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第33話 分刻みの生存戦略

 後退は俺の意思によるものじゃない。


 第三者の介在。

 身体の自由はすぐに戻ってきて、俺は続く追撃を直刀で弾いてカマキリ型のモンスターと距離を空けた。


 ――記憶に新しい感覚だ。


 俺はすぐに()()()()()()()()()()へ文句を飛ばした。


「ドロリーッ! 操るならゴーレムみたいにモンスターの方にしろ!」

「できない。あれは鈍重なゴーレムと違う。鎌で斬られた」


 なら俺はゴーレムと同じカテゴリなのかよ……?


 俺が吐き捨てるよりも先にドロリーが続けた。


「援護する」


 瞬間、火球がモンスターに炸裂した。


 空洞を照らすのにも使った魔法だ。

 それを弾幕のように次々とモンスターにぶつけ、モンスターが悲鳴を上げる。


「こっちはいい! ドロリーは二人を――」

「やってる」


 声を荒げる俺にドロリーが平然と応じる。


 その証拠とばかりに、ホルモンとふわんちを守るように障壁が展開されているのが垣間見えた。

 間違いない、あれは俺も知ってる防御魔法のモノだ。


 二人を守り、空洞を照らす火球もそのまま。


 その上でドロリーはモンスターへの反撃と、俺の援護までやってのけたのだ。


 ……二つの魔法を維持しながら、さらに魔法を同時に唱えるとは。


 さすがは大魔女さまってやつか。


 俺や配信者の扱うアプリで同時に発動できる魔法はせいぜい二つ三つが限度。

 それ以上は使用者もそうだがアプリの処理能力を超えてしまう。


 ドロリ―の芸当は、アプリによる魔法詠唱と同時にドロリ―自身の魔法を行使して処理能力の限界を超えた数の魔法を唱えて見せたのだ。


 まあ、ドロリ―のことだからアプリを使わずにこれくらいはできそうだけど。


「動きを止める」


 全ての魔法を維持しながらドロリ―が新たな魔法を唱えた。


 火球の弾幕によろけながらもなお俺たちへ向けて大鎌を振り上げるモンスター。

 その足元から、突如として岩石がせり上がった。


 モンスターの甲殻は固い。

 岩石程度であれを砕くことはできないが、ドロリ―の目的はそこじゃない。


「シャア、シャシャッ?」

「これで、動けない」


 無数の刺のようにせり上がった岩石がカマキリ型の細い手足を挟み込む。


 ドロリ―の目論見は直接攻撃じゃない。


 モンスターの動きを()()()()()()のものだったのだ。


「とどめは――」

「俺がやる」


 ドロリ―が更なる魔法を唱えるより早く、すでに俺は地を蹴っていた。


 直刀を袈裟懸けに担いだまま、低い姿勢で飛び出す。

雷装武鎧ボルテクション・ガイル》の紫電が刃と俺の両足へ集中し、今の俺に必要な恩恵をよこした。


 つまり、加速と鋭さ。


 ――すでに狙う場所は決めた。


 ドロリ―がトドメの魔法を唱えるよりも、モンスターが彼女の妨害から逃れるよりも早く、俺の身体は()()()()()()


 一閃一刀。


 一筋の閃光が駆け抜け、その刃を振り抜いた。


「――――ふう」


 次に俺が地に足を着けたときには、斬撃の音と共に撥ね飛ばされたモンスターの首が地面に転がっていた。


 ……思ったより斬りやすかったな。


 甲殻を断ち斬った感触もなかったから、どうやら武器である前脚はガッチリとガードしているものの、首の関節部まではガードしていなかったようだ。


「す、すごい……」「あっさり倒しちゃった……」

「二人とも油断はするな。ここのモンスターがコイツ一体とは――」


 呆然と結末を見届けた二人へと俺は釘を刺すように声を投げる。


 それに対し、異を唱えるかのようにドロリ―が言葉を挟んだ。


「イロウ、焦ってる?」

「ッ――何にだよ?」


 思いもよらない指摘に俺は眉を寄せる。


 ……俺が焦ってる?


 こんな状況だ。

 ()()()()()()()()


 ダンジョンのインフラが届かない未開拓エリア。

 いつ何が起きるかも分からない場所に迷い込んでいる以上、一刻も早く脱出を図るか救助を待つしかない。


「全員で生きて帰るんだ。そのために――」

「なら、さっきは全員でかかった方が効果的だった」

「…………」

「そこの二人はよく知らないけど、少なくともドロリーは強い。イロウだってちゃんと思い知っているはず」

「「ガーン!?」」


 ホルモンとふわんちがショックを受ける。


 俺はそれを背中で聞きながら、新たなモンスターが出現しないか周囲を警戒を続けていると、ドロリーは構うことなく率直に言葉を続けてきた。


「責任感……? ううん――()()()()()?」

「ッ……お前いい加減に――」


 それ以上はいくら彼女でもプライバシーの侵害だ。

 我慢できないと俺が後ろへ振り返る。


 しかし、飛び出したのは文句ではなかった。



()()()ッッ!!」



 警鐘。


 すぐにドロリーが背後へ振り返る。

 即座に俺も援護へ回ろうとするが、いくらなんでもここからじゃ遠すぎる。援護は間に合わない。


「――だったら!」


 全身に纏った電撃を直刀へ一点集中。

 迷宮で使った《バンカーボルト》の要領でひと思いに投擲する。


 だが、その時にはもう。


 ドロリーの背後に降り立った()()()()()()()()が、ドロリ―へ大鎌を振り下ろしていた。


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