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第111話 イスナロを生んだゲーム会社

 チャラい外見とは裏腹に、秋水(しゅうすい)の仕事はとても丁寧だ。


 彼の運転する車はスムーズに通勤ラッシュの行列を潜り抜け、とてもスムーズに十五分ほどで目的地へ到着した。


「到着だ! ここがDGLの開発会社、ムーンプレックスだぜ!」

「ここが、イスナロさまを生み出した会社……!」


 路肩に車を停めて社屋を指示した秋水(しゅうすい)に続けて、クローリスが感慨に浸りながら「ありがたやー」と手を合わせる。


 ……あなた異世界人ですよね?


 会社から後光でも見えているのだろうか。

 普通にドン引きしながら、俺も目的地である社屋の方を見上げた。


 ……なんというか、その。


「普通のオフィスビルだな……」

「そりゃ、言っちまえばオレたちはただの新興(ベンチャー)だからな。DGLがヒットしたとはいえ、外注も多いから洒落た自社ビルなんざ夢のまた夢よ」

「世知辛いな……」


 ……まあそれを言うならエピライブ(ウチ)なんかただのシェアハウスだし。


 見てくれの『会社感』を競うなら俺たちの完敗であった。


 秋水(しゅうすい)が「ちょっと待っててくれ」と俺たちが乗ってきた社用車を社屋の地下駐車場へと移動させてから、改めて正面玄関からビルに足を踏み入れた。


 エントランスも至って特筆する点もなく、どうも複数の会社が入居しているようで、入館手続きだけやってそのまま俺たちはエレベーターに乗り込んだ。


「DGLって人気ゲームなんだろ? そんなにカツカツな状況なのか?」

「さっきも言ったが、外注も多いからな。入るモンも多いのは幸運なことだが、同時に出て行くモンだって多いのさ……今回オメーらを招待するってキャンペーンだって、可能な限り予算をケチった結果みたいなもんだし」


 なるほどな……


 それ、たぶん言っちゃまずいことだと思います。


「コラボルーム、とてもよかったです!!」

「そりゃよかった。ウチの社長も喜ぶぜ」


 鼻息を荒くして感想を言うクローリスに秋水(しゅうすい)はうれしそうに返しつつ、続けて俺に向けて何やら含みのある視線を向けてきた。


「……なんだよ?」

「いんや? ただ……オメーがイスナロメインのルームに、ねぇ……」


 ホントに何なんだよ?


 妙に意味深なことを言いやがって……


 何のことか追及しようにも、タイミングを狙ったようにエレベーターが目的のフロアに到着してしまった。


「あらためて、ようこそ! ここがムーンプレックスだ!」

「「おお……!」」


 秋水(しゅうすい)の言葉と共にエレベーターの扉が開いた先には……ゲームの立て看板やポスターなどが大量に配置されたエントランスがあった。


 ここまでくれば、さすがにザ・ゲーム会社って感じだな。


 俺にとってはそんな感想だったが、GDLのヘビーユーザーたるクローリスには全く別物の感想を抱いているようだ。


 また拝んでるよこの子……


「……それで、社内見学ってのはどこに行くんだ?」

「色々だぜ。実際の開発現場は当然として、資料室とか食堂とか。一応、新バージョンのデバッグ体験とかもできるように予定を組んでたんだぜ」

「「組んでた?」」


 なぜ過去形?


 俺とクローリスが揃って首をかしげると、秋水(しゅうすい)は肩をすくめつつ俺の方を指さしてきた。


「そりゃもちろん当初の予定でもいいが、入浪(いろう)のことだ。どーぜロクにゲームをプレイしちゃいないんだろ?」

「……昨日やったぞ」

「ド新人じゃねーか」

「私は大ファンです!!」

「サンキュー、クローリスさん。ま、そんなわけで入浪(いろう)くんがヒマにならねーようにって考えてな」

「……至れり尽くせりだな」

「積もる話もあるだろうしな。んじゃ、こっちだぜ」


 そう語る秋水(しゅうすい)の先導でやってきたのは、社長室とプレートが晴れた扉の前……え、社長室?


 秋水(しゅうすい)はノックもせずにその扉を開けて――


「うーい。上客二人を連れて来たぶらはッ!?」

「だから、ノックなしに入ってくるなぁッ!!」


 ――その向こう側から飛んできた物体を顔面で受けて大きく仰け反った。


 女の怒号と共にゴスッという鈍い音が響く。


 彼の顔面でバウンドした物体が俺の方に飛んできたのでひょいとキャッチした。


 ……飛んできたのはスマホだった。


 痛っ、たぁい……


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