第21話 深夜の尋問会
「それで、イロウさん」
「…………」
「もう一回訊きますから、ちゃーんと答えてくださいね?」
「………………」
「みんな寝静まってるこんな夜更けに、ドロリ―の部屋で、ドロリ―と、いったい、何をしていたんですか?」
「……………………」
底冷えするようなラッカリカの問いが俺の胃を執拗に責め立ててくる。
ドロリ―の部屋から所変わって、リビング。
その床に正座した俺は、ラッカリカからの尋問を受けていた。
ドロリ―は俺に胸を揉まれた(ドロリ―がやらせたんだが)ことで息が荒くなっていたが、ラッカリカの登場で落ち着きを取り戻してくれた。現在は俺がぶっかけてしまった牛乳を洗い流すためにシャワーを浴びている。
というわけで、リビングにいるのは俺とラッカリカの二人きり。
……頼むから早く戻ってきてくれドロリー。
いや、アイツがいた方が話がこじれるか……?
「黙ってないで答えてくださいイロウさん? どうしてこんな夜更けにドロリ―の部屋で裸のドロリ―と何をしていたんですか? ちゃんと答えてください答えてくれないと罰も与えられないし誰がイロウさんの雇い主なのかもちゃんと教え込まないと」
「いや怖い怖い怖い!?」
あまりにも恐ろしすぎて悲鳴を上げてしまった。
まるで浮気を詰められる旦那の気分だ。
なんで結婚以前に恋人の一人もできたことないのにそんな気分を味あわされねばならないんだと抗議したくなるが、そんなものをしたところでラッカリカが追求の矛を収めてくれる気配はない。
……というか。いったい何を説明すればいいんだよ……?
たまたま深夜に起きて、キッチンで全裸のドロリーと出くわして牛乳を彼女にぶっかけてしまい、そのまま部屋に連れ込まれたと?
正気を疑われる展開だ。
いや事実なんだけどさ……
どうオブラートに説明したものかと俺が頭を悩ませていると、リビングの扉が開け放たれてシャワーを終えたドロリーが戻ってきた。
今度は全裸じゃない。
ゆったりしたサイズ感のパジャマ姿だ。
仁王立ちのラッカリカと正座した俺を見て状況を察したのだろう。
シャワーを浴びてなお涼しげな無表情でドロリーは告げた。
「……イロウにぶっかけられた」
「イロウさん?」
「それは語弊がある!」
たしかに原因はそうなんだけどさ!
「へぇ~、イロウくんがいの一番に手を出したのが……まさかドロリ―だとは予想外だったわぁ。せっかく気合入れた下着で待ってたのにー」
「やめてくれトリント! その冗談は余計に話がこじれる!」
「あら? 勝負下着はホントよ?」
なおさら勘弁してくれ……
ドロリ―に続いてリビングへ戻ってきたトリントもパジャマ姿だ。
彼女もラッカリカに続いて俺とドロリーの騒ぎを聞きつけた一人で、さっきまでは派手目なネグリジェを着ていたので着替えてもらったのだ。
全裸のドロリーに比べれば胸などが隠れていたのでマシだったが、それでも目に毒だったし。何よりラッカリカが俺に向ける視線が冷え切っていたからな……
やっと落ち着いて説明ができる……
俺は「あくまでやましいことはしていない」と事のあらましを説明した。
「……暗がりから出てきたドロリーに驚いて、牛乳を吹きかけてしまった……? それでドロリーの身体を拭くために部屋へ……?」
「フフ、インフラ整備士だったイロウくんでもびっくりすることがあるのねぇ」
「そりゃあるだろ」
暗がりの中から全裸の知らない女が出てきたらどんな勇者でも驚くだろうよ。
もはや開き直って洗いざらい語り終えた俺に、ラッカリカは確認するように問う。
「それでは……本当に何もいかがわしいことはしていないと?」
「当たり前だろ。相手は――確かに色々と大きかったが、それでも子供だ。というか普通に初対面の同居人に対して手を出すはずな」
