第46話 休日の午後はお出かけ日和
「イロウさ~ん! こっちで~す!」
先に待ち合わせ場所へ到着していたラッカリカが俺に向けてブンブンと両手を振ってくる。
「悪い、待たせたか?」
「いいえ! 私もギルドから向かってちょうど着いたくらいでした。それよりもごめんなさい、いきなり誘ったりしてしまって……」
「そんなことはない。むしろ助かったくらいだ」
「……助かった?」
キョトンとラッカリカが首をかしげる。
……メッセージの送り主はラッカリカだった。
内容は「配信後の予定が空いたので遊びに行かないか」というお誘いである。
アナに押し倒されたあわや貞操――ならぬ社会的な絶命の危機にあった俺にとってはまさに渡りに船。
ラッカリカのおかげで俺は一命を取り留めたといっても過言ではなかった。
さしもの変態メイドであるアナも主人に隠れて……という倒錯プレイまでは食指が伸びなかったようだ。
おかげで、俺はこうして無事にラッカリカと会えたというわけだ。
「ライバータウンで遊ぶとなるとここくらいだからな。どうせ買い出しもあったからどこかでここまで出ようとは思っていたし丁度よかった」
ラッカリカが待ち合わせに指定したのはライバータウン唯一の複合商業施設だ。
名前は確か……レスピタル森中とかだったか。
屋外のコンサートホールと広場を取り囲むような形で商店が集まった場所で、食料品から書籍に雑貨にアパレル系、さらには映画館やゲームセンターなどの娯楽施設まで一通りそろっている。
ギルドからは離れているが直通のバスがあるのでアクセスもそれなりに良い。
俺たちが待ち合わせに使ったこの広場にも待ち合わせや遊びに来たっぽい感じの人らがちらほらといる。
比較的に若い連中が多いのはライバータウンならではだろう。その辺はダンジョンの出現に合わせて開発されたこの町らしい部分であった。
「あれ、そういえばシキータとトリントはどうした? てっきり二人も一緒にいるもんだと思ってたんだが」
「お二人なら用事があって遅れるとのことです。後から合流すると」
「そうか、なら」
ひとまずどこか入るか。
待ち人が遅れるなら広場で待っている理由もない。俺が近くの店舗へ向かおうとした所で、ちょんちょんと服の裾が引っ張られた。
ラッカリカだ。
おずおず自己主張をするように裾をつまんだ彼女が上目遣いに俺を見ていた。
「むぅ……その、イロウさん? 私のことをもっとちゃんと見てください」
「ん? お前を……?」
「その、何かあったりしませんか……?」
……何か、っていきなり言われてもなぁ。
俺は改めてラッカリカを見つめる。
ハイウエストのロングスカートとニットのトップスを合わせたモノトーン調のスタイルがラッカリカによく似合っている。
小物用のポーチを肩から下げていて、いつもの彼女よりもいっそう大人っぽく見えた。
ファッション誌のモデルも顔負けの、清楚な雰囲気。
だが、ダンジョン配信の衣装としては少し動きづらいような……
「よく似合ってるが……ひょっとして、配信後に着替えたのか?」
「はい! ホントは出発前にお誘いしようと思ってトリントに頼んで準備してもらってたんです! それで、その……」
ラッカリカは恥ずかしそうに頬を赤くしながら、もじもじと耳打ちしてくる。
「し、下着も、カワイイものを選んでみましたっ」
「……さて、これからどうする?」
「まさかのスルー!?」
そりゃ見えてない部分だし。
おそらくトリントの入れ知恵だろう。
明らかにぎこちなかった。
アイツは俺がどんな反応するのを期待してラッカリカにこんなことをやらせたのだろうか。
一応、元居た異世界だとあなたの上司に当たる人だったはずですよね?
「うう……勇気を出して教えたのにぃ」
「見えない部分の言及をされてなんてリアクションすればいいんだよ?」
「じゃあ見てください!」
「やめろ! スカートをたくし上げるな!」
公共の場所だぞ!
いや人の目がなければ見てもいいってわけでもなく!
何を乱心したのか自分のスカートをたくし上げようとするラッカリカを慌てて落ち着かせて、俺はコホンと話題を元に戻した。
「それで、遊ぶって言っても何するんだ?」
「……ちなみに、イロウさんは遊びに行ったりするんですか? 例えば昨日お会いした久良音さんと一緒に、とか……」
「久良音? いや、アイツと会ったのは久々だし、俺も普段はここまで出かけるようなこともなかったなぁ。ラッカリカはよく来るのか?」
「いえ、私もダンジョン配信や手続きがいそがしくて、あんまり」
「……普通、こういう時って何して遊ぶんだろうな?」
「……さあ?」
俺たちの間に微妙な沈黙が流れる。
それから、どちらからともなくクスクスと笑ってしまった。
「なんだか似た者同士ですね。イロウさんと私」
「……俺はモンスタートレインをやらかすほどおっちょこちょいじゃないぞ」
「もう! あれはちょっと油断してしまったというか意気込み過ぎて空回りしてしまったというか……って、意地悪なこと言わないでくださいよ~!」
顔を真っ赤にしてポカポカと俺の胸を叩いてくるラッカリカ。
……軽く小突かれただけなのに、ちょっと痛い。
「悪い、悪かったよ。お詫びに何か奢らせてくれ」
「フフン、約束ですよ?」
そんな軽口をかわしながら、俺たちは行動を始めた。




