第121話「出来心なんです!」
当たり前すぎる話であるが、公式に諏成入浪のグッズが発売された事実はない。
エピライブでグッズを作るならラッカリカたち配信者がメインになるし、そもそもとしてコラボグッズなどのオファーはまだなく、今現在エピライブ関係者のグッズはこの世に存在しないのである。
しかし、今。
事実として――
「それで、ラッカリカ。これは何だ?」
多種多様の俺のグッズが、ラッカリカの自室に揃っていた。
仁王立ちする俺の足元で正座して身を小さくするラッカリカ。
これだけ動かぬ証拠が揃っている以上は言い逃れはできないだろう。
「え、えっと。これは……その。私が自作した」
「ほう。このアクリルスタンドも自作なのか?」
「…………ごめんなさい。外注しました」
よろしい。
大人しく白状したラッカリカに俺は「うむ」と頷く。
……ん?
外注?
「グッズのお話をした後、調べてみたら……どうやら個人で少数からでもグッズを作ることができるサービスが存在することを発見しまして。物は試しに、と……クローリスに相談したら、私たち配信者のモノは、えっと。まだやめた方がいいと……」
「……本音は?」
「イロウさんを趣味にするんですからグッズぐらい揃えておきたいなって!」
爆速で馬脚を露しやがったな。
グッズを集めるのとグッズを自作するのは意味合いが違っているような気がするが……まあ俺はクローリスと違ってそのへんの事情は疎いんだけど。
最近、ちょくちょくラッカリカが俺を撮ってたのはこのためだったんだな……
写真くらいならまだいいだろと軽い気持ちで撮らせてやってたが、それがまさかこんなグッズたちになってしまうとは……思いもしなかった。
ラッカリカも隠そうとしたりと一応は引け目を感じてはいるようだ。
ビクビクと身を縮ませる彼女に、俺は長い沈黙を挟んでから……やがて、これ見よがしに嘆息をついた。
「……まあいい。一応、お前は俺の上司だからな」
「イロウさん……!」
「写真は撮らせてやったのは俺だし、それを個人でどうこうするのは好きにするといいさ」
「…………」
サっと。
ラッカリカが俺から目を逸らした。
……あー、コイツ。
「誰に売った?」
「売ってはいません! ただ……」
「ただ?」
「……なぜかイロウさんのグッズを作ったことを知っていたクラネさんが欲しがったので、お近づきのしるしにと……」
「…………」
俺はすぐに久良音へ電話をかけた。
配信中だったり急用だったりする場合を除き、久良音はどんな時でも必ず三コール以内には電話に出るタイプだ。
『結婚する気になったか?』
「違う」
今回もぴったり三コール。
開口一番の発言で反射的に電話を切ろうとする手をなんとか堪えた。
電話に出た久良音に続けて『お姉さま! さすがに今は……』と香流子の声が聞こえてくる。
どうやら何か打ち合わせの最中らしい。
なら手短にしないとな。
俺は単刀直入に用件を告げた。
「ラッカリカから貰ったモノを返してもらう」
『それはできない』
即答だった。
……嫌だ、じゃなくて、できない?
「どういうことだよ?」
『単純な話だ。彼女から貰ったお前のグッズの半分は香流子が持ってる』
「はあ?」
『はぃッ!?』
俺が困惑するのと同時に、電話口から香流子の声が聞こえてきた。
『ち、違いますからね諏成入浪!! これはその……えっと、あれです! お姉さまからいただいたものを無下にするわけにはいかないというか、別に匂いを嗅いだりとかしていませんからね!!』
「……匂い?」
そんな特殊加工なんかしてなかったと思うが……
『そうです! 他意なんかありませんから! せっかくですから今度呪いの儀式の触媒にでもして差し上げますから! わたしの一番はあくまでもお姉さま! 二番目のあなたはわたしとお姉さまの間に挟まれるのがお似合い――』
『む? 昨日枕元に入浪のグッズがあったのはむぐ』
『お姉さまそれは今言わないでください!!』
ドタバタと電話口で物音が続いた。
『――とにかく! わたしもお姉さまも返すつもりはありませんので!』
プツン。
一方的に言うだけ言って、電話が切れた。
「………………」
「あ、あの。イロウさん? あと実は、お小遣いだけでは製作費が足りなかったので、事務所のみんなもお金を工面してもらう代わりに一セットずつ……それと、昨日の配信でリスナーのみなさんも欲しがっていまして」
「……何に使うって書いてた?」
「えっと……ワラニンギョウ? というのを作ると」
「……今度の配信でアレは非売品だと伝えておけ」




