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第127話「私だってイロウさんと!」

「シキータにもドロリーにもアナにもクローリスにもトリントにも! イロウさんはみんなとエッチなことをしたのに、私にだけ何もしてくれないじゃないですか!! ズルいです!!」

「別に他の奴らともエッチなことはしてないんだよ!?」


 むしろいつ他の連中とエッチなことをしたって言うんだよ!?


 ――ああいや。一番ギリギリなアナの件は除外するとして。


 俺たちエピライブが事務所兼住居として使っているのはシェアハウスである。


 もちろん全員個室はあるしちゃんと防音もしているが……だからと言って俺は基本的に他の面々を自室へ入れたり逆に誰かの自室を訪れたりすることはしていない。


 前例は魔法の糸で強引に連れ込まれたドロリーと今日のラッカリカくらいである。


 それ以外にしても事故で接触があった程度で、エッチなこと――少なくとも、一銭を超えるようなことは誓ってしていなかった。


「お、落ち着けラッカリカ。ゆっくり深呼吸でもして自分が何を言ってるか……」

「今夜はエッチなことをしてくれるまでは寝かせませんからね!!」


 エッチなことをしたらむしろ寝れないんじゃ……


 いや違う。

 そこじゃない。


 何よりそれ以前に、今は俺とラッカリカが二人きりなんてことはないのだ。

 ここは共有スペースのリビングであり、俺の隣には仲良くお説教されているトリントがいる。


「トリント! お前からも何か言って――いない!?」


 藁にも縋る思いで助け船を求めるが、しかし。


 隣にいたはずのトリントはいつの間にか忽然と姿を消していた。


 アイツ、逃げやがった……!


 いくら自分が関係ないからって――いや、さてはラッカリカの暴走に巻き込まれないように隠れたな?

 自分の胸パッド(ヒミツ)を守るために!


「イロウさん!」


 いつの間にか近づいてきたラッカリカが正座したままの俺の肩を掴む。


 マ、マズいぞ……!


 非常にマズい。


 トリントがいなくなったことで、意図せず二人きりになってしまった。


 この時間でもドロリーは起きていそうだが、ここの防音性能やおそらくゲーム中であることを考慮すれば何かの用事で部屋から出てくるのを期待するしかない。


 再三だが、エピライブの社長であるラッカリカは異世界のお姫さまでもある。


 そして、この事務所で暮らす俺以外の面々はみんな彼女の臣下だ。


 もしも万が一、まかり間違ったとして。


 俺がラッカリカに手を出した(実際は逆だったとしても)ことを知られたら、いったいどうなってしまうか――


 何とかしなければ……

 俺は全力で思考を巡らせる。


 しかし、その結論が出るよりも先に。


 至近距離で俺を見つめていたラッカリカがシュン、と悲しそうな顔をした。


「……私、そんなに魅力がありませんか?」

「え……」


 いや、むしろ魅力的すぎるから困っているんだが……!


 もちろんそんなことを馬鹿正直に言えるはずもなく。

 俺が答えに窮していると、ラッカリカは俺の反応を否定の意味だと受け取ったのか自嘲するように乾いた笑い声をあげた。


「あはは、まあそうですよね……私はシキータみたいにカッコよくありませんし、ドロリーのように可愛くも、アナのように甲斐甲斐しくも、クローリスのように役立つことも、トリントのように知識が豊富でもありませんし」


 まるで、心の奥底にため込んだコンプレックスを吐露するかのように。


 俺に向けた言葉を、ラッカリカは自らを刺す刃にしてしまう。


「みんなイロウさんにふさわしい魅力的な人たちばかりです。それなのに、私だけは迷惑をかけてばかりで、イロウさんのために何も――」

「そんなことは絶対にない」


 気付けば俺は、ラッカリカの手を取って言った。


 彼女の目が大きく見開かれる。


 俺の両肩を掴んでいたラッカリカの手は小さく震えていて、俺はその震えを抑えるように彼女の手を優しく握った。


 そして、ラッカリカの瞳へまっすぐに告げる。


「今の職も、今の住処も、俺が今現在ちゃんと生活できているのは……ラッカリカ、お前が俺を拾ってくれたおかげだ」

「そ、そんな。私は別に何も」

「お前がアイツらと引き合わせてくれなかったら俺はここにいなかった。今のエピライブが――いや、今の俺があるのはすべて、ラッカリカのおかげだよ」


 だから、と。


「こんなふうに、自分を粗末の扱おうとする真似はやめるんだ」


 俺はたたみかけるように続けた。


「心配せずともラッカリカは十分に魅力的だ。お前と比べたらむしろ俺の方が見劣りしてしまうだろうさ。ラッカリカにはラッカリカの、アイツらにだって負けない魅力がある。それだけはちゃんと理解していてくれ」

「イロウさん……」


 ポッ、と頬が赤くなったラッカリカの顔に、もう自らを傷つけようとする気配はなかった。


 ……ここまで説得すれば。


 さすがに落ち着きを取り戻してくれるはずだ。


 少しおっちょこちょいで暴走しがちなラッカリカではあるが、決して愚か者ではない。


 むしろここぞという所での直感はとても優れている。

 そんな彼女なら俺が言いたいこともきっと理解してくれるはずだ。


 ……これにて一件落着、かな?


 ふうと気を緩めて俺は立ち上がる。


 その寸前。


 ぽつり、とラッカリカが呟いた。


「……でも、私にエッチなことはしてくれないんですね」

「…………」


 あ、コイツ……


 俺が良い感じにはぐらかそうとしたの、さては気付いてたな……


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