第115話 撮影会はおしまい! おしまいです!
まさか、社長室で撮影会をさせられることになるとは夢にも思っていなかった。
「うう……もうお嫁にいけない……」
「心配しなくてもオメーなら寄ってたかってくるだろーよ」
「そうですよイスナロさま! イスナロさまの魅力は老若男女――いいえ、たとえ今は効かなくともいずれ重病にだって効くはずです!」
「アンタなら大丈夫でしょ。あの大きさなら秋水より――」
「「比べるな!」」
一通りもてあそんだ後で言うことじゃないだろ……
秋水、未代、そして他ならぬクローリスによって退路を断たれた俺は、全力で抵抗することもできずに未代とクローリスの着せ替え人形にさせられていた。
着替えが三回。
ポーズ指定が五十四回。
撮影枚数はもうカウントしなかった……
……こんなことなら全力で逃げても許されるような気がする。
まあ本当に全力を出したらマズいんですけどね。
ダンジョンの外であるのは当然として、ライバータウンの外。そして未代たちの会社の中である。
こんな所で俺が《神鳴切》でも抜こうものなら個人のペナルティどころかダンジョンへの風当たりが悪くなるのは当然だし、何より未代たちの会社を破壊してしまうことになる。
……未代たちも俺が絶対にそんなことをしないと分かった上でオモチャにしてきているのだから人が悪い。
「見て見てクローリス! この角度の入浪、すごく映えてない!?」
「流石、素晴らしい画角ですよミヨ! こちらの写真なんかも――」
だが、俺が人柱になった甲斐あってか未代とクローリスはこれ以上ないほど打ち解けていた。
あれもいいこれもいいと二人なのに姦しく語り合いながら、手に持った一眼レフとスマホのカメラでフラッシュをたいている。
……それはいいことなんだろうけど。
考えることをやめてクローリスと未代にされるがままだったせいか、どれくらい時間が経ったのか分からない。
おそらく一時間はたっているはずだが、見学の方は大丈夫なのか?
「――よしっ! じゃあ入浪、次は――」
「ま、待てよ未代! 流石にもういいだろ!」
「ハァ? こんな資料集めに絶好の機会をみすみす逃すはずないでしょ? 今後のためにもあと五千枚くらいは撮っとかないと!」
「ハァハァ……イスナロさまが目の前に……イスナロさまが諏成さん……あれ、それって同じ屋根の下で私はイスナロさまと同棲していると同義では?」
未代はともかくクローリスさんはそろそろ現実に帰ってきてくれ。
「未代、俺たちはただ見学に――」
「大丈夫よ。これもそのうちの一個みたいなものだし」
『社長!!』
バァン!
それじゃあ次は、なんて未代が次の衣装を探そうとした矢先。
勢いよく社長室の扉が開け放たれ、従業員であろう男女数人がなだれ込んできた。
「いい加減にしてくださいよ社長!」
「見学者が来るって言うからヤバそうなもの片づけたのに――って」
「イスナロさま!? ホンモノが産まれたの!?」
「まさか社長が持ってたあの怪しい資料の……?」
「じ、実在したんだ……」
実在したってどういう意味だ……?
それはともかく、この人たちはどうやら俺たちの案内をするために準備をしていた人たちのようだ。
俺たちのために色々と準備してくれていたようで、それなのに俺たちが一向に来ないからとしびれを切らして社長室へ押し入ってきた次第らしい。
そんな人たちが、イスナロのコスプレをした俺を見つけるや否や――スチャ。
一斉にスマホのカメラを構えた。
「なんでッ!?」
『いや、記念に』
「せめてまず許可を取ってくれ!!」
実在の人物には肖像権があるんですよ……
……もう強引に撮られまくった後なんだけどさ。
部下たちの直談判でようやく未代も満足したのだろう。
彼女は「ま、今回はこのくらいでいっか」と残念そうな顔で一眼レフをテーブルに置いた。
「仕方ないわねー。残念だけど撮影会はお開きにしましょ。ホラ、アンタたちも普通にタスクあるんだからお昼なり作業なり戻った戻った!」
『ええぇー!?』
……なんで残念そうなの?
あと、何人かしれっとした顔で写真撮ってますよね?
「はいはい。見学中はずっとこのカッコさせるから、撮りたい子はコイツにバレないようにうまくやりなさい」
『しゃ、社長―!』
「もうバレてんだよ」
この場でスマホを叩き壊さなかっただけでも褒めてもらいたいものだ。




