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第25話 ダンジョン配信者ドロリー

 どうにか話がまとまったのは良かったが、いつの間にか時刻は午前五時。


 すでに窓の外は朝焼けで空が色付いていて、ソシャゲのログインボーナスを受け取るために起きてきたクローリスに見つかってその場はお開きとなった。


 ちなみに、場をにぎやかすことしかしていなかったトリントだけクローリスからお説教を食らい、さらには朝からバイトがあったらしい。


 南無……


 そんなトリントを早々に見捨てた他の面々は部屋に戻って仮眠を取り、俺は昼前に起床してから約束通りダンジョン配信をするためにギルドへと向かった。


「く、口車に乗せられた……」


 ……仮眠をとったせいか、すっかりとやる気を失ったドロリ―を連れて。


「疲れた……日差しがつらい……ギルドがこんなにも遠すぎる。ドロリ―の冒険はもうここまで。今ならまだ引き返せる」

「まだギルドにも着いてないだろ……」


 あまりにも虚弱すぎる……


 というか、不老でも運動不足になるものなのか?

 まあ、おそらくは単に怠けているだけなんだろうけど。


 俺の()()()()聞こえてくるドロリ―の呻き。

 バスに乗る所で早々にダウンした彼女を背負ったまま俺は大きく嘆息を吐いた。


 ……疲れたのは俺の方だっての。


 移動はほとんどバスだったし、ドロリ―は小柄なので軽い。


 だというのに背中に押し付けられる大きな胸の感触はずっしりと柔らかく、むき出しの太ももを抱えているため、変な気を起こさぬよう全力で己を律するので手一杯であったのだ。


「イロウの背中、おっきい」

「そりゃお前に比べたらな」

「ん、イロウも役得」

「……無駄な労働の間違いだろ?」


 俺が色々と耐えているというのもお構いなしにドロリ―は身体を預けてくる。


 ……出会った時から思っていたがドロリ―の奴、俺の反応を楽しんでないか?


「配信で、こっちの世界ではドロリ―にも需要があると聞いた」

「……だから?」

「ドロリーは楽をする。イロウはドロリ―で楽しむ。ウィンウィン」

「お前の一人勝ちにしか聞こえないって……」


 それと需要うんぬんのコメントをした輩はプロデューサー権限でBANしてやる。


 やいのやいのと言いながらも、すでにギルドは目と鼻の先だ。


 ものの数分も経たず俺たちはギルドに到着。

 今日はちゃんと事前に配信予約をしていたのでスムーズに手続きと準備を終えて、改札を抜けてダンジョンの入口に向かった。


「ドロリ―。もういいだろ? 配信が始まるんだからいい加減自分で歩け」

「……ん。満喫した」


 見慣れた円柱――ダンジョンの入口前に到着し、俺はようやくドロリーから解放された。


 ドロリ―は軽いとはいえ、人間ひとりを運ぶのは流石に重労働だな……


 周囲から向けられる奇異の視線を受けながら運び終えたこともあってドロリ―もそれなりに回復してくれた。

 ぴょんと軽やかに俺の背中から飛び降りたドロリ―が背伸びをする。


 ……先日のシキータ同様、オーバーサイズのパーカーとスニーカーという部屋着同然の格好はどうかと思うけどな。

 下にちゃんとショートパンツを履いているとは言え、旗から見ればパーカーしか着ていないようにも見えてしまう。


 しかもドロリ―の場合は大きな胸がパーカーを押し上げているので余計に見えちゃいけないモノが見えてしまいそうで危なっかしい。

 いやちゃんと履いてるんだけどさ。


「景気づけに、揉む?」

「なぜ?」

「やらしい視線を感じた」

「やめておく」


 人の目もあるのにそんなことできるか。


 ドロリ―が「そう」と少しだけ残念そうにしてから懐からスマホを取り出し、アプリとカメラゴーレムを起動させる。


 ……さて、ど。


 例によって昨日の――というか、深夜の昼間である。

 ゲーム対決の後は少しでも体力を回復するべく休んでいたので俺はまだドロリ―のダンジョン配信を知らない。


 ただ、ゲーム配信の伸び悩みを考えればおのずと予想はできる。


 無口で、しかも熱が入れば入るほど言葉数が減っていくタイプ。移動中に聞いたがSNSでの事前告知もせず、配信サイトの告知だけというスタイル。

 おそらくリスナーの数はそこまで多くない。

 配信者としてはシキータよりもずっと厳しい立場のはずだ。


 きっとダンジョン配信そのものではなく、補助金などで事務所への収益を出しているのだろう。


 ……まずは、現状を見てから。

 大魔女なんて呼ばれているらしいし、実力は申し分ないはず。


 ひとまず、改善策を考えるのは今日の配信を終えてからにしよう。


「お腹痛いの?」

「ああ……いや、問題ない」


 キリキリと痛む腹をさすってから、俺は準備を終えたドロリ―の後ろに立つ。


 今の俺はドロリ―のサポーターだ。

 配信の準備はとっくにできている。


 マイペースなようでいてこちらを待ってくれていたらしいドロリ―は、俺の準備が出来ていると分かるや、スマホを操作してすぐにダンジョンの入口を開けた。


「はじめる」


 何でもない様子のドロリ―に続いて俺はダンジョンへ足を踏み入れる。



『キタアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!』

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!』



「はっ?」


 直後、俺はまたもやずっこけた。


『なんだこいつ?』『あ、シキータの時にいたサポーターじゃん』『お兄ちゃん!』『そういやドロリ―様も同じ事務所だったな』『またずっこけてやんの』


 な、な……なんだこれは。


 ずっこけたままの体勢で俺はカメラゴーレムから絶え間なく飛び出してくるコメントを凝視する。


 配信開始はダンジョンへ踏み入るのと同時だ。

 シキータの時もそうだったが、すぐにリスナーのコメントがカメラゴーレムから飛び出してくることになる。


 しかし、ドロリ―のこれは……その量が尋常ではなかった。


 まるで花火のように飛び出しては消えていくコメントたち。

 ロクに配信告知をしていなかったにも関わらずその数はシキータの時以上。


 うわ、アプリで確認したら視聴者数がシキータの十倍はいる……


 ……しかし、なるほどね。

 こういうことだったか。


『ダンジョン配信で、課題こそ多々ありますが……ドロリ―に心配はいりません』


 出発前にラッカリカが言っていた言葉。

 単純にドロリ―の技量だけを指していたモノだと思っていたが、どうも違ったらしい。


『なんたってドロリ―は私たちの大魔女、最強の魔法使いなんですから!』


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