第131話 試験管、零姫久良音の課題
……ラッカリカが勝手に作った俺のグッズ。
あれを取り返そうと電話した時に何かの打ち合わせをしていたようだったが、どうやら試験管の打診を受けていたらしい。
「ひょ、氷冷の姫人が試験官だと!?」
「マジか……」
「本物だ!」
「後でサインしてくれないかな……」
『静粛に! 試験中ですよ!』
途端にざわめき出す受験者らを香流子がたしなめる。
「……クラネさんが試験管だったんですね」
「言っとくが、久良音に賄賂は通じないぞ」
「分かっています……そんなことをしてライセンスを取っても、後で危険な目に合うだけなんですから」
ム、と唇を尖らせて反論してくるラッカリカ。
ちゃんと理解しているようで何よりだ。
氷を思わせる美しい容姿から氷冷の姫人だ何だと評されているが、久良音は質実剛健を体現したかのような女である。
……人気配信者である以前に、彼女は元開拓者だ。
ダンジョンの危険性を熟知しているからこそ、彼女が課す試験内容は――
『通例として事前告知している通り、実技考査に関してはダンジョンという極めて特異な環境への対応力を問うため、その内容は試験管に一任されています。今回の考査では――』
『私に、一撃を入れろ』
え、と。
香流子のアナウンスを遮って告げられた久良音の言葉に、俺たち一同の声が困惑で重なった。
『形式は問わない。一人ずつ挑むでもいいし、ここにいる全員で一斉にかかってくるでもいい。しかし、私に倒された者は全て失格とする。大抵のことは許可するつもりだが、質問があるならこの場で挙手してほしい』
端的にルールを語る久良音。
対する受験者たちは、沈黙していた。
……ま、いきなり試験管と戦えって言われてもな。
実技考査の内容は試験管が決める、とはいっても大抵の場合は試合形式での対戦かダンジョン内での課題をこなしたりする程度のもの。
試験管との直接対決、しかも受験者全員が一度に挑むだなんて内容は少なくとも俺の知る限りは初めてのことだった。
まったく、久良音の奴……
久良音のこれはダンジョン配信者としての試験というよりも、純粋に『ダンジョンの奥地で戦えるかどうか』を問うているように思えた。
「質問、よろしいですか?」
しかし、沈黙する受験者たちの中で一人だけ。
俺の隣にいるラッカリカが、小さく深呼吸をしてから手を挙げた。
久良音の視線が(一瞬だけ俺の方を見てから)ラッカリカを見据える。
『質問を』
「は、はい! 先ほどここにいる全員と言いましたけど、それは受験者のサポーターも含んでの意味でしょうか?」
ラッカリカが質問した瞬間、再び受験者たちの間に困惑が流れた。
それもそのはずだ。
これはライセンス試験である。
受験者はラッカリカたち配信者本人であり、俺たちサポーターはあくまでもその補助役。
ボクシングとかで例えたらセコンド的な役割で、実際に手出しすることはルール上ゆるされてはいない。
そんな普通なら質問するまでもないモノに対し、久良音はあっさりとその普通を覆して見せた。
『その解釈で問題ない』
ただし。
受験者たちがどよめく中、久良音はラッカリカから視線を横に動かした。
『貴女のサポーターだけは例外とする』
すぐに受験者たちが俺の方に注目した。
「あれって――たしか噂の」
「やっぱりただ者じゃなかったか」
「噂じゃインフラ整備士だって……」
「ただのインフラ整備士なら氷冷の姫人が目を付けないだろ」
流石はダンジョン配信者たちといったところか。
……完全に悪目立ちをしていた。
というか噂になってるのね……しかも人気配信者でもある久良音が俺を名指しなんかしたものだから、それがさも事実のように広まっていた。
『しかし、それでは貴女が他の受験者よりも不利になるのも事実』
受験者たちから追及が飛んでくるよりも先に久良音は言葉を続ける。
『なので、一回だけ』
「……一回、だけ?」
首をかしげるラッカリカに久良音が頷く。
『攻撃でも援護でも、一回だけ。貴女のサポーターが行動することを許そう』
「――……」
例外の試験内容に、例外の対応。
今回が初めての受験となるラッカリカはさして驚くこともなく思考を巡らせているが、他の受験者たちからはまたまた困惑や驚きの声が俺の方に聞こえてきた。
「つまり……一回だけ攻撃していいって?」
「それって意味あるの?」
「さあ?」
……意味がなかったら、そもそも俺を参加させる理由はないっての。
しかし、ラッカリカが黙り込んだせいでまーた俺の方に注目が集まってるよ……
いい加減、抗議の一つでも入れたい気分ではあるが、それで周囲から久良音との関係を突っ込まれればもっと俺の立場が悪くなる。
間違いなく久良音は既成事実をでっち上げてくるだろうからな……
それに、久良音がするとは思えないが、抗議を理由にラッカリカの合否に影響が出てしまう可能性はゼロじゃない。
俺たちが何も言わないのを確認し、久良音は他の受験者たちへ視線を巡らせた。
『……他に質問はないようだな。それでは、これより十五分の準備時間を設けた後に実技考査を開始する』




