息に全滅させてしまった。
「これでおしまい」
「――いいや、まだだ!」
一息つこうとしたドロリーに俺が警鐘を鳴らす。
さっきのガーゴイルは確かに全滅させたが、あれで戦火の地平を攻略したとは言えない。
『ギャアアアアアアア!』
『ゴオオオオオオオオ!』
「うお……今度は家がゴーレムになったぞ!?」
「その名の通りハウスゴーレムだ! さっきの戦闘で起こしてしまったみたいだな……」
「関係ない」
「ああ、今度はアタシも出るぜ!」
ガーゴイルの第二陣に加えて、近くの家屋などに擬態していたハウスゴーレムたちがのっそりと動き出して俺たちに対し臨戦態勢を取る。
――そう。これが戦火の地平。
そこかしこにモンスターが潜んでいて、一度でも戦闘が始まると次から次へとモンスターが集まってくることでロクに休む暇がなくなってしまう……文字通りの激戦区であるのだ。
すぐに応戦を始めるドロリーとシキータ。
……二人ならこれくらいでも大丈夫だろうが。
むう。
できることなら俺も援護くらいは――
『だーめ。今のイロウくんはお姫さまなんだから』
無意識に身構えようとしていた俺に、トリントが抱き着いてきた。




