第52話 イレギュラー
沈黙を引き裂くその声は、きっと目撃者たちの認識がようやく目の前で起きた現実へ追いついたことの証左だろう。
……そこから、何が起こったのかは容易に想像がつく。
ちょうど、ここにも不審者がいることだしな。
「い、いったい何事でござるか……?」
「念のため確認するが……本当にお前たちだけなんだよな?」
「ハァ? なんだよ、お前を嫌ってる奴なんて他にごまんと――」
「そうじゃない。俺を襲おうとしたメンバーはこれで全員なのか?」
「……拙者たちだけでござる」
質問の意図に気付いたらしいオタク男が答えた。
それによって残りの二人も事態に気付いたらしい。
目に見えて動揺していることから嘘をついていることはないだろう。
そんな演技ができていたら俺も少しは手を焼いていたはずだしな。
ゴクリと生唾を飲み下す彼らに、思案しながら俺は口を開く。
「よし、だったら――」
「ん、こんな所に人がいるのかよ」
『――――ッ!?』
言葉を遮ったのは、通路の奥から現れた第三者の声だった。
――遅れてきた三人の仲間ではなさそうだな。
迷彩服に防弾ベストといった基本装備を纏った男。
目出し帽で顔を隠し、その手に構えているのは――自動小銃。
この三人組とは見るからに装備のレベルが違う。
明らかにいかにもな輩であった。
「まあいい。大人しく」
「やだね」
男が銃を構える前に俺は動いた。
へし折ったバッドを投げつけ、そのまま床を蹴り出す。
銃を構えた男の顔面にバッドが命中すると同時に男へと肉薄した俺はその胸倉を掴んで床へ叩きつけて気絶させた。
男の顔面に撃ち付けたバッドを回収し、気を失った男から自動小銃を没収。
続く襲撃者がいないかと周囲を警戒するが、幸いなことにこのまま連続で正体不明の武装集団と戦うことにはならなかった。
……ひとまず、脅威は去ったみたいだな。
どうやらここに来たのは男一人だけだったらしい。
周囲の警戒を終えて、俺はホッと一息つく。
「「「…………」」」
「これで、もうお前たちにかまっている余裕はなくなった」
先ほど聞こえた銃声と、ここに来た襲撃者。
……すぐにでもラッカリカたちの元へ行くべきだろうが。
襲撃者よりも先に俺を襲った三人はウチの配信者たちのファンだ。
俺は襲われた立場だし、このまま見捨てたっていいんだろうが……それでコイツ等が別の誰かに襲われたりしたらちょっとだけ寝覚めが悪いしなぁ……
……目論見とは少し変わってくるが。
まあ、ラッカリカの方にはクローリスとシキータがついている。
普段はだらしのない酔っ払いでもシキータは異世界の騎士団長だ。
ラッカリカの安全は彼女に任せるとして、俺は――
◇――――――◆
ライバータウン森中は、いわばダンジョン配信のための町である。
ダンジョンの入口が発見され、そこからダンジョン配信まわりの制度が始まったことで急速に発展してきた町だ。
立地としては他の集落から離れた山間に位置しながらも、ダンジョンから発掘された技術を積極的に活用したことで規模としては地方都市に匹敵する。
ダンジョンの技術を活用して開発をしたことで急速に発展を遂げたが、その代わりに制度面が追いついてなかったり強引な開発などで色々な衝突があったりと水面下の問題は数知れず。
とりわけ、ダンジョンの入口があることから厄介な輩が訪れることもあり――
『私たちの世界はダンジョンに侵略されている!!』
レスピタル中央にある、屋外のコンサートホール。
壇上に集められた人質を前に、拡声器を持ったリーダーらしき男が高らかに語る。
『世界中にダンジョンの入り口が発見されて十余年、あの未知の穴ぐらから持ち帰ったモノによって私たちの生活は格段に進化した! だが、しかし! それこそがダンジョンによる未知からの侵略行為に他ならない!!』
人質はレスピタルに訪れていた客がほとんどで、数は二十人以上。
それを取り囲むようにして銃で武装した連中が十人程度で陣取っている。
……おそらくは、見回りなどに出ている奴もまだいるだろうな。
厄介なことになった。
人質を取っての立てこもり。
立派なテロリスト共の活動である。
『政府は技術欲しさに未知へ与した! そしてギルドは侵略者どもの手先であり、私たちは奴らの侵略行為を許せず、真実を暴露するためこうして決起し――』
まったくもってばかばかしい。
テロリストの荒唐無稽な演説を聞き流しながら俺は舌打ちをする。
連絡通路から見晴らしのいい立体駐車場の屋上へ移動し、そこから中央の広場にあるコンサートホールの様子をうかがう。
……あの場所は見晴らしがいい。
広場の中央に位置しているだけあって強襲の警戒が容易だし、取り囲んだ建物から狙撃などを試みようとも、人質もいるためホール正面からしか狙えない。
当然それは連中も警戒しているし、建物内に見回りの人員を割いているはずだ。
すでに店舗の外側からサイレンの音が聞こえている。
警察は到着済み。
だが、テロリストは銃で武装している上に人質を取ってレスピタル内に立てこもっている状況だ。おいそれと手を出すことはできないはずだ。
――俺は一般人だ。
ダンジョン、ひいてはギルドにも関係する配信事務所に属してはいるが、ここはダンジョンの外である。
ここは大人しくレスピタルを脱出し、警察に保護してもらうことが賢明な判断というものだろう。
しかし、見過ごせないモノが今まさにテロリストの側にあった。
『未知からの侵略は諸君らの知らぬ所で始まっている! その証拠に――今この町には、すでに何人もの異世界からの侵略者どもが我が物顔で闊歩しているのだ!!』




