第53話 完全無欠の救出策
拡声器越しに語るリーダーらしきテロリストが、反対の手で握った自動小銃を人質の中に向ける。
その銃口が指し示す先にいるのはプラチナブロンドの少女。
……ラッカリカ!
人質たちの中に、ラッカリカたちの姿があったのだ。
人質たちを守るように立ち上がり、リーダー格のテロリストの男に銃を突き付けらえたラッカリカ。その後ろにはシキータとクローリスも一緒だ。
抗議するようにラッカリカが何か言っているが、彼女たちのいるコンサートホールからこの立体駐車場までは距離がある。流石に拡声器を通していない声はよほど大きく怒鳴っていない限りはかすれて聞き取ることができない。
『――書類ごときで貴様らの存在が認められるものかッ!』
だが、話の内容を推察するにはテロリストの声だけで充分であった。
『いずれ近い将来、ダンジョンから異世界人が私たちの世界へ侵略してくることは自明の理である! ゆえに私たちは、危険の種をここで摘み取らなければならない!! 侵略者どもの魔の手から世界を守るためにギルド、ひいてはこの町を――』
聞くだけでも脳が腐り落ちていまいそうなテロリストの高慢ちきなご高説から耳を塞ぎつつ、俺は手にしたスマホに語り掛けた。
「おいお前ら、まだかかるのか?」
――立体駐車場からコンサートホールまではざっと百メートルほど。
俺のスキルならば一秒でここからホールまで突貫し、そのまま三秒もあればテロリスト全員を制圧することは可能だろう。
連中の武器は見た所、手に持った銃だけ。
他にどんな隠し玉を有していようとも、俺なら連中がそれを使おうとするよりも早く制圧することだって造作もないことだ。
……人質の安全を考慮しなければ、だが。
人質を取り囲んでいるテロリスト共は銃口を人質へ向けている。
仮に俺が一瞬でテロリスト共を鎮圧できたとしても、奴らもまたその一瞬、引き金にかけた指を動かすだけで人質の命を奪うことができる。
無論、あくまでも「リスクがある」程度の話ではある。
だが、万が一にでも人質から負傷者が出ればダンジョンを危険視する風潮を勢いづかせてしまうことになりかねない
……色々と強引な手段だからな。
考えられるリスクは可能な限り潰しておきたい。
何より、ラッカリカたちに何かあったりでもすれば――
やるからには、完全勝利。
人質は全員無事に救出し、テロリストは全員捕まえる。
ちょうど都合のいい連中もいたことだし、秘策の一つでも弄したというわけだ。
『……ついた』
『せ、拙者は後少しでござる……!』
『急かすなッ。こっちはどこにテロリストがいるか分かんねーんだぞ!』
スマホから返ってきたのは、声を殺した三人の返答。
現在この立体駐車場にいるのは俺一人。
先ほど俺を襲ってきた三人はいない。
じゃあどこにいるかというと――それぞれある頼み事をして、広場を取り囲む店舗の中へ散らばってもらったのだ。
『つーか、ホントにこんなことでいいのかよ?』
『ふ、ふう……人のいない店舗というのがここまで恐ろしいとは……』
「俺の頼み事に乗ったのはお前たちだろ。……頼むよ。お前たちがちゃんとやってのけてくれたら、人質を全員無事に救出できる確率が格段に上がる」
『全部テメェで片づけられるってのはムカつくが……』
『まあ、拙者は推しがいる以上は見過ごすわけにはいきませぬゆえ』
『……いないけど、がんばる』
三者三葉の返答。
それを受け取りながら俺は再びホールの方へ視線を向ける。
「――ふざけないでくださいッ!!」
事態が動いたのは、同時だった。




