第44話 メイドのアナさんはいい趣味してる
「どうかなさいましたか?」
「いや……てっきりドロリーみたいに配信をしたくないのかなって思ってたから」
正直に白状すると、アナは苦笑しながら続けた。
「わたしは別に、大魔女さまのようにダンジョン配信をサボっていた訳ではありませんよ。大魔女さまや騎士団長さまのような卓越した戦闘能力こそありませんが、わたしはむしろダンジョン配信は好きな方です」
「そ、そうなのか……?」
アナが元気よく頷く。
「はいっ! あのダンジョンの暗がりが特に……その、なんと言いますか。隠れて男女のまぐわいをするにはちょうどよさげに見えて」
「するなよ?」
「しかも配信ですぐに全世界へ――」
「してないよな?」
「もちろんです。今まではお相手がいなかったので。誰かしていないかなーと配信中に探しまわったくらいですね。今度はイロウさまがいるので――」
「しないからな?」
普通に永久BANの対象です。
しかし、これは予想外の話になったぞ……
どうやってダンジョン配信をさせようか考えていた所に、まさか自分から次の配信について切り出されるとは思いもしなかった。
いや、配信してくれるのならそれで何も問題はないのだが「じゃあなんで配信してなかったんだ?」と疑問が残ってしまう。
むむむ、気になるが……下手に追求して「やっぱり配信しません」とか言われると本末転倒だしなぁ……
「どうかなさいましたかイロウさま? あ、わたしのスリーサイズなら――」
「なんでお前が配信してなかったのか気になっただけだ!」
俺がいつアナのスリーサイズを気にしたというのか。
残念そうにするアナに俺は嘆息を吐いてから手が止まっていた食事を再開する。
……少し冷めてもまだ美味しい料理たちとは対照的に、アナの言動は食事中のそれにしてはあまりにも下世話が過ぎる。
食欲がなくなる前に食べきってしまおう……
なんて俺が食べ進めるのをニコニコと眺めながら、アナは言葉を続けた。
「今まで配信をしていなかったのは、単純にお休みを頂いていたからです」
「お休み? そういえば、部屋に引きこもってるって」
「はい。毎月末に発売するゲームをプレイするため自主的なお休みを」
それはサボりとどう違うんでしょうか?
というか、またゲームって……
ドロリーの時と同様のケースだと一瞬だけ思ったが、あれ?
よくよく考えてみれば……
「……ゲームって月末にだけ発売するものだったか?」
「一般的なタイトルではその限りではありませんね。わたしが好むジャンルも最近はダウンロードが主流なので必ず月末、というわけでもないのですが……」
「ジャンル?」
お茶を飲みながら聞き返す。
アナはにこやかな笑顔で答えた。
「いわゆるエッチなゲームです」
俺はお茶を噴き出した。
「きゃっ――もう、ぶっかけるならちゃんとわたしを狙ってください」
「ゲホゲホ……わ、悪い……」
いやアナの不満に対して謝ったわけじゃなくて。
不満そうに頬を膨らませながらも、テーブルに噴き出したお茶をいそいそとふき取っていくアナ。
彼女にかかってしまわぬようとっさに顔をそむけたというのに何で俺が怒られなくちゃならないんだ……?
テキパキと家事をこなす姿と今までの言動のギャップがあまりにも凄すぎて頭痛がしてきた。
「そ、それで……えっと、つまり」
「俗にアダルトゲーム、エロゲーとも呼ばれる成人向け、十八歳未満禁止のゲームのことです。恋愛シミュレーションのギャルゲーと混同されることもありますが、そちらとは違い性描写をがっつり――」
「別に説明を求めたわけじゃ」
「ちなみにタイトルは『恥辱のメイドさん完堕ち日記~俺の手のひらでみだらに股を開け』です」
「なんですって?」
もう俺の脳みそでは理解を超えていた。
「ですから『恥辱のメイドさん~俺の手のひらでみだらに股を開け』というゲームです。いやぁ、ハード系は少し抵抗があったのですが実際にプレイしてみるとなんと奥深い……それに、ご主人さまの見込んだ殿方の具合を確かめるのもメイドの役目というものですしちょっとくらいイロウさんを味見しても……」
「それっぽいことを言って自分の趣味を正当化するな!」
あと、実際にプレイってそれゲームの話ですよね?
その後の話もゲームの話の延長なんですよね?




