第32話 冒険の最前線
「上だ――ッ!!」
――未開拓エリア。
その名の通り、誰一人として足を踏み入れたことのない未知のエリアである。
本来なら開拓者がチームを組んで入念に準備と警戒を重ねた末に足を踏み入れて踏破していくべき、人類の冒険における最前線の世界。
――二度と、こんな場所に踏み込む気なんかなかったんだがな!!
「《選択武装》――《ブレード》!」
即座に得物の直刀を取り出して、上空から襲い掛かってきた未知に応戦する。
普通ならば開拓者のみが探索を許される未開拓エリア。
そこへ配信者が迷い込んでしまった場合の選択肢は一つだ。
インフラによる通信を失ったカメラゴーレムが停止すれば、すぐに配信が途絶えてギルドが俺たちの状況を察知する。すぐさま救助隊を手配してくれるが、どんなに早くとも救助が駆けつけるまでに五分はかかるだろう。
つまり。
俺たちはその五分を、全力で生き抜かなければならないのだ。
「キャアアアアアアアァァッッ!?」
「……カマ、キリ。なのか?」
「見た目通りなら楽なんだが、なッ!」
ガキィン!
上空から振り下ろされた刃を俺の直刀が弾き返す。
悲鳴を上げるふわんちと戦慄するホルモン。
飛来した未知のモンスターは俺の返す刃による反撃を飛び下がって後退し、仕切り直すかのように俺の前に姿を露にした。
……確かに、その姿はカマキリに近いだろう。
ただ、全長数メートルは超える巨大カマキリであったが。
ドロリーの火球に照らされたのは、よく見るカマキリのそれだ。
ダンジョン内ではこっちの世界の生物に近いモンスターもよく発見されるが、カマキリ型のモンスターは俺も始めて見るな。細見ながらも堅そうな体躯に特徴的な逆三角形の頭はよく知る昆虫のそれだ。
……けど、あれじゃ昆虫とは言えないか。
「シャアアアアアアッッ!!」
こちらを威嚇するように振り上げられた前脚の数は四本。
モンスターの身体を支える四本の脚の他に、あのモンスターはカマキリと同じ大鎌の刃を有した四つの前足を持っていたのだ。
「おい、オレたちも加勢に――」
「ダメだ! 自分たちの安全を最優先に考えろ!」
……俺たち四人は突発コラボで知り合ったばかりだ。
彼ら二人組の実力を侮るつもりはないが、まだ実力はおろかどんな戦い方をするのかも分からないし、俺もドロリーとは連携をとったことがない。
四人対一体という手数の優位を捨てる形になるが、モンスターが一体だけなら俺一人でも抑えられる。
ここでやるべきは、襲い掛かるカマキリ型のモンスターを倒すことじゃない。
「全員で生きて帰る! そのためだけに全力を尽くすんだ!!」
俺たちが果たすべきは――生存。
間違っても冒険なんかじゃない。
何の対策もなしに未知へ挑むなど、ただの自殺志願者かよほどのモノ好きな異常者のすることだ。
俺たちはダンジョン配信者とそのサポーターであって、ここの開拓を命じられた開拓者ではない。
頼まれてもいない未知への挑戦で報酬が出るはずもなく、そういうことは本職に任せるに限るとうもの。
――まあ、だからって。
「やられっぱなしなのも癪なんだがな! 《選択武装》!」
言葉と共に俺は駆けだす。
モンスターが次の動作へ入るよりも先に突貫を仕掛けた。
「《雷装武鎧》!」
続けざまに呼び出した武装――鎧武者の防具を模した電撃をその身に纏い、魔法制御による電撃の恩恵を受けて俺は一気に加速する。
「シャアアアアァァッッ!?」
「――まずは、一発!」
今度はモンスターが応戦する番だ。
電撃の恩恵を受けて加速した俺に、四つの大鎌が襲い掛かる。
四つの刃でこちらを的確に追い詰めていく連続攻撃。直撃すれば腕の一本は覚悟した方がいい大鎌は厄介だが、避けきれない速度じゃない。
モンスターの乱舞を掻い潜り、奴の懐へと飛び込む。
ザン――ガキィン!
「なッ……関節の内側も硬いな!?」
紫電の残滓を伴った二つの斬撃は、あえなくモンスターに弾かれた。
大鎌を振るう前脚の関節、明らかに堅そうな外殻を避けてあえて内側を狙った一撃だったというのに、成果は軽く飛び散った火花と痺れるような手ごたえだけ。
――他の関節もガードされてるとしたら、かなり厄介だな。
懐に潜り込んだ俺を追い払おうとモンスターが大鎌を振り回す。
何度か弾いたり受け止まりしてみたが、やはりヤツの獲物を斬り落として無力化することは難しいな。
だったら、その巨体を支えている方の後脚を――
「ダメ」
制止の声と、俺の意識外から迫る反撃の大鎌は同時だった。
――しまったッ。
ドロリーの声にハッとする。
モンスターの攻撃を弾き、返す刃で後脚へ斬り込もうとした寸前のこと。
俺が弾いた大鎌の奥からもう一振りの大鎌が俺の首を狙ってきていたのだ。
クソ、このタイミングじゃ回避は間に合わない。
とっさに斬り込みを中断。即座に大鎌を直刀で受け止めようとして――
それよりも早く、俺の身体は勝手に後退を選んだ。




