第82話 ダンジョンのお薬
時はさかのぼって、配信前の多目的更衣室。
トリントが俺に飲ませた薬の作用はすぐに表れた。
「う、ぐ……ぐおおおおおぉッ!?」
液体を飲み下した瞬間、ドクンと全身が脈打った。
すぐに腹の奥底から異変を感じ、たまらずうめき声を上げてしまう。
……ああ、もう。
この手のモノを飲まされたのは初めてじゃない。
というか、本来はここまで苦しくなるようなモノでもないんだがなぁ。
「ちょ、ちょっとイロウくん!? ウソ、まさか拒否反応が出たのッ? そんな、分量はちゃんと――」
「……慌てるなら、こんなモン飲ませるなよ」
血相を変えて駆け寄って来るトリントに悪態を返してから、俺はトリントと後ろで羽交い絞めにしてきたままのシキータを引き離す。
――バチ。バチチッ。
同時に、俺の身体から紫電が漏れ出した。
ドロリーの言っていた俺の魔力なるモノが、薬によって変化する俺の身体に驚いて漏れ出してきたのだ。
それが間違ってもトリントたちを攻撃してしまわぬように抑えながら、俺はゆっくりと自分の変貌が収まるのを待った。
変貌に要したのは、およそ一分ほど。
「――――」
自身に起こった異変が収まったのを感じて、すぐさま俺は自分の身体をまさぐった。
もにゅん。スカッ。
胸元にあるはずのない柔らかい膨らみがあって、股間にあるはずのモノがなくなっていた。
……やっぱり。
ここは多目的更衣室。
部屋の壁には全身を映せる大きな鏡があって、そこにはもう俺が変貌した後の姿がありありと映し出されている。
――長い髪、華奢で丸みを帯びた体躯。
「いったい何しやがるんだ……」
ぶかぶかの服を着た美少女。
――それが俺であった。
◇――――――◆
ダンジョンで発見される戦利品は多種多様だ。
モンスターからのドロップ品はもちろん、宝箱などからは魔法に関する道具などが発見される。
その中でとりわけよく発見されるのが、いわゆる魔法薬だ。
不老不死の妙薬、エリクサーなど。
こっちの世界でも噂されるとんでもない効能を持った類の薬は流石に存在しないが、魔力や疲労を回復させたりキズや毒などを治したりするようなモノだ。
当然、それら利便性の高いモノはギルドが解析、研究して比較的安価に量産していたりするので入手は容易だ。
中でも、こと配信者にとって面白い効果が出る魔法薬も色々と流通していて――
その一つがこの性別反転薬――通称「TS薬」であった。
『まさか、TS薬なんて用意してるとはな……』
『ふふん? 自作だったからイロウくんが苦しみだした時にはヒヤヒヤしたけど、無事に可愛い女の子になってくれて安心したわ~』
……今さらっと自作とかヤバい発現が聞こえたんだが。
とっても当たり前の話ではあるが、ギルドは魔法薬の量産化に成功したものの製法は非公開であり、かつ個人での製造は禁止されて――
『野暮なことは言いっこなしよ。これでもあっちでは医者だったの。魔法薬の調合くらいお手のモノだし、ギルドに怒られるようなヘマはしないつもりよ』
……驚いた。
安心できる要素がどこにもない……
現在俺たちは挨拶と企画説明を終えて、現在は勝負のためにダンジョンの奥へと進んでいる最中だ。
ドロリーとシキータによって前後を守られる陣形で、二人に守られる形で俺とトリントが位置する状況は何とも安心感のあった。
……メイド服はスカートだからちょっと歩きにくいし、モンスターなどの警戒を二人がやってくれるのは助かる。
スカートだから下手にめくれたりしないよう気をつけなくちゃいけないし、その中は足がスースーして変な気分だ。
昔から袴とか苦手だったんだよな……
『そういえば、なんでメイド服なんだ? お姫さまだって言うなら普通にドレスとかでもよかった気がする――以前に、普通にラッカリカがいるだろ』
『あら? ドレスの方がよかった?』
『……男のままの方がもっとよかったな』
『あら、男のままお姫さま扱いされたかったの?』
漬物石みたいなデカい一石を投じないでくれない?
念話しながらジト目を向ける俺に、トリントはさらっと白状する。
『お姫ちゃんを呼ばなかったのは、単純にあの子だと危険だから。イロウくんなら最悪の事態でもどうにかなるでしょ?』
『お前は俺をなんだと……』
『元インフラ整備士の元開拓者くん』
……ぐうの音も出ないほど正しい認識だった。
『あと、そのメイド服は単純にアナの私物だから破いたりしないよう気を付けてね。本人は自分で使う? そうだから洗わずに返してって言ってたわ』
『……オーケー』
絶対に洗って返すことにするよ。




