第31話 配信の撮れ高はいずこに
「そろそろこのあたりか……?」
「ドロリー、いい加減に降りろ。そろそろみたいだ」
「ぐう……」
「狸寝入りは気付いてるぞ」
「楽だったのに……」
俺が疲れるんですー
不満たらたらでも大人しく俺から降りるドロリー。
俺たちがひと悶着している間にも、二人はすでに周囲の観察へ入っていた。
「……なんの変哲もねぇな。ふわんちは何か見つけたかー?」
「ううん、ホルモンといっしょだねぇ~むむむ、ちょっと前の噂だったから撮れ高候補の一つにしてたのに、まさかもう誰かが探しちゃった後かな?」
「噂……? こんな所に何があるんだ?」
俺も聞いたことがなかった
彼らの言うように、ここは何の変哲もないごく普通の迷宮だ。
そこにどんな噂があるのかと俺が首をかしげると、男――配信者名をホルモンというようだ――が答えた。
「オレらが配信を始める直前にSNSで噂が流れてたんだ。曰く……このあたりの構造が変わってたって」
「構造が……?」
それはダンジョンでは珍しいことでもない。
世界中に入口を作り、さらには異世界にも繋がるダンジョン。
それは時折、生き物のように内部の構造を変えることがある。
基本的にはエリアが大きくなったり知らない小部屋が出来たりする程度だが、時折としてまだ見ぬエリアが生まれることもあれば、エリアとエリアが合体したりする。
特にここ扉の間はそこら中にある扉が、ある日突然どこか別のエリアと繋がったりもするので他のエリアよりも上級者向けのエリアと区分されている。
……余談だが、この迷宮にある扉に仕組まれた魔法の一部を解析してできたのがダンジョン内のワープ機能だったりするが、それはまた別の話だ。
問題は、構造が変わって何が出現したのかだ。
眉を寄せる俺に今度は女――ふわんちが目を輝かせながら続けた。
「そう! ギルドも事実確認と調査隊を準備してるって話もあるし、それよりも早く探索してお宝と撮れ高をたんまりもらっちゃおうって算段なの!」
「いや、それは――」
マズいんじゃないのか。
俺の警鐘は一歩遅かった。
『あ』『おい足元!』『これまさか』
真っ先に気が付いたのはカメラゴーレムのコメントたち。
続けて気付いた俺がドロリーを抱き寄せる。
すぐに二人の方へ声を「逃げろ」と声を出そうとしたが、その頃にはもう彼らの姿はなかった。
「クソッ! ドロリー、糸で引き」
「ダメ……空間が途切れる」
わずかに顔をしかめたドロリーの言葉と共に。
俺たち全員が足元に出現した扉に落ちてしまった。
「うわあああああああッ!?」
「きゃああああああッ!?」
「だったら着地だ! どうにか衝撃を」
「もうやってる」
落下する俺の腕の中でドロリーが身じろぎする。
瞬間、上昇気流が俺たち全員をすくい上げるように吹き抜けて落下速度を軽減した。
ドロリーの魔法によるものだ。
ホルモンとふわんちの二人はまだパニックになっているが、数秒の落下の末に俺たちは無事に着地することができた。
「うお痛――っく、ない?」
「うええぇ、お尻打ったぁ……」
どうやら彼らも無事だったようだ。
すぐ近くで二人の声が聞こえたが、いかんせん暗がりでは場所が……
「ん、明るくする」
俺が暗闇に目を慣らそうとするより早くドロリーが魔法を唱えた。
彼女が放ったのはバレーボール大の火球だ。
本来は敵にぶつけるための魔法をドロリ―は器用に操作し、俺たちの頭上で制止させてその炎で周囲を照らし出す。
炎で照らされた周囲は……洞窟のような広い空洞の中であった。
「なんだここ……最初の洞窟、にしてはえらく広いな」
「でも……なんだかここ、あそこと印象が違う感じがする」
「……全員、一か所に固まれ。ドロリーは防御魔法を頼む」
呑気に周囲を観察するホルモンとふわんちとは対照的に俺は生唾を呑んだ。
開けた空洞、頭上に俺たちが落ちてきた扉が見えないということは、どうやらあれは一方通行のトラップだったと考えるべきだろう。
……最優先は出口を見つけることだが。
そんな予断を許される状況じゃなかった。
固唾をのんだ俺の先にあったのは、地面に墜ちた二機のカメラゴーレム。
カメラゴーレムはダンジョン内に張り巡らされたネット環境に接続している時だけ起動する設計だ。
俺たちのモノと二人のモノ。どちらかだけなら単純な不具合という可能性も考えられたが、それが同時に機能を止めたということは――ここにはダンジョンにあるべきインフラがないということ。
つまり。
「おいおい……カメラゴーレムが」
「え、じゃあ配信も」
「とっくに停止しているよ」
ようやく異変に気付いた二人に俺は告げる。
ここは、ギルドによって端正に整備されたダンジョンじゃない。
正真正銘、いまだ人の足が踏み入れたことのない冒険の最前線。
未開拓エリア。
「上だ――ッ!!」
前人未踏の未知が、鋭い羽音の脅威となって俺たちへ襲い掛かった。




