第39話 一件落着――そろそろ真面目に話しませんか
流石にこれはもう、埒が明かなかった。
久良音もそうだが、ストッパーとして同席させたはずの香流子が泥酔している以上、もう本当にどうしようもなかった。
香流子の顔は真っ赤で瞳は微睡むように瞼は閉じかかっているし言動に妄想が混じって脈絡がなくなっている。
「……なあ。久良音」
俺は嘆息と共にまだ瞳に理性が残っている久良音へ言う。
「香流子の介抱をさせるだけになるなら、俺はもう帰るぞ」
「すまなかった」
トン――バタン!
今にもテーブルを飛び越えて俺に襲い掛かりそうな香流子が、いきなりテーブルへ突っ伏した。
――だからっていきなり手刀で香流子を落とすか……?
居合のような恐ろしく早い手刀である。
しかも一瞬で彼女の近くにあった皿などを避けるマメっぷり。あまりにも突然のことで俺でも見逃しそうになった。
「これでもう一つの本題に入れるな」
「……ここまでの話で本題になるようなものがあったか?」
「私たちの将来について」
「もう一つの本題に入ろうか」
突っ伏した香流子を放置して平然と言う久良音に戦慄しながら俺はそれ以上の追求をしなかった。
……香流子が落ちた以上、今はオレと久良音の二人っきり。
藪をつついて毒蛇の餌食になるつもりはない。
スースーと寝息を立て始めた香流子の隣で、久良音は静かに食べていた料理を飲み下してからゆっくりと口を開いた。
「入浪――ダンジョン配信を始めたようだな」
……まあ、お前ならソコを気にするよな。
予想していた問いだ。
俺はすぐに首を横に振って答える。
「いいや。サポーター、いやプロデューサーになっただけだ」
「インフラ整備士は?」
「クビになったよ」
淡々とした問いに、俺もまた淡々と答える。
久良音は実直な性格だ。
回りくどい駆け引きなんてモノは好まず、ゆえに俺は彼女が次に投げかけてくる言葉も分かっていた。
「入浪。私と共に配信者を――」
「断る」
遮るように俺は告げた。
「さっきも言っただろ。俺はもう冒険はしない。ダンジョンから離れられないのは単純に俺の経歴だとそれ以外の仕事がないってだけだ。今回の未開拓エリアでの戦闘だって、あくまでも緊急時の処置だ。好き好んであんな場所になんか行かない」
「しかし……」
「それに言っとくが、まだ今の事務所に入って三日も経ってないんだ。事務所に住み込みの状態だし、お前の誘いにホイホイついていくわけにはいかないんだよ」
……え、ウソだろ。
まだ三日も経っていなかったのか……?
自分の言葉に自分で戦慄しながらも、俺は平然を取り繕って席を立った。
「待ってくれ入浪……!」
「第一、他の事務所から人員を取ろうって言うなら」
久良音の制止を待たず、俺は座敷の襖へ手をかける。
「覗き見してるウチの社長らに何も言わずってワケにはいかないだろ」
「あらっ?」
「うわっ!」
「きゃあっ!?」
バタバタバタン!!
俺が襖を開け放つと、よく見知った顔ぶれがなだれ込んできた。
「いたた……あらイロウくん。こんな所で奇遇ねぇ~」
「おう兄ちゃん。一人でタダ酒は捨て置けねぇな」
「ぐ、ぐええ~……重いですぅ~……!」
なだれ込んできたのは三人。
上から順番にトリント、シキータ、ラッカリカ。
下敷きになって苦しそうにもがいている我らが社長を差し置いて上の二人が何でもないような口ぶりで俺に手を振ってきた。
……いや、先に自分たちのお姫様からどいたら?
あまりにもあんまりな登場に俺が冷ややかな視線を向けると、弁明するようにラッカリカが声を上げた。
「あ、あの。えっとですね。その、イロウさん。これにはワケが……」
「紹介するよ久良音。この一番下で潰れたカエルみたいになっているのがウチの社長であるラッカリカだ」
「せめて助けてから紹介してください~ッ!」
……それもそうだな。
本当に苦しそうにしているラッカリカの言う通りである。
倒れ込んだ三人を起こしてやると、ようやくトリントとシキータの下敷きから解放されたラッカリカが大きな嘆息を吐き出した。
「た、助かりました……」
「おい、なに普通に立ち上がってる?」
「「「え?」」」
「正座だ」




