第58話 色々あっても順調に成長中!
ダンジョン配信。
それは世間を湧かす娯楽であり。
気軽に挑める冒険であり。
そして――命がけだ。
「見つけました!」
ここはダンジョンの中。
ランタンで照らされたいかにもな洞窟内の情景は低い階層の初心者向けのエリアである。
ダンジョンの出入り口にも近いことで、大勢の配信者たちはまずこのエリアを挑戦し、自分たちの冒険を世界に見てもらうための足掛かりにする。
「よーし! 今度こそ逃がしませんよ!」
「だな。今度こそ逃がさないでくれよ……」
ある者はモンスターを追いかけてダンジョン内を駆けずり回り――
「って、あれを見てください! すっごい豪華な宝箱があります!」
「追ってる最中によそ見をするな! というかアレはどう見ても罠だろ!」
目先の明らかに罠っぽい宝箱に目がくらみそうになったり――
『そうだ! この前お話したグッズのことですけど、クラウドファンディングというものがあると聞いたことが……』
『それってお前たちの話だよな? 俺の話じゃないよな?』
というか目当てのモンスターを追っかけてる最中なんだから集中してください。
……と、まあ。
小難しい話はさておくとして。
「――これで、終わりです!!」
彼女たちダンジョン配信者はダンジョンにおける花形と言っていい。
そして、対する俺はというと。
花形であるダンジョン配信者を陰から支えるしがないインフラ整備士――じゃなかった。
あれはもうクビになったんだった。
「やりましたー! 一人でボスモンスターを倒せましたよー! ちゃんと見てくれていましたかッ? これでライセンスも更新できます!」
「ああ。ちゃんと試験を通過出来たらな」
今は彼女――ラッカリカの下、彼女が率いる配信事務所に入ってダンジョン配信者のプロデューサーをしていた。
◇――――――◆
「お疲れさま、ラッカリカ」
「わわ、ありがとうございますイロウさん!」
ダンジョンの出入り口へと繋がるギルドのロビー。
これから配信へ赴く者や、手続きのため受付に並ぶ者、コラボのためか待ち合わせ用のスペースで談笑している者など多くの関係者が行き来する中で、配信を終えた俺は合流したラッカリカへと自販機で買っておいたスポーツドリンクを投げ渡した。
今日の配信はかなりハードに走り回ったので、ギルドに設置されているシャワー室を利用していたのだ。
サッと浴びて出てきた俺よりも十分ほどゆっくり浴びてきたからか、ラッカリカの髪や肌がいつもよりも艶やかに見えた。
落としそうになりながらもなんとかボトルを受け取ったラッカリカはすぐにフタを開けて、ごくごくと一気に中身の半分ほどを飲んでしまう。
「――ぷはぁ! シャワーから上がった後の飲み物は美味しいですねぇ」
「そういうのって牛乳とかで言わないか?」
「いいんですよ。水分補給は大事ですから」
イロウさんも飲みます? とナチュラルに残りを差し出してくるラッカリカの厚意だけを受け取って、俺たちはギルドを出て帰路についた。
タイミングよくやってきたバスに乗って、二人掛けの座席に座ってようやく一息。
バスが発車すると同時にぴったりと肩をくっつけてきたラッカリカが俺を見る。
「イロウさん、今日の配信はどうでしたか?」
「同接や登録者も少しずつ増えてきてるし、今日はとうとうボスモンスターを一人で倒したからな。予想以上の成長速度だよ」
「うぇへへ~そうですかそうですか」
俺の回答に満足げな笑みを浮かべて俺の肩に身を預けてくるラッカリカ。
「ああ。本当に、びっくりするくらい成長したよ……はじめて会った時はボスモンスターから逃げ出してモンスタートレインを作ってたくらいなのに」
「もう! 何かにつけて初対面の事を持ち出すのはやめてください!」
頬をくらませて小突いてくるラッカリカを好きにさせながら、俺はすっかり見慣れたバスの車窓からの景色へ目を向けた。
……思えば、俺がラッカリカと出会ってもう三週間くらいか。
つまり、俺がインフラ整備士をクビになって配信事務所エピライブのプロデューサーに転職してから、もうそれくらいの時間が経過しているということになる。
最初の頃は問題児だらけの事務所でいったいどうなることやらと不安だったが、こうして振り返ってしまえば十分によくやっている方だろう。
モンスタートレインをやらかしていた初対面時とは打って変わり、ラッカリカはめきめきと成長を続けている。
どうやら異世界からやってきたこのお姫さまは元々護身用として魔法や武術の訓練を受けていたらしく、足りないのは実戦での度胸だけだったらしい。
他の面々――シキータについては目立ったトラブルも大きなイベントもなくいつも通りだが、ドロリーは未解決エリアの一件以降は頻度は少ないもののちゃんとダンジョン配信をするようになったし、事務所全体で見れば順調に成長していると言える。
ホント、最初はどうなることやらと心配してたくらいなのに。
当時から今までのことを考えると、みんなよくやっているだろう。
それで、残るは――
「もう、ガマンの限界です!!」
事務所兼住居のマンション。
頼まれた買い出しも終えて帰ってきた俺たちを出迎えたのは、我らがエピライブ所属配信者の最後の一人。
メイドのアナであった。




