第130話 ケアレスミスにご用心!
ライセンス試験。
正式には「ダンジョン配信ライセンス昇級試験」とかだったか。
ライセンス取得のための試験とは異なり、こちらは普段の配信活動における実績なども考慮される。
当日の試験科目は午前と午後に分かれて二種類だ。
午前中は筆記試験。
主にダンジョン配信における制度などの確認問題だ。
イメージとしては運転免許の筆記試験みたいなものだ。
制度をちゃんと理解していないと揚げ足を取られてしまうような意地の悪い問題が出ることで有名だが、そこの対策はしっかりとやったしラッカリカなら大きな問題はないだろう。
問題になるのは、午後に行われる実技試験だ。
筆記試験は例年内容が大きく変わることはなく、試験対策などを積極的に公開する配信者もいたりするほどだが、実技試験は話が変わる。
そもそも、試験内容が担当する試験管によって変わるからなぁ……
ダンジョンでは、奥へ進めば進むほど何が起きるか分からない。
ゆえに事前対策のできる試験では正確な実力を確かめることができないとして、試験の内容は当日に発表されることになっているのだ。
不足の事態における対応力を問うのが目的……とかなんとか。
まるで少年マンガでやるような試験であるが、言ってることは間違ってない。
……あと今の上層部が少年マンガ好きだったりするのも理由だろうけど。
それはそれとして。
「うぃ~おつかれさ~ん」
「……疲れた」
午前の筆記試験に俺の出番はなく、人でごった返したロビーの片隅でぼんやりとしていると、いつの間にかダンジョン配信を終えた面々が戻ってきていた。
「ただいま戻りしましたイロウさま。荷物を見ていただきありがとうございます」
「お疲れ。ああ、全員分の昼飯だと流石にロッカーはキツイからな」
言って、俺はあらかじめ買っておいた飲み物をみんなに渡した。
シキータとドロリーがぐったりとしながらそれを受け取り「イロウさまの飲みかけはありませんか」とのたまうアナに未開封のモノを押し付ける。
そんな中、自分の飲み物を飲んでいたトリントがふと首を傾げた。
「……それにしても人が多いわねぇ。ライセンス試験の時っていつもこうなの?」
「まあ新規取得の試験は結構な頻度でやってるけど、昇級の方は数ヶ月に一回とかだからな」
俺たちのいるギルドのロビーだけでも普段の数倍、その上いつもはほぼ人のいない外の広場まで大勢の人が集まっている。
「最近じゃ、ちょっとしたギルドのお祭りみたいなものになってるし、単純に遊びに来たって奴も多いんだろう。あとは俺たちみたいな受験者の応援とか」
「疲れた……ドロリーはもう帰りたい」
「あん? お姫ちゃんの晴れ舞台を見ずして帰るつもりか?」
「……お酒を売ってる出店を探してたのはなに?」
「見世物なのに酒がダメってのは変だろ」
「なら配信で見るも問題ないはず」
「ほぉ~?」
「むむ……」
「もう、お二人ともこんな所でケンカなさらないでください!」
途端にいがみ合いを始めたシキータとドロリーをアナがなだめる。
コイツらは相変わらずだな……
「それはそうとイロウくん。肝心のお姫ちゃんはまだ戻ってないの?」
「ん? ああ、筆記はもう終わってるはずだが……」
時計はちょうと正午。
すでに午前の筆記試験は終わっている時間だ。
ここから昼食の時間を挟んで午後の実技試験になる。
試験会場は模擬戦に使うダンジョンのアリーナなので、さっさと食べておかないと間に合わなくなって――
「うう、イロウさん……みんなぁ……」
俺たちが探し始めると同時に、件のラッカリカがようやくやってきた。
フラフラ~と人混みをかき分けてこちらに戻ってきたラッカリカ。
ぐったりと俺の方に倒れ掛かってきた彼女を抱き留めてやる。
筆記試験でだいぶ消耗しているな……
「お疲れ、ラッカリカ」
「うう、疲れました……」
俺の胸に顔をうずめながらラッカリカが呻く。
「あら、そんなに難しい問題があったの?」
「いえ、問題はイロウさんやみんなのおかげですぐに終わりました」
トリントの声に首を振るラッカリカ。
ただ、と彼女は続けた。
「終了五分前になって、解答欄が一つずつズレていたことが分かって……ギリギリまでその修正をしていたんです……」
『ああ……』
それはまたベタな……
……ケアレスミスには気を付けろって注意していた甲斐があったな。
◇――――――◆
筆記試験でミスをして、それを引きずって午後の試験でもミスをしてしまう。
失敗談としてはよくある話だ。
幸いラッカリカの場合はちゃんと直し終わったそうなので大丈夫だとは思いたいが、それでも油断は禁物。
ちゃんと休憩をさせて英気を養ってもらわないと。
そういうわけで俺たちは外の広場でアナが作ってくれた弁当に舌鼓を打って、ちょっとしたピクニック気分を味わってから午後の実技試験へと臨んだ。
……それにしても。
「フレー! フレー!」
「社長!」
「お姫ちゃん!」
「ご主人さま!」
「…………」
「――って、全員呼び名がバラバラじゃねぇか!」
試験会場はダンジョン内のアリーナ。
俺たちのいるフロアの上、普段は使われていない観客席の中から聞こえるエピライブの面々による足並みの乱れたエールに俺はたまらず嘆息をついた。
「まったくアイツらは……事前に打ち合わせくらいしてろっての」
「アハハ……まあ、考えてみればみんなで集まれる機会もそう多くありませんし」
だからってなぁ……もう他の受験者だって集まってるのに。
すでに受験者たちはアリーナに揃っていて、彼ら彼女らの応援者たちも俺たちと同様に観客席に集まっている。
そんな中でいきなり応援の予行演習を始めるもんだから、かなり悪目立ちしてしまってるよ……
『会場の皆さん! 静粛にお願いします!』
他の受験者たちからの好奇の視線が集まるよりも早く、マイク越しの声がアリーナに響いた。
『これより、ライセンス昇級試験実技考査を開始します』
受験者たちへの案内をしたのは、香流子の声だ。
……ってことは、まさか。
『さっそく今回の試験管をご紹介しましょう。まあ知らない受験者などいないでしょうが、こちらは大人気ダンジョン配信者である――』
『香流子、そういうのはいい』
完全身内贔屓の紹介をしようとした香流子を遮る声。
冷たく、凛と研ぎ澄まされた女の声だ。
聞き紛うことはない。
……ちょうど先日聞いたばかりだ。
『ギルドより今回の試験管を任された零姫久良音だ。よろしくたのむ』




