第113話 気付いていないのは本人だけのパターン
土門秋水と皆切未代。
話を聞くにどうやら秋水が未代の家に婿入りをした形になるそうだから皆切夫婦と呼ぶべきか。
すでに言うまでもないが、彼女たちは共に俺が開拓者だった頃の知り合いである。
俺の師匠――麗依の一件で色々起きるよりも前に開拓者を辞めたと聞いたが、まさか自分でゲーム会社を興していたとは……まったく知らなかった。
しかも……
「……俺が、イスナロさまだって?」
「諏成さんが、イスナロさま……?」
「え、気付いてなかったの?」
驚く俺たちに未代はきょとんと首をかしげる。
気付くわけがないんだよなぁ……
いくら似ていると言われても、自分をゲーム内のキャラ(しかもイケメン)と同一視などできるはずもない。
しかもロクに知らないゲームならなおさらである。
「ま、アタシもまさかモチーフ元の入浪がGDLを知ることになるなんて想像だにしてなかったもの。正直、元々はメインの一人くらいにするくらいでここまでプッシュするつもりもなかったし」
「そ、そうだったのですか!?」
愕然とするクローリス。
未代は「立ち話だと長くなりそう」と秋水を顎で使って俺とクローリスを応接用のソファへ座らせ、自分も対面へ移動してから言葉を続けた。
「流石に生モノをモチーフにすると色々ね……でも、よくよく考えれば人気が出ない理由がないのよねぇ。顔が良くて性格も受け攻め両方いけそうだし、さりげなく気配りとかも出来て、かつ過去に色々ありそうなミステリアスさまで……いったい何人の女がコイツに泣かされたか分かったもんじゃないわ」
「……俺を秋水みたいに言わないでくれないか?」
「心外だな入浪――オレみたいにってどういうことだ?」
「秋水は返り討ちにあうタイプだし別でしょ」
「未代まで!?」
ソファの近くで立っていた秋水が「ガーン」とショックを受ける。
……そりゃそうだろとしか言いようがない。
昔の秋水は見た目通りのチャラ男で、俺たちの馴れ初めも秋水が麗依と久良音をナンパしようとして返り討ちにあったことからだったし。
「イスナロさまが諏成さん……じゃあ合法……いやしかしゲームと現実は別物ですし……そもそも社長が……」
「クローリス?」
「ひゃい!? 結婚眼鏡はどうしましょうか!?」
なんですか結婚眼鏡って?
さっきから黙りこくって何を考えてるのかと思えば、いきなり変なことを言い出してきやがって……
未代なんか「相変わらず個性的な子に好かれてるわね」とかニヤニヤしてやがるし、秋水もこらえきれないとばかりに噴き出していた。
見せもんじゃないっての……
というか、結婚と言えば……
「お前らっていつの間に結婚してたんだ?」
「「「え、今さら?」」」
三方向からツッコミが返ってきた。
「し、知らなかったんですか諏成さん……」
「え、いや……普通に連絡とか取ってないし……」
「……どうやらオメーは、その辺も相変わらずのようで」
「ええ。最初の方はどうにか連絡しようとしたけど全部無視されちゃったし。この様子だと披露宴の招待状とかも見てないみたい」
「うぐ」
「イスナロのことだって、一回アンタに許可取ろうとしてたんだからね?」
は、反論の余地がなかった……
……一応、重要そうなモノはなるべくチェックするようにしているんだが、招待状にも気づかなかったということは、おそらく色々あって少しふさぎ込んでいた時期に届いたのだろう。
あの時は電気代とかも未払いで止められたりしてたし……
苦い思い出である。
それを脳裏で思い返すと、ふと久良音が笑顔のまま立ち上がって俺のほうへと近づいてきた。
……顔はにこやかに分かっているが、瞳は底冷えするほど凍てついていた。
「元気そうだからよかったけど……アタシたちも心配してたか、分かる?」
「……悪かった」
「それだけ?」
「……申し訳ございませんでした」
大人しく頭を下げると、未代は満足げに「よろしい」と頷いた。
「ま、アンタの近況は久良音経由で全部把握してたんだけど」
「おい」
だったらなぜ俺に謝らせた。
いや、ロクに連絡を取らなかった俺が全面的に悪いので仕方がないけどさ……




