第132話 VS人気配信者
準備時間。
なんて久良音は言ったが、受験者たちが作戦を立てるのには五分とかからなかった。
『数的有利はこっちにあるんだから開幕一斉攻撃で一発くらい当たるはず』
あまりにも予想外な試験内容で最初は受験者たちもどうしたものかと口々に悩んでいたが、ひとまずは方針だけでも決めようという話になり受験者の中で一番登録者の多い者がそんなふうに決めたのだとか。
伝聞系なのは「意見も行動の一つ」なんて久良音に言われてわざわざ別室待機をさせられていたからだ。
開始直前に俺が戻ってきた頃にはすでに全員の準備が終わっていて、ラッカリカから「イロウさんも一斉攻撃に参加してほしいそうです」と伝言を受けた次第である。
そんなに上手くいくのかねぇ……
まあ、要求されたのならやるだけだが。
「――それでは」
やるだけやるか、と後方で構える俺の先で、久良音が自身の刀を握る。
俺の眼前でラッカリカが自身の武器である長杖を握り締め、受験者たちもすでに各々の武器を構えて布陣を整えた。
アリーナの中心で受験者たちに完全包囲されたという圧倒的に不利な状況で、なおも涼しい顔のまま久良音は受験者たちを見回した。
「これよりライセンス昇級試験、実技考査を開始する」
久良音がゆっくりと息を吸い、受験者たちがゴクリと喉を鳴らす。
緊張と高揚がアリーナの空気を張り詰めていく――刹那。
「はじめッッ!!」
「――イロウさん、ダメです!!」
その火蓋が切って落とされると同時に、俺はラッカリカに制止された。
開始の一斉攻撃に合わせて踏み出そうとした寸前での出来事。
念話を忘れるほどのとっさの声に俺はすぐに踏みとどまったが、同時に周囲の受験者たちも驚いて出遅れてしまっていた。
「ハッ、直前でビビったか!」
「関係ないね! 一番乗りの勲章はいただいたッ!!」
ここにいる受験者たちもそれなりの手練れぞろいだ。
すぐに俺や出遅れた面々の穴を埋めるように連携して陣形を立て直し、一斉に久良音へと挑みかかる。
……言うだけのことはあるな。
数の利を活かした全方位からの一斉攻撃。
近接、魔法、受験者たちが得意とするあらゆる攻撃が一斉に襲い掛かれば、並大抵の者では無傷で切り抜けることなど不可能に等しいだろう。
「――《魔法詠唱》」
しかし、久良音は元開拓者だ。
こんな見え透いた奇襲で倒されるほど、半端な死線を潜り抜けてはいない。
「《たるひあられ》」
魔法の詠唱。
一斉攻撃が久良音へ襲い掛かる寸前、彼女の頭上から無数の氷塊が落下してきた。
「な、氷……!?」
「デカい氷柱だ!」
「自分を取り囲んだ!?」
無数の大きな氷柱が久良音を取り囲むようにして落下。
隙間なく彼女の姿を覆い隠して防御の壁を作り、受験者たちの一斉攻撃を阻んでしまった。
「なっ、千載一遇のチャンスが……!」
「まだだ! この防御なら向こうも反撃が難しいはずだ!」
「上に飛ぶか魔法を解くか、動かれる前にこっちも仕掛けよう!」
開幕の攻撃は失敗したが、優位はいまだ受験者たちにある。
最大のチャンスを不意にしたことを悔やむよりも先に、受験者たちは反撃の策を読み各々が次なる攻撃へと動き出す。
確かに、それが最善の選択肢だった。
受験者たちの一斉攻撃に対し、久良音は完全防御の構えを取った。
つまり、そうせざるを得ないほどに受験者たちの一斉攻撃が脅威であったということに他ならない。
完全防御の構えの中、久良音が反撃に移るには選択肢が限られている。
手数も、条件も、全ては受験者たちを味方している。
受験者たちはその優位性を最大限に活用するつもりなのだろう。
――だが。
「それ以外にもある」
俺の思考に久良音の声が重なる。
瞬間、氷壁の中から飛び出した無数の斬撃が受験者たちを襲った。
「なに――!?」
「守りの奥からッ!?」
受験者たちの一斉攻撃を受け止めた氷壁が呆気なく細切れにされ、その奥から飛び出した久良音の刃が近くにいた受験者たちを斬り伏せた。
アリーナでの戦闘は模擬スキルだが、直撃すればしばらくは動けない。
――今の一瞬で、近接担当がだいぶ減ったな。
全滅かとも思ったが、流石にそれなりの場数を踏んだダンジョン配信者たちと言ったところだろうか。
大勢の受験者たちが倒される中、かろうじて受け切ったり運良く難を逃れたりした者たちが残っていて、久良音との間合いを開けて体制を立て直している。
……残念ながら、最初の方針を決めた受験者は一番乗りの勲章をいただき損ねてしまったようだったが。
それはともかく。
形ばかりのリーダーとはいえ、受験者たちの頭を潰された。
ダンジョン配信者はトップダウンの軍隊なんかじゃない。
リーダーを潰されたとは言え、各々はすぐに次の手へと動き出す。
だが、彼ら彼女らの足並みをそろえていた方針を失った。
足並みが乱れ、受験者たちの連携が崩れる。
「――二の矢をつがえるには遅すぎる」
その隙を見逃すほど、久良音は甘くはなかった。
「ならば、次は私から行くぞ」




