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第110話 きのうはおたのしみでしたね

 旅行二日目の今日は、いよいよ会社見学の日である。


 アラームのおかげで余裕をもって起床することができた俺たちは、さっと身支度を整えてからホテルのモーニング(こちらは普通のメニューだった)を食べてホテルを出発した。


「確か……会社から送迎が来るって話だったよな?」

「はい。会社のスタッフさんが迎えに来てくださるという話です」


 なるほど、それはいい。


 会社のスタッフということは開発の人員ということだろう。


 それなら当然クローリスのDGL談義に花を咲かせることができるだろうし、その人が話し相手になってくれるなら俺の気も休めるというもの。


 正直、寝不足気味でまだ眠いしな……


 せめて移動中は仮眠でも取れますように、と心の中で願いながら、俺はクローリスと共にホテルの車寄せエリアへと向かう。


 すでに先方の迎えは到着しているらしい。


 自動ドアを出た俺たちへ、迎えの車から出てきた人物が手を振ってきた。


「やぁやぁ幸運なお二人さん。きのうはおたのしみでしたか、ってな?」

「――――はッ?」


 眠気が彼方へ吹っ飛んだ。


 は、え……なん――


 まるで自分の雷撃でも喰らったかのような気分だった。


 驚き。

 固まり。


 唖然として口をあんぐりと開けてしまう。


「……イス、諏成(すなり)さん?」


 隣のクローリスから投げかけられるお決まりの言い間違いにすらツッコむ余裕もなかった。


 それくらい、()()()がここにいることが予想外のことだったのだ。


 な、なんで――


「お、お前は」

「別に驚くことじゃねーだろ? 人間生きしてりゃ旧友と再会することだってある」


 そう、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべたのは毛先に染色した金色が残った男。

 いわゆるチャラ男という印象が強いが、スーツ姿に年を取ったということも影響しているのだろう。俺の知っている彼よりもだいぶ落ち着いた感じがした。


()()()()()()()ぶりだなぁ。久しぶりじゃねぇの、入浪(いろう)

「――しゅ、秋水(しゅうすい)ッ!?」



◇――――――◆



「へぇ、開拓者の後はインフラ整備士になって、今じゃ配信事務所のプロデューサーねぇ……ハハハッ、相変わらずロックな人生を歩んでるな!」

「……お前ほど驚くような経歴じゃないだろ」


 運転席からルームミラー越しにこちらを見てくる秋水(しゅうすい)の言葉に、俺は窓の外へ視線を移しながら応じる。


 朝の通勤ラッシュで交通量の多い都会の大通り。


 ライバータウンでは見ることのない数の車たちが各々の目的地へ向かう中、秋水(しゅうすい)が運転する車もまた滞りなく進んでいた。


「驚くに決まってんだろ。なんたってあの不愛想なクソガキだった入浪(いろう)が、今じゃカノジョ同伴で旅行してるなんてな」

「カノジョじゃないって出発前から言ってるだろ。コイツは……」

「じ、自己紹介が遅れました! 私はクローリスと申します! DGLの――イスナロさまの大ファンです!!」


 俺と秋水(しゅうすい)が旧友だったからか、俺たちに気を使ってくれていたのだろう。


 話を振られたクローリスが待ってましたとばかりに半ば身を乗り出しながら自己紹介をする。


 それに秋水(しゅうすい)はケラケラと笑い声を上げた。


「うれしいこと言ってくれるじゃねーの。けど、そいつはこれから会う開発メンバーの連中にでも言ってくれ。ゼッタイ喜ぶから」

「え……?」

「なんだ。秋水(しゅうすい)は違うのか?」


 俺たちが揃って首をかしげると、秋水(しゅうすい)はヒラヒラと左手を振った。


「違う違う。オレはただの雑用だぜ。つか入浪(いろう)よ、オレがゲーム開発に心血を注ぐようなタイプに見えるか?」

「……女キャラに関してだけなら」

「それは一理ある」


 あるのかよ。


「だが、いつまでも色んな女の尻を追ってるわけにもいかねーからな。首輪をガッチリと着けられちまった以上、追いかける尻は一つに絞らねぇーと」

「く、首輪ですか?」

「ああ。そりゃもうガッチリと」


 クローリスの疑問に秋水(しゅうすい)はもう一度ヒラヒラと左手を振る。


 その薬指にある指輪がキラリと輝いた。


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