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第22話 プロデューサーの選択

「ドロリ―はゲームで食べていく」

「「「はい?」」」


 突拍子のないドロリ―の宣言に俺たち三人の声がハモった。


「だから、ダンジョン配信は引退」

「……ゲームで食っていくって、つまり」

「ん。ゲーム配信」


 俺の疑問にドロリ―が自信満々に頷く。


 ……まあ、いきなりゲーム制作するとか言い出すよりはマシか。


 ここは配信事務所である。

 ラッカリカたちにとっては「ダンジョン配信者のための」事務所という意味合いなのだろうが、一般的にはゲーム配信も同じジャンルと言える。規模が大きくなれば配信者のジャンルも増えるというのが配信事務所の常だ。


 しかし、ラッカリカは呆れたように首を横に振った。


「まだ言ってるんですか……ゲーム配信でって言ってますけど、ホントはただ引きこもりたいだけでしょう?」

「む。は、配信はしてる」

「じゃあ、そろそろ活動を始めて一ヵ月ですよね? 収益化はできたんですか?」

「それは……」

「待ったラッカリカ。それは気が早すぎるんじゃないか?」


 言い淀んだドロリ―に代わり俺が助け船を出した。


 近年は世界的にダンジョン配信がブームになってはいるが、だとしてもそれはあくまで一つのジャンルとして人気になっているだけ。ゲーム配信なども未だに根強い人気がある。


 しかし、収益を出すとなると話は違う。


 ダンジョン配信はいわば、国家事業の下請けの下請けみたいなものだ。


 配信の広告収益があるのはもちろんだが、それ以上に危険手当やお宝などの換金、その他もろもろの報酬があるダンジョン配信とは違って、ゲーム配信は広告収益がメインとなる。


 無論、案件などの収入もあるだろうが、それは人気が出てからの話。俺もそこまで詳しくはないが、一ヵ月なんて短期間で利益を出せるような分野ではないはずだ。


「一ヵ月くらいなら、まだギリギリ申請できるかどうかって所だろ? ここが厳しいってのは耳にタコができるくらい聞いたが、だからってやりたいことを儲けにならないからって頭ごなしに否定するのはどうかと思うぞ」

「パパ……」

「誰がパパだ自称最年長」


 外見はほとんど子供みたいなものなんだからせめて年長者ぶってくれ。


 無表情のままキラキラと目を輝かせたドロリ―にジト目で突っ込むと、俺が助け船を出したことに抗議するようにラッカリカがムスッと眉をひそめた。


「もう! あなたはこの子のことをちゃんと見ていないからそんなことを言えるんです!」

「あら、お姫ちゃんはママ役? ならあたしはイロウくんのペット役ねぇ~♪」

「シームレスにままごとを始めるな!!」

「えへへ~、つい」


 ラッカリカが「てへ」と自分の頭を小突いた。


 まったく、と俺がじゃれつくように抱き着いてくるトリントを引きはがしていると、ラッカリカはニヤケ顔を引き締めて話を戻した。


「ですが! イロウさんがドロリーの現状を分かっていないからそんなことが言えるんですよ! 私だってドロリ―のやりたいことを頭ごなしに否定するつもりはありません。これを見れば、イロウさんも私たちの気持ちが分かるはずです」


 言って、ラッカリカが見せてきたのはスマホの画面だった。


 表示されているのは動画サイトだ。

 件のドロリ―のゲーム配信チャンネルであり、配信のアーカイブと投稿動画を合わせて十本程度。


 それらの再生数は……平均で二十を超えるかどうか。


 チャンネル登録者は十人だった。


「…………」

「ちなみに、登録者の半分は私たち身内です」


 つまり実質十人もいないってわけか……


 なるほどねぇ。ラッカリカが言いたいことはよく分かった。


 動画サイトなんて言うのは新規チャンネルの動画が伸びにくいのが常である。

 そこからじわじわ伸ばすか大きくバズって一躍有名になるかの二択になるわけだが……ドロリ―のこれは……ちょっと厳しいんじゃないだろうか。


 ……動画タイトルやサムネイルも「ゲームやる」「ボス戦」とかすごい簡素だし。


 検索欄とかでこれを見つけても、流石に見ようとは思わないなぁ……


 ハッキリと言えば、収益化以前の問題だった。


 てか、サムネイルとかはダンジョン配信でも作ったりするはずなんだが、これは大丈夫なのだろうか……?


「ゼロじゃないだけマシ」

「ですが、この数字では収益化なんて夢のまた夢ですよね?」

「…………」


 ラッカリカの鋭い指摘にドロリ―が沈黙する。


 ドロリ―にとってこれ以上ないほど痛い正論だろう。


 ゲーム配信の分野は門外漢であるが、このサムネイルでこの数字だ。

 ここから一発奮起して伸びる可能性は決してゼロではないだろうが、収益を得られるまでいったいどれくらい時間がかかることやら……


「ま、あたしたちみんな働いてるのに、一人だけニートなのはねぇ」

「……ドロリ―はずっとそうして生きてきた」

「研究論文とかの不労所得があったからでしょそれ。こっちじゃそんなものないんだから大人しく労働するべきよ。魔法は得意でしょ?」

「むう……ロマンがない」

「ロマンでごはんは食べられませんよ」

「ドロリ―はずっとロマンで生きてきた」


 今度はラッカリカが言葉を詰まらせる番であった。


「ドロリ―は不老。ごはんもお金もなくたって、下手なことでは死なない。けど、ロマンがなかったら生きていく理由がなくなる」

「……でも、この世界じゃお金がないと家がなくなるわよ?」

「分かってる」


 コクンと頷いたドロリ―がラッカリカたちから視線を外す。


 彼女がすがるように見つめてきたのは、俺だ。


「助けて。プロデューサ―」

「……そう来るか」


 俺はたまらず苦笑を浮かべた。


「配信者の要望を叶えるのがプロデューサー」

「イロウさん! 上司の要望とすり合わせることもプロデューサーのお仕事ですよね?」


 二人して難しいことを言ってくれるな……


 ゲーム配信を続けるか、ダンジョン配信をやらせるか。


 双方の要望が矛盾しるんだから両方の要望を叶えることは不可能。

 ドロリ―かラッカリカ、要望を叶えられるのはどちらか一人だ。


 まるで上司と部下の間で苦労させられる中間管理職の気分だよ……


 インフラ整備士時代の上司が色々と苦労していたのを見ていたが、まさか自分が同じような立場で苦心しなきゃいけなくなるとは夢にも思っていなかった。


 とはいえ、ラッカリカはこの事務所の社長。

 俺の雇用主である。


 優先するべきは彼女だし、何より「収益を上げる」という一点において理があるのは間違いなくラッカリカだ。

 この日本で生きていくにはお金は必要不可欠だしな。


 ゲーム配信は趣味でもできるし、ダンジョン配信と両立することも可能だ。


 ……だからと言って、それを強制するのもよくない。


 ダンジョン配信は整備された冒険とは言え、危険であることに変わりはないのだ。


 ケガなどは日常茶飯事、場合によっては命の危険だってある。

 本人にやる気がない状況で強引に配信をさせても人気は出ないだろうし、その辺のリスクを踏まえればあまり推奨できるものではない。


 ――少なくとも、無理やりじゃない方法。

 ――ドロリ―も納得してくれる、いい方法はないだろうか。


 苦慮の末、俺は「よし」とラッカリカの方を見た。


「ラッカリカ。ここにゲーム機はあるか?」


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