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第126話「じゃあ俺に何をしてほしい?」

 ――ひとまず、トリントの胸パッドがバレることはなかった。


 湯冷めしたトリントを全裸のままにはできないと着替えさせる時間をもらい、リビングへ移動してひとまずは彼女の危機を脱することができた。


 ラッカリカが放つ無言の圧力によって俺はリビングの床に正座した。


 言い訳はこうだ。


 寝ぼけて洗面所へ行ったら風呂上りのトリントと鉢合わせてしまい「見たんだから見せろ」とすったもんだの末、トリントに押し倒されてああなったのである、と。


「へぇ……トリントに裸で迫られて、本当に何もなかったんですか?」

「ああ。何も」

「あーんなこともこーんなことも?」

「何一つなかった」


 噓は言ってない。


 トリントの胸パッドの事を省けば、だいたいこんな感じだったはずだ。


 そのトリントもすでに窮地は脱していて、パジャマ姿で俺の隣で正座している。


 心配だった胸も、ぬかりなくいつものサイズに戻っていた。

 胸パッドもちゃんと回収できたようで一安心だ。


 しかし、これはまた……


 胸パッドと思って見たら、これはずいぶんと盛ったものである。


 たゆんと揺れるトリントの大きな胸。


 きっと洗面所での一件がなかければ永遠に気付くことはなかっただろう。


 しかし、ホンモノの胸はもっとつつましやか。


 擬音で言えば「たゆん」よりも「すらり」と言った擬音がふさわしい――


「なーにイロウくん? おねーさんの生おっぱい思い出してるの?」

「イロウさん?」

「待ってくれ」


 チクショウ、見てたのは事実だから否定できない……!


 ああ、俺を見るラッカリカの視線がどんどん冷たくなっていく。


「……ふーん。私のお楽しみは取り上げようとするのに、イロウさんは私以外の女の子をお楽しみだったと。へぇ~? そ~なんですか~?」

「ちが、いや……お前のだって最終的には許しただろっ」


 自分の弱みを握られている自覚が薄いのか、わざとらしい言い回しをして俺をからかってくるトリント。


 すっかりいつもの調子を取り戻したようだが……コイツ。


 さては何を言っても俺がヒミツをバラさないと思ってるな?


 そりゃバラすつもりはないけど……


 しかし、その代償として。


 ……ラッカリカの俺に対する信頼が氷点下にまでなってしまっていた。


「せっかくお小遣いを貯めて、クローリスたちを説得して、やっとの思いで完成したイロウさんのグッズなのに……」

「使い道がなかったから今まで使ってなかっただけだろそれ……」


 頬を膨らませてツーンとそっぽを向くラッカリカ。


 まるで拗ねた子供である。


 ……子供にしては、腕を組んだ上にラッカリカの大きな胸が乗っかっているけど。


 おそらくサイズは()のトリントより数段階は違うだろう。


 あらためて見ればラッカリカのプロポーションは幼さが残るものの、出るところはしっかりと出ている。


 しかし、それが果たして本物なのかどうか……


 トリントの事もあるが、ラッカリカはこの事務所(エピライブ)の面々で唯一()()()()()()で見てしまう、なんてこともなかったし――いや。

 さすがにそれはいらぬ疑念だ。


 ちょっとトリントのせいで疑心暗鬼になっているな。


 別に本物だろうが偽物だろうがラッカリカはラッカリカだ。


 それにパジャマ姿のラッカリカはどうも着けない派閥なのか胸が普段よりわずかに――


「あら~? じっとお姫ちゃんのおっぱいを凝視してどうしたの? お姫ちゃんは()()()()()()()ちゃぁ~んと、天然モノよ?」

「……イロウさんのエッチ」

「ごめんなさい」


 氷点下の視線が絶対零度になる前に俺は大人しく謝罪を口にした。


 ……トリントの奴、しれっとクギを刺しにきたな。


 さっきの今でどの口がって感じだけど。


 とはいえ、この調子ならトリントの胸パッドに疑惑が向けられることはないだろう。


 もう完全に俺だけをロックオンしているような状況だし。


 たぶん、このままトリントがしれっといなくなっても気付かないんじゃないか?


 俺は拗ねるラッカリカをなだめるように交渉を試みる。


「なぁ、ラッカリカ。さっきも説明したが、あれは俺の不注意が招いたちょっとした事故なんだ。ここのトップとしてお前が怒るのは分かるが……お前が作ったグッズだって許したからってわけじゃないが、その」

「……別に、イロウさんがトリントとエッチなことをしていたというだけで怒っているわけじゃありません」


 エッチなことはしてないんですけどね。


 未遂です。

 あくまで未遂。


 しかし、それで怒っていないとなると……


「じゃあ、何が不満なんだ?」


 俺が素直な疑問をぶつけた瞬間。


 隣で正座するトリントが「こいつやったわ」みたいな顔で俺たちから距離を置き、ラッカリカははっとした顔で俺を見てから、わなわなと震え出した。


「私は……私も、私だって――」


 まるで日頃の我慢が限界を超えたかのように。


 羞恥心という堰を切って、ラッカリカは言った。


「私だって、ナマのイロウさんとエッチなことをしたいんですー!!」

「だからエッチなことはしてない!」


 ここまでに散々やったツッコミをさらにもう一回繰り返そうとして――ぇ。


 それはつまり……ラッカリカさんはエッチなことをしたいってこと?


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