第40話 一件落着――意外な接点
「正座だ」
首をかしげた三人に俺は足元の畳を指さした。
有無を言わせるつもりはない。
俺が無言で畳を指していると、やがて三人はおずおずと畳に正座をして、ラッカリカが代表して口を開いた。
「あの、イロウさん……これには」
「大方、ドロリーから久良音の事を聞きつけたんだろ? で、シキータは酒に釣られて、トリントが店に口添えした……って所か」
「うぐ、正解です……」
反論の余地がないとばかりにラッカリカが顔を伏せた。
「当のドロリーは病院のベッドだろうが、クローリスはどうした?」
「あ、クローリスならゲームの公式配信を見るからとお留守番です」
「……まあいい」
誰か一人くらいドロリーに付き添う奴はいなかったのかと思うが、まあ不老の呪いを受けたドロリーなら大丈夫だということだろう。
今やるべきことは――ここにいる覗き魔三人へのお説教だ。
「ひとまず――三人そろって覗き見するのは普通に店の迷惑になるからやめろ」
「「「え、そこ?」」」
他に何があるんだよ?
見ず知らずの第三者ならとっくに排除していたし、相手はラッカリカたちだ。見られて困るようなことなど何もないなら、まずは他所様に迷惑をかけたことへのお説教だろう?
……自分たちも目立つくらい美人なんだからその辺は気を付けてほしいとは思うけど。
というかラッカリカに至っては未成年のはずだ。居酒屋に入っちゃいけないというわけではないが、悪い見本と一緒なのはあまりよろしくはない。
「ハッ……言うねぇ兄ちゃん。自分はこんなべっぴんさんにおごれらてタダ酒を楽しんでるっていうのに、アタシたちだけ除け者ってのは見過ごせねぇ」
「残念だが、ここは割り勘だぞ」
「ええ~……」
残念そうに肩を落とすシキータ。
……仮に久良音のおごりだったとしてもお前の分まで出すわけないだろ。
しかもシキータのこの落胆よう……もしやタダ酒にありつこうとラッカリカたちについてきただけなのか?
「じゃあここは兄ちゃんの飲みかけでガマンするかぁ」
「お前は……まあそれくらいなら」
俺が止めるよりも早くグイっと俺の飲みかけに口を付けるシキータ。しかもこれ見よがしにちょうど俺が口を着けた部分から飲んでやがる……
景気よく「ぷはぁ!」とジョッキを空けるシキータはスルーして、俺が次に視線を向けたのはトリントだ。
俺と視線がかち合うと、待ってましたとばかりに彼女は口を開いた。
「イロウくんの言う通り、確かにお店の迷惑を考えてなかったわ。けど、あたしたちがここまでした理由は、イロウくんにも分かるんじゃないかしら?」
「イロウさん! イロウさんは私たちエピライブの一員なんですよ! それなのに見ず知らずの女性と密室になんて――浮気じゃないですか!」
「何――入浪、いつの間に浮気なんて」
「違います」
ややこしいので久良音は少し黙っててください。
俺は軽く咳払いをしてから脱線しかけた話を戻す。
「どこかで折を見て紹介しようとは考えていたが、手間が省けたようなものか」
「え、まさかホントに……?」
違うって言ったろ。
ラッカリカの声を黙殺して俺は続けた。
「コイツは――って紹介の必要はないか。俺と同じ元開拓者で、今は人気ダンジョン配信者として名を馳せている零姫久良音。俺たちの細かい関係とかはがっつり省くが……まあ、俺たちの師匠を倒すために日夜ダンジョンへ潜っている」
「た、倒すため……?」
動揺するラッカリカから視線を外し、俺はちらりと久良音の方を見る。
自分が説明するより俺に任せた方がいいという判断なのだろう。
久良音は料理を租借したまま静かにこちらを見守っている。
こういう空気はちゃんと読んでくれるんだよね……
そのことに感謝しながら、俺は首肯と共に言葉を続けた。
「そうだ。……お前たちの世界――ラッカリカの国が開拓者を名乗る奴のせいでクーデタが起きたって話はシキータに教えてもらった」
俺の言葉にラッカリカがゴクリと生唾を飲む。
シキータも空のジョッキをテーブルへ置き、トリントは静かに目を伏せる。
……異世界からダンジョンを通じてこの世界へ渡って来る事例は多い。
しかし、反対に――開拓者が異世界へ渡った事例は一件だけ。
「御識麗依」
「――――」
俺が告げた名を聞いて、ラッカリカたちが息を呑む。
それが何よりの証拠であった。
「ラッカリカ。お前の国を襲った開拓者は……俺の師匠だ」




