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第41話『冒険』の師と弟子の責任

 久々に師の名前を口にして俺はたまらず顔をしかめた。


 御識(ごしき)麗依(れい)


 自称冒険家で、最初に任命された開拓者の一人だ。

 開拓者となる以前から未知への挑戦、冒険を何よりも愛していた破天荒な人で、最終的には無限に広がるダンジョンですら満足できず、その先にある未知――異世界へと渡った唯一の開拓者となった。


「俺の経歴を洗ったっていうならとっくに知ってるだろうが、改めて俺の口から言わせてほしい。俺は奴の弟子だったんだ」


 だから、と。


 沈黙を挟んだ俺に、ラッカリカは何も言わない。


 彼女は俺の言葉を待っているのだろう。

 押し黙るようにして俯くラッカリカに対し、俺は短く息を吸ってから――彼女に頭を下げる。


「お前たちがこの世界に逃げ込む要因になったのは、お前たちの国でクーデタが起こってしまったのは……全て、俺がアイツを止められたなかったせい――」

「違います!!」


 俺が頭を下げようと寸前。

 一歩前に飛び出してきたラッカリカが俺の肩を掴んだ。


「イロウさんは何も悪くなんかありません!」


 頭を下げようとする俺をぐいっと支えるように押し戻し、ラッカリカがまっすぐに俺を見つめて詰め寄ってきた。


「クーデタが起こったのも、私たちがこの世界に逃れることになったのも、全部あの人が悪いんです! イロウさんが止められなかったから、なんてことは絶対にありません!!」

「だが、もし俺が……」

「それでも、です!」


 ブンブンブン、と勢いよく首を振ってラッカリカは続ける。


「私はイロウさんに助けられました」

「…………」

「はじめてイロウさんと出会った時。自分で起こしてしまったモンスタートレインのせいで危険な目にあっていた見ず知らずの私を、イロウさんは何のためらいもなく助けてくれました」

「強引な勧誘も快く引き受けてくれたしね。身体を張ってお礼するべきなのはむしろあたしたちの方なのに、謝られることなんて何もないわ」

「ああ! 兄ちゃんとの配信がいつもより視聴数多いってクローリスの奴が小躍りしていたくらいだしな! 兄ちゃんたちがあの女と関係があったとして、今はもう敵だって言うなら、アタシも何も言わねぇさ」


 ラッカリカに続けて、トリントやシキータも同調してくれる。


 ……視聴数の話は単純にBANや配信をサボっていたせいじゃないか?

 思わず出かかった野暮なツッコミを飲み込む俺。


 そんな俺の両手をラッカリカがぎゅっと握った。


「むしろ、私たちがイロウさんにお礼を言わなくちゃいけないくらいです。事務所の立て直しは順調で、今回の事だってイロウさんがいなかったらドロリーがどうなっていたか……」


 だから、これだけは言わせてください。


「ありがとうございます。それから……」


 一拍、ゆっくりと息を吸う静寂を挟んでラッカリカは告げた。


「これからも私たちのことを、よろしくお願いします!」


 あまりにもまっすぐな言葉だった。


 ……普通なら、ここでひっぱたかれたっておかしくないのに。


 まさかお礼を言われるどころか、お願いでされてしまうとは思いもしなかった。


 ここまでされたのだ。

 俺の答えは一つしかない。


「ああ。力を尽くすよ」


 深く頷いて、俺はラッカリカの手を握り返した。


「イロウさん……!」

入浪(いろう)


 瞳を輝かせたラッカリカが今にも俺に飛びついてきそうな、寸前。


 まるで俺たちの間へ冷や水を差すかのように。

 ここまでの顛末を静かに見守っていた久良音(くらね)が冷たい視線で俺を見つめた。


「私というものがありながら、目の前で浮氣とは感心しない。側室が欲しいのなら、まずは私が第一子を産んでからにしろ」

「……いい雰囲気を一言でブチ壊さないでくれませんかね?」

「え? ええ!? お二人って、その、そういうご関係……?」

「そうだ」

「違う!」


 その誤解は今更過ぎませんかラッカリカさん?


 顔を真っ赤にしてオロオロしだすラッカリカの誤解を解こうとする俺の横を通り抜けてトリントとシキータの二人がさっさとテーブルに着いた。


「あらためて初めまして、《氷冷(ひょうれい)姫人(きじん)》さん。あたしたちは別に側室でもいいんで、色々とお話を聞かせてくださ~い♪」

「ぐぐ、酒を目の前に生殺し……限界……イ、イロウどの、お酒をば……」

「お前らは遠慮ってものを知らないのか……!」

「あはは……今更ですが、私たちもご一緒していいですか?」

「……まったく、お前は酒飲んじゃダメだぞ。ラッカリカ」

入浪(いろう)がいいなら私もかまわない」


 はーい、とラッカリカが元気よく返事をして俺の手を取る。


「それじゃ行きましょうイロウさん!」

「分かった。分かったから引っ張るなよっ」


 ラッカリカに手を引かれ、俺はみんなの元へと向かった。


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