第29話 ダンジョンはみんなのダンジョンです
「《魔法詠唱》」
アプリのショートカットワードを告げて俺は駆け出す。
真正面に見えるのはダンジョンゴーレムの背中。
迷宮の石材を主食にしているためか、周囲の光景と同化しているようにも見えるが、当然くっついている訳じゃない。
――狙い目は足元か、ドロリ―が乗っている肩だな。
ダンジョンゴーレムの動きは鈍い。
踏まれるリスクもあるが、ゴーレムの足元を一気に駆け抜けるのが最短コースになるだろう。
……さんざん魔法で驚かされたんだ。
少しくらい仕返しをしても、誰も怒らないだろうよ。
「《ライトニングステップ》」
力強く地面を蹴飛ばし、俺は魔法を発動させた。
電撃を纏うことで稲妻の如き加速を得る身体強化の魔法だ。
その恩恵によって俺は一気にドロリ―のいるゴーレムの肩へと登った。
「……ッ、魔法」
「かの大魔女様にお見せするには、ちょっと簡単すぎるモノだけどな」
いきなり並び立った俺に驚くドロリ―。
俺はそれに軽口で返しながら前方を見据える。
「おイタはそこまでだ」
ダンジョンゴーレムの背中を超えた今、その先を遮るモノはない。
進行方向はちょうどまっすぐ道なり。
ここまでドロリ―の操るダンジョンゴーレムが暴挙を続けたせいもあってか、慌てた様子のモンスターたちがゴーレムの行く手を阻んでいた。
見える範囲では、その数十体程度。
幸か不幸か、他の配信者の姿はない。
俺は一瞬で目算を終えて、次なる魔法を撃ち放つ。
「《バンカーボルト》」
唱えた魔法が撃ち放つのは、電撃。
五寸釘のような形状で射出された電撃の弾幕が、銃弾を超える速度をもってしてモンスターの群れに襲来。モンスターそれぞれの急所だけを的確に撃ち抜き、進行方向の標的を全て撃破して見せた。
「……うそ。いや、でもまだ――」
「いいや、これはやりすぎだ」
呆気にとられながら俺の魔法を見ていたドロリ―が次なる手に出ようとダンジョンゴーレムへ指令を下す。
だが、それにゴーレムの巨体は答えない。
『ン、ゴゴ……ン~ゴゴォ……』
ズシン、ズシン、とダンジョンゴーレムの快進撃がゆっくりと減速していき、やがてその巨体が膝を突いて停止した。
ゴーレムが自分の制御を離れたことで驚いたのだろう。
はじめて動揺するように目を見開いたドロリ―。
そんな彼女の足元が音を立てて崩れ始めるよりも早く、俺はドロリ―を抱きかかえてゴーレムの肩から飛び降りた。
「ゴーレムを、倒した……?」
『え、なに今の……?』『全部一発で倒したぞ』『急所を狙った?』『そんな威力のある魔法だったっけあれ?』『というかエイムどうなってんだ?』
お姫さまだっこの要領で俺に抱えられたドロリ―が唖然と呟く。
彼女の声にコメントの困惑が続く中、俺はそれらに肯定で答えた。
「お前も知っての通りゴーレムの巨体は頑丈だが、内部にある魔法機関を破壊してしまえば自分の身体を支えきれずに呆気なく崩壊する」
ダンジョンゴーレムを破壊する際のセオリーだ。
……ま、普通なら複数人で戦略を立てたりするもんだが。
それはゴーレムがドロリ―の制御下にあったことが幸いした。
普通なら真正面から戦闘に入る所だったのを、背後からゆっくりと弱点を探すことができたからな。
その分、弱点を見つけて介入するまでに時間がかかってしまったが。
「……それで、やりすぎって?」
「ここはダンジョンなんだ。俺たち以外にも配信者がいる」
ドロリ―を降ろしながら俺は周囲を見回す。
ダンジョンゴーレムが停止したことで迷宮内にはいつもの静寂が蘇っていた。
ゴーレムの残骸は小さな瓦礫の山となっている。
その巨体が進んできた後ろは倒されたモンスターの残骸もそのままだ。
そして、ダンジョンゴーレムが進まなかった曲がり角や扉の中から、
「や、やっと収まったか……?」
「なんだったんだ今の?」
「……どうも誰かがゴーレムを暴れさせていたらしいな」
ポツポツと他の配信者たちが顔を出してきた。
間一髪でダンジョンゴーレムの進撃を逃れたのだろう。
皆一様に冷や汗を拭いながら顔を出して状況を窺っていた。
……ドロリ―も被害を出さないよう意識はしていただろうが、怪我人がいなかったのは幸いだったな。
「あ…………」
「派手にやるのも配信として見ごたえがあるのは確かだが、他の配信者たちの配信を邪魔するのは色々と問題になる」
ようやく自分の失態に気付いたドロリ―が後悔の声を漏らす。
流石は大魔女様だ。
すぐに自分の失態を反省した彼女の頭を撫でてから、俺は他の配信者たちへ声をかけた。
「お騒がせしましたーッ! お詫びと言ってはなんですが、余った戦利品はどうぞご自由にお持ちください!」
ダンジョン配信では他人の配信を邪魔してしまった場合はお詫びに戦利品を分けるのが通例である。
そもそも今回は俺たちだけで持ち帰るには多すぎるし、そのまま捨て置くなら誰かの儲けになった方がいいだろう。
『あざ~!』
俺の宣言を聞いて続々と配信者がモンスターの残骸を片付け始める中、黙って様子を見守っていたドロリ―が念話で問いかけてくる。
『いいの?』
『どうせ俺たちだけじゃ余るだろ』
それに、持ち帰るお宝はちゃんと見定めないとな。
ダンジョンゴーレムのコアなどはギルドが素材として重宝しているし、それにもう一つ。俺には目を付けているモンスターがいた。
……ボスモンスターほどじゃないが、ちょっとレアな個体である。
ちょうど俺が倒したモンスターの中にいたんだよなぁ……まあ俺の給料になるかは配信後にラッカリカやクローリスに相談する必要はあるんだが、少しくらいボーナスに――
「ああーッ! オレたちの獲物がやられてるー!?」




