第26話 今日の配信は――
時に、ダンジョン配信者が伸びる要因として主に二つのパターンがある。
一つはもちろん企画やトークの上手さだ。
配信をしながらダンジョンを冒険すると言っても何をするかは配信者の自由。
ならば、そこでどんなことをするのかによって人気を得られるのかはダンジョンでもそれ以外の配信でも一緒である。
そして、もう一つは――単純な強さだ。
チカラ、技術、実力。強ければ当然ダンジョンの奥まで潜ることができるし、本格的な冒険をリスナーが見ることができる。
言ってしまえばゲームのスーパープレイなどの需要の延長だ。
ドロリ―のトークがゲーム配信から考えるに壊滅的。
大魔女だと言われるだけあって魔法の実力は高いのだろうが、おそらく、彼女が人気の理由は簡単だ。
上記の二つや、何かしらで話題になったりすることの他にダンジョン配信者が伸びる要因になることがある。
単純明快。
外見だった。
「……なるほど、この外見でしかも実力があるから目ざとい人たちが集まったと」
『そうそう!』『あんな魔法メンシの最前線攻略とかでしか見られないし』『基本ソロだから純粋に魔法だけ見られる』『しかもカワイイ!』『ちっちゃいのにでっかい!』『滅多に配信しないのが残念すぎる』
「ん。ドロリ―はすごい」
「ああ……確かに、ドロリーはすごいな」
大きな胸を張って自慢するドロリ―に俺は頷いて同調する。
「だから、今日はその実力を見せてもらおうか」
配信開始してからしばらく。
多少のアクシデントはあったモノの、俺たちはダンジョン内のワープを使って別のエリアへと向かっていた。
やってきたエリアの名は『扉の間』。
シキータと配信をした洞窟とは打って変わって、こちらは石材で囲まれた迷宮のような通路と、その名の通り大量の扉が立ち並ぶエリアである。
配信者の間では中級者向けにカテゴライズされていて、今しがた使ったエリア間のワープはここにある扉の魔法を解析したシステムであったりする。
危険度ではもっと深い場所の方が高いが、通路に並ぶ大量の扉は時折予想もつかないエリアに出ることもあるためどんな実力者であっても油断ならないエリアだ。
……それにしても。
『ドロリ―。お前の配信なんだからお前がメインで話してくれよ』
『ドロリ―よりイロウの方がスムーズ』
いやリスナーが話をしたいのはドロリーなんだよ。
念話ですらにべもない態度で先を進むドロリ―。
配信開始からというもの、俺がリスナーにドロリ―の配信について質問したりしていたら、いつの間にか当のドロリ―が自分から蚊帳の外へ行ってしまっていた。
拗ねているようにも見えるが、あれは「任せる方が楽」だから押し付けているつもりなのだろう。
……まあ、普段の配信でもほとんど喋ってなかったらしいからな。
ゲーム配信での惨状を見て分かってはいたが、ドロリ―はやはり配信者向きの性格ではないようだ。
ドロリーの人気は、魔法技術の高さとそのビジュアルにある。
つまり企画やトークを期待しているリスナーもほぼゼロで『画角にいるなら満足』といった空気だ。これではダンジョン配信者の配信というよりは、ただ客寄せパンダが画面に映っているだけの配信であった。
『ドロリ―かわいい』『いやえっ』『かなりえっだよこれ』
しかも、リスナーのコメントも少し品がなかったりする。
オーバーサイズのパーカーとショートパンツのコーデは、本来なら身体のラインが隠れそうな所を大きな胸の存在感がありすぎてバランスが良く見えている。
その上で、ショートパンツがパーカーで隠れているせいか「スカートを履かずにきました」みたいな際どい映像になってしまっていた。
……俺も男だ。
大部分が同性であろうリスナー諸兄の言いたいことは分かる。
しかしね、これ……センシティブ判定されたりしないよな?
『見え……見え』
ちらほらとコメント欄にその手のハプニングに期待するリスナーのコメントが流れてくるが、残念ながら見えるとBAN対象なんだよねぇ、これが。
なので俺はさりげなく見えそうな画角からドロリ―を動かしつつ、今日の本題をドロリ―に切り出させる。
「それで、今日はこのエリアを探索するのか?」
「勝負」
待ってましたとばかりにドロリ―が俺に振り返った。
「モンスターをたくさん倒した方の勝ち」
「ええ……いや、俺はただのサポー」
「勝った方は負けた方になんでも要求できる」
『「はあ!?」』
俺とコメントの反応が重なった。
いきなり何を言い出すのか。
いやそれ以前にドロリ―は言っていることの意味を分かっているのか?
『……ひょっとして、ゲームでコテンパンにされたのを根に持ってるのか?』
『ドロリ―が勝ったらイロウをドロリ―のおっぱい置き場にする』
それは勘弁してくれ……
しかし、特にプランもなくダンジョン配信を始めたので他にやることもないのは事実だしなぁ……他にやることも決めてないし、ここは受けるだけ受けて――
と、俺が内心で打算を付けていると。
――ズシン。
「あ、揺れた」
「……げ」
いきなりお出ましかよ……
扉の間は迷宮の通路が交差し、階段で上下する非情に入り組んだ構造だ。
通路はそこまで広くないため生息するモンスターもそこまで大きくはない。
だが、ただ一体だけ。
この迷宮ならではのボスモンスターがいた。
ズシン、ズシン。
通路の曲がり角、その向こうから続く地響きが迷宮を揺らす。
そして、曲がり角を巨大な手が掴んだ。
『ンン~ゴゴオオーォッッ!!』




