第83話 ダンジョン配信者の最前線
シキータとドロリーのコラボ配信。
二人は元々異世界の要職についていたこともあり、その実力は折り紙付き。
彼女たちの全力はまだ見たことないけど、現役の開拓者にだって引けを取らないだろう。
ゆえに、半端な難易度のエリアでは二人の勝負にならないということで――
「やってきました! 現在、ダンジョン配信者が入れる最奥エリア! いわば、ダンジョン配信者の最前線たるこの――戦火の地平へ!!」
戦火の地平。
現在ダンジョン配信者が入れる、つまりはダンジョン配信ができるだけのインフラが開拓された中でも最も難易度の高いエリアだ。
ダンジョンの入口からワープ魔法を介してやってきた場所に立って、トリントは物珍しそうに周囲を見回してからキョトンと首を傾げた。
「……けど、戦火だ何だって言っても、あんまりそんな感じがしないのねぇ。てっきりゲームにある感じのマグマとかドロドロしたエリアかと思ったけど、フツーに建物とか乱立してるし。真っ赤どころか真っ暗な地下都市って感じだし」
『そんなゲームじゃないんだから』『確かに、ぱっと見じゃ西洋の城塞都市みたいだし』『なんでダンジョンの中に城塞都市があるんですかねぇ?』『知ってる奴がいたらそれはダンジョンを作った奴だけだろ』『でもなんで戦火なんだろ?』
「……そういうのは、だいたい開拓された時に何かあったケースだな」
疑問を呈したトリントに続けて議論を始めるコメントたちへ俺が解説する。
……まさか、この場所をこんな格好で歩くことになるとはなぁ。
ここ戦火の地平を一言で表現するなら『地下にある城塞都市』だ。
そこかしこに様々な文明の建築様式で出来た建物が乱立し、道が入り組んで街そのものが迷路のようになっているエリア。
トリントやコメントらが語るように、パッと見ではどこにも戦火や地平なんて要素はない。
「確か、開拓した時にハデなドンパチがあったとか聞いたことあるぜ?」
「……ドロリーは知らない」
すでに周辺の警戒に当たっていたシキータとドロリーが口々に言う。
「もったいねぇよなぁ~。構造が入り組んでるからってこの辺は建物の中とか手付かずの場所が多いって話じゃねぇの」
「その分、罠だって多い」
「分かってるっつの。オメーは一々余計なんだよ」
「は?」
「お?」
「はーいケンカしないの!」
途端に睨み合いを始めた二人に「配信中でーす!」とトリントが割って入る。
「もう、二人とも少しは仲良しアピールとかできないワケ? そうやってすぐケンカして……モンスターに襲われてもいがみ合うつもり?」
「心配いらない。ドロリーがいれば大丈夫」
「ハッ、サボり魔はベンチで休んでろよ。アタシだけで十分だっての」
「……一人で守れるの?」
「テメェ――」
『シキータ。配信中』
「――チッ」
トリントに止められてシキータが舌打ちしてそっぽを向いた。
……一人で?
おそらく異世界での出来事について言及したのだろうが、それにしてはシキータの反応がさっきまでと違ったような……
まあ、後で訊いてみればいいか。
トリントが言うように、現在はダンジョン配信中だ。
配信を見守るリスナーも大勢いる。
そんな中で身の上話をするのは個人情報を自ら曝け出すようなものだし、異世界人の彼女たちならなおさらデリケートな話でもある。
コホンと咳払いしてから俺は話題を元に戻した。
「戦火の地平は難易度が高いエリアで有名だな。立ち入るにはライセンスの制限もあるし、単純に企画をするには危険すぎるって理由もあって配信者も少ない」
けど、名前の由来はもっと別にある。
俺が語ると共に、その異変はすぐに訪れた。
道が入り組み、建物が乱立する城塞都市という構造上……シキータが言っていたようにここには手付かずの場所が数多く残っている。
それはまだ見ぬお宝が眠っていたり危険な罠が張り巡らされていたりする可能性があるのはもちろん――モンスターが根城にしている場所だってたくさんある。
「……戦時中みたいに激しいゲリラ戦が続いて、障害物のない地平線が恋しくなるって意味で戦火の地平って名前が付けられたんだ」
『グギャアアアアアアアアアッッッ!!!!』
バタン、バタン、と。
建物の扉や窓、果ては煙突なんかの中から飛び出してきた大量のモンスターが、俺たちへ襲い掛かった。




