第123話「見られたからには、分かってるわよね?」
バスタオル姿のトリントが俺の眼前に立つ。
見えちゃいけない部分はちゃんと隠れているが……手を後ろに回したことで、彼女の身体のラインがくっきりと俺の視界に映し出されてしまっていた。
「なんだかんだ言って、イロウくんもちゃんと男の子だものね。おねーさんの裸を見るためにこんな時間まで起きてたなんて……」
「誤解だ! 別に覗くつもりは――」
「まあ、どうするかは感想の一つでも貰ってから考えようかしら」
「感想ったって……」
言われて、俺は思わず生唾を飲み下した。
バスタオル越しでも隠し切れないほどの凹凸はまるで芸術品のよう。
彼女の顔が少し赤いのは風呂上りのせいだろうか。
風呂上りで艶だった髪に、バスタオルを押し上げる大きなふくらみ。
腰から臀部にかけて美しいラインが描かれ、しなやかな足がゆっくりと俺に向かってくる。
トリントは己の身体をまるで俺へ見せつけるかのようにして――あれ。
そこで、俺は何か違和感を覚えた。
根拠はない。
無意識の直感。
まるで間違い探しの最期の一つが見つからないような、記憶の中の何かがすり替えられてしまったかのような――些細な何か。
それが何なのか確かめるよりも先に、トリントが目の前まで来ていた。
ガシッ。
トリントが俺の両肩を掴む。
「フ、フフ……見られたからには、ちゃんと記憶を上書きしないと……」
「と、トリントさん……?」
「パンツを脱いでイロウくん」
「嫌ですけど?」
話の脈絡ってものをご存知ですトリントさん?
反射的に拒否する俺に、トリントはニコリと笑顔を向けて俺の肩から手を離す。
ニッコリ笑顔で視線はそのまま。
両手を俺の腰の方へと――パシッ。
……こちらのズボンを脱ごうとしてきた彼女の手を掴んで止めた。
「なによイロウくん。自分の身体は見せられないの?」
「見せられない以前に俺はお前の裸を見てないんだから不平等だ! さっきもバスタオル姿だったろ!」
「へぇ、イロウくんってば自分の身体があたしの裸と同価値だと思うの?」
「そ、それは……」
「じゃ、お邪魔しま~す」
「邪魔するなら帰れ!」
関西人のノリが異世界人のトリントに通じるはずもなく。
グググ……とベルトの攻防戦を繰り広げた後、俺が振り払ったことで最終防衛ラインを死守することができた。
「ひゃん……なーによイロウくん。おねーさんが気持ちよ~く手か口でしっぽり数日分の記憶を抜き取ってあげようっていうのに」
「魂でも抜くつもりか! 絶対に遠慮する!」
「へぇ、お風呂上りのあたしを覗いてそんなこと言うんだ」
「……べ、別の方法で」
「だーめ」
言いながら、トリントは両手を広げて俺に迫ってきた。
コイツ、バスタオル姿だって忘れてるのか……!?
「バカッ、タオルが外れたらどうする!?」
「フフン、そんなことするまでもなく骨抜きにして――」
余裕そうに笑いながらトリントがズボンへと――
しかし、その時。
その瞬間――ハラリ。
ポロン、コロコロ……ペタン。
「あげ、る……?」
「――――は?」
俺は、目の前で何が起こったのか、理解ができなかった。
まるで時間が止まったかのような沈黙。
今にも俺に飛び掛かろうとしてきたトリントが固まり。
俺もまた唖然として動けない。
はだけたバスタオルが床に落ちる。
トリントがその生まれたままの姿を、俺に曝け出していた。
スラリとした長い手足。
つるりとした美しい白磁の腹部。
きゅっと引き締まった腰つきと鎖骨のライン。
そして――わずかに膨らんだ、小さな胸。
バスタオルを巻いていた時にはもっと大きかったはず。
なら、その大きな膨らみは――無常にも、俺たちの足元に転がっていた。
いったい、何が起きたのか。
永遠にも感じるような凍て付いた沈黙の中、俺にはこう形容する他になかった。
「おっぱいが、落ちた……ッッ!?」




