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第27話 ボスモンスター

「……ダンジョンゴーレム」


 地響きで揺れる自分の胸から視線を外し、ドロリ―が呟く。


『げ、ゴーレムだ!』『いきなり大物が出てきたな……』『しかし見るたびに思うが扉の間はコイツには狭すぎるだろ』『いくらここの石材が主食だからってギチギチだぞ』『俺ならミチミチで動けないな』『それは瘦せろ』


 俺たちの前に現れたのは、石材でできた巨人。


 その名をダンジョンゴーレム。

 RPGなどでよく見る人型のゴーレムで、コメントでも言われた通りここ扉の間を構成する石材を好んで食すため巨体で狭い通路に生息するモンスターである。


 しかし、石材で構成されたその巨体は非情に固く、並の攻撃では傷一つ付けられないほどの防御力を誇る。物理攻撃は勿論、生半可な威力の魔法も通用しない上に、だいたい三、四メートル四方の狭い通路でもお構いなしに巨腕を振るってくるので厄介なボスモンスターに挙げられる。


 ……まあ、その分動きが鈍いから戦闘を避けるのがセオリーなんだよな。


「完全に道を塞がれたな……ドロリ―、ここは一旦引き返して」

「問題ない」


 引き返そうとした俺の提言を遮り、ドロリーが動いた。


 彼女の行き先は()()


 まっすぐにダンジョンゴーレムへと走り出したのだ。


「このままスタート」

「はぁ――ッ⁉」


 まさかアイツと戦うつもりなのか⁉

 驚く俺をよそに、ドロリーはトトトーっとダンジョンゴーレムが行く先をふさぐ交差路へ駆けていく。


「落ち着けドロリー! そいつはそこらの土くれとは」

「分かってる」


 いくら鈍重といっても自分から向かってくる外敵を無視するほど石材の巨人ものんびりとはしていない。


 奴に目があるかどうかは知らないが、頭であろう部分を動かしてドロリーの存在を認知し、すぐに拳を振り上げた。


 迷宮内を動けるギリギリの体躯であるにも関わらずその動きはとてもコンパクト。

 小柄なドロリーならば容易く粉微塵にできそうな石の拳を、最低限度の動きで容赦なく眼下のドロリ―へと叩きつける。


 機械的なまでの排除行動に対し、ドロリ―は動かない。


 違う。

 動けないのだ。


 そもそもドロリ―は魔女、つまり魔法の専門家である。

 騎士団長をやっていたというシキータとは裏腹に、本来なら前へ出て行くような戦闘はしない。遠距離から魔法を駆使する生粋の後衛職なのだ。


 ゆえに、ドロリ―自身はゴーレムの一撃を避けることも、防ぐこともできない。


 完全な無防備。

 直撃は不可避だ。


 しかし、拳がドロリ―を砕くことはなかった。


「これは石製」

「……そういう話ではなかったよな?」


 平然と語るドロリ―の眼前には、ピタリと制止したダンジョンゴーレムの拳。


 俺の言葉に反応を示してこちらへ振り返ったドロリ―の背で、今まさにその巨体による猛威を振るわんとしていたダンジョンゴーレムが、まるで糸が切れたかのように固まっていたのだ。


 ……そりゃ、何の策もなしにモンスターへ飛び込むほど馬鹿でもないんだ。


 あと、正確に言うなら『糸が切れた』ではない。


 ()()()()()()のだ。


「……だいぶ古い術式。これくらいのなら、細部にいくらでも隙がある」


『おおおおおおおおっ!?』『ダンジョンゴーレムをあっさり』『やっぱりすごいぜドロリ―はよ!』『何やったかなんてさっぱり分かんないけど!』


 戦闘が始まらずして終わったと気付いたのか、しれっと安全圏まで退避していたカメラゴーレムが戻ってきて、リスナーのコメントが怒涛のように明滅する。


 ……同じモノを食らった俺には分かる。


 あれはドロリ―の糸だ。


 魔力で生成した糸で対象を絡め獲り、その神経系などに干渉して術者の意のままに操る魔法。

 俺の身体の自由を奪って好き放題やらかした彼女の十八番である。


 あの巨体もゴーレムだ。

 ゴーレムは自律的に編まれた魔法による制御で動いているのは同じ技術を扱う俺たちも把握している。

 きっと人間を意のままに操るよりも手駒にするのは容易だったはずだ。


「まさか初手からボスモンスターを倒してしまうとはな。どうするドロリ―? ボスモンスターの得点はどれくらいに」

「おすわり」


 俺が言い終えるより早く、ドロリ―はゴーレムへ指令を下した。


 ズシィン、と反抗することなくゴーレムがドロリ―に跪く。差し出された手のひらを足場にひょいとドロリ―がゴーレムの肩へ飛び乗ると、『ンン~ゴゴォ!』とゴーレムがサムズアップするようなポーズで立ち上がった。


 あの巨体には狭い通路内でよく……あ、やっぱり天井にぶつかった。


 どうやらドロリ―は制御下に置いたダンジョンゴーレムを使役してモンスターを倒す目論見らしい。


 ゴーレムの肩に乗ったドロリ―が地上にいる俺を見て「フッ」と微笑する。


 ……あ、なんか嫌な予感。


 ドロリ―と出会ってからまだ一日も経っていないが、表情の変化に乏しい彼女にもそれなりの喜怒哀楽があるのは分かっている。


 その浅い経験則から考えるに、あの微笑の意味は……優越感。


 またの名を、勝利の余裕とも呼ぶだろう。


「おい、ドロリ―? お前まさか」

「れっつごー」

「やっぱりかああああッ!!」


 俺の危惧したことはすぐに現実となる。


 ドロリ―を乗せたダンジョンゴーレムがこちらに背を向けて、俺を置き去りにしたまま迷宮内で快進撃を始めたのだった。


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