第72話 ダンジョン配信の後は
スマホの通話履歴を見るに、香流子との答え合わせはだいたい十分程度。
電話にしてはちょっと長かったが、女数人寄らばなんとやらというか。
それくらいじゃ女性陣の話は終わらなかったみたいだな。
「じゃあ、せっかくだしこれからみんなでゴハン食べにいかないー?」
電話を終えた俺が近づくと、ちょうどこの後の予定について話していた。
この声はサツキエルだな。
配信中はザコ狩り専門を謳うメスガキ系配信者として攻撃的な発言も多かった彼女だが、オフだと少し落ち着きがあるように感じる。
実際、成人しているという話だったし配信中の言動はわざと幼さが出るようにしているのだろう。
だが、残念ながら彼女の誘いに応じる者はいなかったようだ。
「ご、ごめんなさい。ペットのゴハンがあるので……」
「――わ、私も」
申し訳なさそうに頭を下げるポポンに続けて、おずおずとした声が聞こえる。
……えっと。
「アナ」
「イロウさま、お電話は終わりましたか?」
「あ、おにーさんおかえりー」
俺がアナに呼びかけると、同時にサツキエルもこちらへ振り返った。
……配信中じゃ俺のこと「おじさん」って呼んでたのに、配信外だと「おにーさん」呼びになるのか。
もしかして、俺が「おじさん」呼びにダメージを受けてたことに気付いていたのだろうか?
いや、今はそれよりもだ。
「あの…………こちらのお方は?」
「エロイーネさまですよ?」
…………マジ?
俺はもう一度、アナがエロイーネと呼んだ女を見る。
配信中ではスク水仮面とマントにニーソなんていう色々と極まった格好をしていたが、ダンジョン内じゃギリギリBANされないにしてもダンジョンの外であの格好はぶっちぎりで不審者である。
なので配信後は着替えるのは予想できていたが……
そこにいたのは、カーディガンとフレアスカートといったふんわりとした格好で身体のラインを隠し、やぼったい丸眼鏡をかけた文学少女だった。
……ま、まさかここまでの変貌ぶりとは。
動揺を隠せず俺が凝視していると、推定エロイーネさんが「ビクッ」と身体を縮こませた。
「ひ、し、視線でエッチなことされます……!!」
「…………」
た、たしかに……
このアナと同レベルっぽそうな発想は間違いなくエロイーネのモノだ。
……ダンジョン配信者の中には配信中と配信外で別人みたいになる人もいると聞いたことがあるが、まさかここまでオンオフの差が激しいとは思わなかった。
「あ、あはは……配信中はお見苦しいものをお見せしましたぁ。もともとは身バレしたくなくって派手な格好をしていたんですが、その……色々あって。顔は仮面で隠したんですがこんな地味な女の身体なんか見ても――」
「別にそんなことはないだろう」
え、とエロイーネが俺を見る。
丸眼鏡がかなり目立ってしまっているが、全体的なコーデは落ち着いた女子大生といった様子で大人しいオフの彼女にはよく似合っている。
「あんまり自分の努力を卑下するのはよくないな。配信とのギャップに驚いただけで、どっちの格好も悪いモンじゃないと思うぞ。きっと今のままでも十分人気をとれるんじゃないか?」
「そーそー! 最初隠れて帰ろうとしてるところを捕まえた時には一瞬エロイーネちゃんだってわかんなかったけど、落ち着いた格好でもすっごくカワイイよ!」
「で、でも……今日初めて配信後に声をかけられましたし」
それは単純に配信中の姿と今の姿がつながらなかったからでは?
というかしれっと「捕まえた」ってサツキエルが言ってたが、この変貌っぷりでよくエロイーネだと気付いたもんだよ。
俺ならきっと見逃してたな……
すごいよサツキエルさん。
俺とサツキエルの反論に似た励ましの言葉を受けてエロイーネは「あうあう」と口をパクパクとさせていたが、やがて「ハッ」と俺の方を見てきた。
「つ、つつまり……サポーターさんは、今の私をエッチな目で見てるんですか?」
「……イロウさま? そういう視線はまずわたしにしてください」
なんでさ。
励ましたつもりだったのにセクハラになってしまった……
女心って難しいね……




