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第78話 やだ

「やだ」


 ドロリーの回答はとても簡潔だった。


 ゲームの合間に飲み物を取りに来ただけのドロリー(今日はちゃんとジャージを着ていた)を半ば強引に会議の席に座らせ、クローリスから今後の方針から日頃の細かいお説教までクドクドクド……と話をすること数分ほど。


 眼鏡をキランと光らせて満足げに話を終えたクローリスへ、一秒すら間を置かずに返した言葉が、これだ。


「めんどくさい」

『…………』


 あまりにも短い理由もついた返答に俺たちは絶句する。


 ……だが、まあ。


 ドロリーならそう答えるだろうなぁ、とは思っていた。


 なにせ普段の配信すら「めんどくさい」とサボるような生粋の引きこもりなのだ。


 最近は俺がサポーターとして同行するときだけはちゃんと配信するようになったが、それでも頻度は週に一回程度。


 他の面々と比べてとても少ない。


 その上――


「ま、しゃーねぇか。コミュ障の引きこもりサマじゃあ外部の奴とロクに話せるわけねぇからな」


 シキータの言う通りだった。


 ドロリーは、その……うん。


 コミュ障って訳ではないだろうが、ものぐさというか……普段の会話すら最低限で済ませようとするほど面倒くさがりであるのだ。


 ……最近の配信じゃドロリーよりも俺が話して場を繋いだりすることもあるし。


 だからシキータの指摘は的を射ている……のだが。


 それにしては、彼女の言葉にはちょっとトゲがあるような――


「……酒に逃げるしかできない女が何か言ってる」

「あ゙あ゙?」


 ボソリと漏らしたドロリーの言葉にシキータが眉を吊り上げる。


「ハッ、言うじゃねぇか。流石ムダ飯喰らって引きこもってる奴は言うことが違ぇ」

「むむ……」


 今度はドロリーの眉がピクリと動いた。


 ……な、なんだいったい?


 俺が呆気にとらられている間にも二人はあーだこーだと舌戦に発展していき、バチバチと火花を散らしていく。


「な、なあ……この二人って、ひょっとして」

「アハハ……まあ。その、以前に少し、色々とありまして」


 声を潜める俺にラッカリカが苦笑混じりに肩をすくめた。


 それに他の面々も「仕方がない」とばかりに同調して頷く。


 いったい何があったんだよ……?


 なんて俺が疑問を呈するよりも先に、ヒートアップした舌戦を繰り広げていた方で動きがあった。


 シキータがバンッとテーブルを叩いて立ち上がる。


「だああッ! ロクに配信すらしねぇ奴が偉そうに!」

「下手をしてBANされかけた奴よりマシ。それに登録者はドロリーが上」

「最近の上昇分は兄ちゃんが頑張った結果じゃねぇーか」

「それはお互い様。それに、イロウはドロリーのモノになるから同じこと」


 そんな予定は未来永劫ないんですが。


 しかし、なんというか……


 俺はあらためて二人を見る。


 シキータがここまで明確に拒否反応を示すのは珍しいな。


 ドロリーも口が悪いのはそうなのだが、こっちは煽り耐性が低いだけだろう。


 ここまでのやり取りでもドロリーはシキータの煽るような言葉に反撃するような口ぶりをしているし、明確に攻撃的なのはシキータの方だった。


 単に二人の相性が悪いというのもあるが、シキータはてっきり……のらりくらりとこちらの懐に潜り込んだ所に敵愾心というナイフを突きつけてくるような――少なくとも、こういう直接的な反応はしないタイプだと思っていたから意外だった。


 けど、ずっといがみ合われてもらちが明かない。


「お前ら、いい加減に――」

「でしたら、こういうのはどうでしょうか?」


 俺が仲裁に入ろうとした寸前、アナが二人へ口を挟んだ。


「そもそも今回の議題は、さらに成長するための手段としてコラボ配信など外部との交流をふやしてみては、というモノだったはずです。わたしが言うのもなんですが、みなさまはすでにそれぞれの配信スタイルをお持ちである以上、全員に強制して逆に今までの人気を失ってしまうリスクもあります」


 そこでどうでしょうか。


 少しの間を置いて、アナは提案する。


「お試しとして、まずは内部――わたしたちでコラボ配信をする、というのは」


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