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第80話 不仲同士の配信はとてもたいへん

「いいですかイロウさま」


 コラボ配信が決まった会議の後。


 他の面々が自室やシャワーなどへ向かう中、俺だけを呼び止めたアナがコソコソと声を潜めるようにして語る。


「表向きは騎士団長さまと大魔女さまの直接対決、ということになりましたが、お察しの通り本当の目的はお二人の仲を取り持つことにあります」

「仲を、って言ってもあれは相当根深いだろ? それを取り持てってことだろうが、そもそもアイツらの間に何があったんだよ?」

「それは……」

「こちらの世界へ来る前に、少し」


 口を濁らせるアナに代わり、同じくリビングに残っていたラッカリカが応じた。


「クーデタの際に最も尽力してくれたのがシキータとドロリーなんです。その過程で些細な行き違いがあって……まあ、元々そこまで仲が良かったというわけでもなかったので、改善もないまま現在のような状態に……」

「……オーケー。事情があるのは分かった」


 ま、当人がいないのに事情を聞くのは野暮だったか。


「事情は当人から聞かせてもらうよ」

「お願いします」


 ラッカリカがペコリと頭を下げた。


「いろいろ大変だとは思いますが、その――頑張ってくださいねっ。イロウさん!」



◇――――――◆



 ……今にして思えば、あの時点ですでに俺を景品に利用することは決まっていたのだろう。


「まったくアイツら……自分にリスクがないからって他人の一日を平気で好きにしていいとか、いったい俺のことをなんだと思ってるんだ?」

「カッコいい王子様とか?」

「ハンッ」


 トリントの言葉を鼻で笑った。


「せいぜい都合の良いオモチャ程度だろ」

「そ、それはさすがに思い過ごしよ……」

「じゃあトリントはどう思ってるんだ?」

「――ホラ、手続きも済んだし二人を回収しましょ」


 あ、誤魔化したなコイツ。


 ギルドの窓口での手続きを終え、トリントに背中を押されて俺はロビーのベンチで休んでいるシキータとドロリーに合流した。


「う~ん……へへ、兄ちゃんがうねうねしてるぜ……兄ちゃんの踊り食いだぁ……アタシがひん剥いて食っちまうぜぇ~ぐへへぇ」

「イロウ……ドロリーのおっぱいを支えて……ドロリーの全部を支えて……」


 ……まだグロッキーのままだよコイツら。


 しかし、まあナチュラルにセクハラしてくるもんだよ……


 エピライブにハラスメント対策窓口なんてものがあればそろそろ相談も視野に入れていい頃合いだと思うんだけど、残念ながらウチにそんな真っ当なモノはなかった。


 まあ、仮に窓口があったとしてもその担当になるであろう人物はこの前「イスナロ様ガチャ召喚祈願の儀」とか称して俺に件のイスナロとかいうキャラのコスプレをさせようとしてきたりしたんですがね。


 クローリスって言うんですけど。


「もう、夜更かしも深酒も美容の大敵。ちゃんと気を付けないと荒れちゃうわよ?」

「うぐぬ……んなこと別に気にすることねぇだろ。荒れたことねぇし」

「ドロリーはずっとモチモチ」

「カハァッ……」

「トリント!?」


 いきなりトリントが膝を突いた。


 まるで強烈なボディブローを喰らったかのようなうめき声を上げたトリント。

 フラリと倒れる彼女を慌てて抱き留めると、トリントは俺の手を取って震えながら自分の頬っぺたを触らせてきた。


 ……柔らかいな。


「イロウくん。あたしの……毎晩スキンケアとパックを欠かさずやって食生活や運動習慣にも気を使ったとっても健康的なお肌、モチモチ?」

「ああ! とてもモチモチで綺麗だ!」

「……髪の毛は、どう? トリートメントもヘアオイルも欠かさないの。いい匂いする?」

「……ああ! ツヤがあっていい匂いもする」

「そう。よか、ったわ……」


 ガクッ。


「…………そろそろいいか?」

「ダメ。おねーさんの唇もちゃんと確かめ、いったぁ!?」


 調子に乗り始めたトリントをポイっと手放した。


 唇を「むちゅー」とキスをねだるような顔をしていたトリントがゴツンと床に頭を打ってしまい、半泣きで俺に詰め寄ってきた。


 ごめんて……


「ちょっとイロウくん!? せっかくおねーさんがちょっとムード作ってあげたのになんてことするのよ!? 傷心のおねーさんをキスでやさしく癒してくれたっていいでしょ!?」

「さてはお前ここがギルドのロビーだってこと忘れてるな?」


 いつの間にやら周囲から視線が集まっているのだ。


 なんか「そういうのは配信中にやれ」とか聞こえてくるんですけど……


 むしろ配信中にやっちゃダメでしょこれ。


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