「しんがい」
俺の言葉をドロリ―が遮る。
それから「ずい」と彼女が俺の前に立って、その大きな胸を張った。
「ドロリ―は大人。イロウが何をしても問題はない」
「「…………」」
また言ってるよコイツ。
自信満々に胸を張るドロリ―だが、その背丈は低い。
俺が膝立ちになったくらいのと同じ位の高さだろうか。ほら、あまりにも強情だからラッカリカとトリントが黙っちゃったよ。
「……なあ、お前ら。どんな教育方針かは知らないけど、認めるモンは認めさせた方がいいと思うぞ。世の中にはこの手の方が~って奴もいるだろうし」
「あー、えっと。ですね……」
「イロウくんが言うことも分かる、んだけど……」
ラッカリカもトリントも歯切れが悪い。
何かあるんだろうか? 俺が首をかしげていると、微妙な間を空けてからラッカリカがおずおずといった様子で告げた。
「ドロリ―は、その。私たちの中で最年長になります……」
「……………………は?」
そんなわけがないだろう。
俺は再びドロリ―の方を見やる。
胸と尻がデカいが背丈は低いし、シャワーから上がったばかりの肌も玉のように輝いている。いやまあそれはトリントだって同じなんだけど。
……こんな奴が、最年長だと?
……ひょっとして、あれか?
「お前らって年を経るごとに若返ったり」
「ないわよ」
「違います」
だよなあ……
しかし、彼女たちは異世界人だ。
それを前提に考えれば、俺たちの常識ではありえない事象でも可能だったり……
「……呪い、か?」
「あたり」
ドロリ―が頷いた。
「不老の呪い」
「……私も父上たちから聞いただけなんですが、どうも幼少の頃に呪いを受けて身体の成長だけが止まってしまったらしいんです。解呪のために魔法の研究をしていて、その課程で発明した成長促進薬などを多用した結果、こんなアンバランスな身体に」
「ロリ巨乳って奴ね……あたしたちからしたら嘘かホントか分かんないけど」
「ん。ドロリ―は合法」
「じゃあ何歳なんだよ?」
「セクハラ」
なんでだよ。
というか、本当にそうだとしたらこちらの世界で発行された戸籍、ないし身分証明書があるはずだ。
いくら不老の呪いだの成長促進薬だの言っても、書類上は正式な年齢が記されていなければならない。
というかそうじゃなかったら公文書偽造に当たる。
普通に違法行為であった。
しかし、ラッカリカが苦い顔で首を振る。
「残念ながら……私たちの戸籍は外見の年齢に合わせて申請するので」
「一応、あたしたちは実年齢で通したんだけど……ドロリーはもう何歳なのかちゃんと数えていないって話だから|二十歳前後くらいのギリギリオトナっていえる程度で登録してたはずよ」
それでいいのか行政機関……?
「い、いったいどうやって納得させたんだよ……?」
「魔法」
「あ、文字通りの意味ですね。ドロリ―は私たちの国で『大魔女さま』って呼ばれてるくらい魔法技術とその歴史に精通していまして、その知識をギルドへ提供して納得してもらいました」
……なるほどね。
どうりで、俺が知らない魔法を使っていた訳だ。
ドロリ―が俺の身動きを縛った魔法。あれは俺の知るアプリによる魔法ではなく、ドロリ―たちの世界で開発された魔法だったようだ。
ダンジョンが発見されるまで、こっちの世界において魔法とはオカルトやファンタジーでしかなかったが、異世界は違う。こっちの科学技術と同じように魔法をベースとして発展を遂げた世界だったのだろう。
そして、魔法に精通しているということは――
「大魔女さま……って、つまり」
「はい! ドロリ―こそ、私とシキータに続く三人目のダンジョン配信者――」
「違う」
流れるようなラッカリカの紹介をぶった切り、ドロリ―は言った。
「ドロリ―はゲームで食べていく」




