第23話 ゲーム対決!
「ゲーム機ですか? はい……前にクローリスが流行調査のために買って来たものがどこかに仕舞っていたはずですが」
「どうするつもりなの、イロウくん?」
ラッカリカとトリントがそれぞれ疑問を浮かべる。
「話してるだけじゃ埒あがかないだろ? 俺はまだドロリーの配信をチェックできてないしな。そんな状態じゃ、どっちの肩を持つか判断なんてできやしない」
「……テスト?」
「ああ。ゲーム配信がしたいなら、それなりに《《できる》》んだろ?」
ドロリーの疑問に若干の挑発を交えて俺は答える。
すぐに「ピクン」とドロリーの眉が動いた。
どうやら神秘的なドロリーの無表情も、他人からの煽りには弱いらしいな。
「テストねぇ……確かテレビ台の下に……っと、あったあった」
そうしている間にもトリントがテレビ台の中からゲーム機を取り出した。
俺も知っているザ・家庭用ともいうべき機種だった。
これならインフラ整備士時代の歓迎会か何かで触ったことがある。
トリントがササっと配線を終えてゲーム機のスイッチを入れると、おあつらえ向きに有名な対戦格闘ゲームがセットされていた。
確かみんなで集まって大乱闘を繰り広げるお祭りゲームだが、ネット対戦などは一対一の形式が主流だったはず。今回はそれでいこう。
「俺も上手い方じゃないが、人並みくらいはできるはずだ。ゲーム配信が腕前だけじゃないのは当然だが、それでも少しくらいはできないとな」
「……ドロリ―のジャンルじゃない」
「だから腕前だけの判断じゃないって。お前は実際にゲーム配信をしているノリでやってくれればいい。ゲームの分野は門外漢だが、配信の事なら少しは判断できる」
「ドロリーはPCメイン――」
「それとも、負けるのが怖いか?」
ピクンピクン。
俺の挑発は効果抜群だったようだ。
さっきは微動するだけであった眉が苛立ちに歪み、ドロリ―が俺を睨む。
やはり煽り耐性は高い方じゃないらしい。
……安い挑発に乗りやすそうなのはちょっと減点対象であるが、そのフォローはプロデューサーたる俺の仕事だろう。
「そこまで言うなら、イロウの挑戦を受ける」
「別に挑戦した訳じゃないが……」
やる気になってくれたのなら何よりだ。
トリントからコントローラーを受け取ってゲームを起動させていると、ドロリーはトコトコと自分の部屋へ戻り、あるものを抱えてきた。
「……じ、自分だけ専用のコントローラーかよ」
「ドロリーに挑んだこと、後悔させる」
フンスと鼻息を荒くしてソファに座ったドロリー。
俺は肩をすくめてから彼女の隣に座るのだった……
◇――――――◆
はじめに言っておくが、俺はそんなにゲームをする方じゃない。
あくまで人付き合いで少し触ったことがある程度で、対戦格闘ゲームにありがちな得意なキャラや有名な戦法もロクに知らない。その上、こっちはゲーム機に備え付けられた小さいコントローラーを使っているのに、ドロリーは別売りの持ちやすいタイプのコントローラーを使っている。
勝敗は火を見るより明らか。
……まあ、実力を見るだけなので勝敗は関係なかったのだが。
しかしながら、これは予想外の決着と言わざるを得なかった。
「「………………」」
ゲームセット、と何度目かのシステムボイスがリビングに響く。
対戦終了。
戦いを終えた俺たちの先でリザルト画面が表示される。
勝者のキャラクターがでかでかと決めポーズをして、負けた方のキャラクターが小さいワイプ画面で拍手をしている。
決めポーズをしているのは、《《俺が操作していたキャラクター》》。
つまり、今回の勝負も俺の――
「もう一回」
ぎゅっとコントローラーを握りしめたままのドロリーが言った。
「やっぱり五本勝負。今度はアイテムありで本気を出す」
「……それもう二回目だぞ。一本勝負だったのが三本勝負になったし……別に俺は勝敗のことなんて何も」
「次はこれでやる」
言うが早いかドロリーは勝手に次の対戦を設定し始める。
というか俺まだキャラクターを変えてないんだが……
そんな反論を端から受け付けず、ドロリーはさっさと次の対戦へと入った。
もちろん結果は俺の勝利だった。
「……チート」
「使ってないぞ」
むしろコントローラーのハンデも背負ってるんだが?
……思ったより使いづらいなこれ。
サイズが小さいぶん、ボタンなどが押しにくいのはまだいい。
気になるのは操作反映までの速度だ。俺の反応速度についてこないのか、操作してから若干のラグがあるせいで先読み勝負になってしまっている……
しかも、隣でドロリーが「あん」とか「やぁっ」とか色っぽくあえぐもんだから集中なんてできやしない。
そういう反応は特定の需要もあるのだろうが、残念ながら俺には効果がなかった。
……ここまでくればもう分かるだろう。
ドロリ―の実力は、それはもう酷いモノだった。
俺もこのゲームについては素人だが、それにしたって操作が遅い。
なんて事のない攻撃に四苦八苦し、フェイントにも簡単に引っかかる。
しかも熱が入ると周りが見えなくなるのかピンチになると滅茶苦茶に入力してしまう悪癖もあった。
その上、ピンチでも優位でも声音にほとんど変化が見られないのはゲーム配信者としては致命的だろう。
それが全て、という訳じゃないが、あの手の配信はゲームに対するリアクションの熱量は高い方がいいはずだ。
……というかドロリ―の場合、声が小さいから音声だけだとリアクションすらないって感じるレベルだしな……
ドロリーの部屋に連れ込まれた際、PCデスク周りにカメラは見当たらなかったので配信で顔出しはしていないのだろう。
負けず嫌いなのは良いことなのだが、いかんせん諦めが悪すぎる。
しまいには「繰り返しの多いコンテンツ」だってBANされてしまいそうだ。
正直に言って、人気が出ないのも頷けるレベルであった。
「まだ、今度は……」
「もういいでしょうドロリー。勝敗は決しました。外野から見ていてもイロウさんとの実力差は歴然です。これ以上やっても」
「やだ」
見かねたラッカリカがやんわりと止めに入るが、ドロリ―は頑なにコントローラーを手放そうとしない。
……えらく強情だな。
自分で言うのも何だが、実力差は歴然だ。
このまま勝負を続けても、ドロリーの敗北が増えていくだけ。
それはドロリー自身も分かっていることのはずだ。
あるいは長い時間をかけて俺の動きを見切るつもりなのかもしれないが、流石にそこまで付き合うほど俺も暇ではない。
何より、テストの目的は勝敗じゃないんだ。
実力はもう分かった。
後はドロリーがなぜゲーム配信をしたがるのか。
それを確かめようと、俺は口を開き――
「ドロリーは外に出たくない」
開いた口がふさがらなくなった。




