第106話 乗り物での寝落ちにご用心
それから俺たちは雑談をしたり昼食をとったりして列車の旅をのびのびと満喫していると、ふと隣の座席から「ふわぁ」とあくびが聞こえてきた。
クローリスのものだ。
「……眠いのか?」
「え……? いえ、そんなことは……」
すぐにクローリスは首を振って否定しようとするが、その間にも二回ほどまぶたがとろんと閉じかかっていた。
……昼食後というのもあるが、だいぶ微睡んでいるな。
よくよく見れば、彼女の目元には化粧で隠されたクマがあった。
考えてみれば当然である。
キャンペーン当選の通知から今日まで、クローリスは普段の仕事に加えて旅の準備、そしてまどかさんへの研修など激務を続けていたのだ。
しかも(これは自業自得と言えるが)ソシャゲの更新も欠かさずチェックしていたようだし、今になって疲れが出てきたらしい。
俺は通りすがりの客室乗務員にひざ掛けを頼みつつ、クローリスに提案する。
「なんなら、俺が起きてるから寝ててもいいぞ」
「……ほえ?」
もう知能が残ってるか怪しいくらいの鳴き声が返ってきた。
きょとんとこちらを見てくるクローリス。
その顔は一瞬のうちに自らの失言に気付いて赤くなり、彼女は慌てて取り繕うようにして身を起こしてくる。
「で、ですが……これは私が」
「まだいくつか乗り継ぐんだから休める時に休んどけ。これはお前のための旅行なんだから、俺の事なんか気にするなよ」
クローリスの反論を遮って俺が言うと、彼女は不満そうな顔で押し黙った。
葛藤するかのような沈黙。
それで、やはり睡魔が勝ったようだ。
「……では、ちょっとだけ」
「ああ。おやすみ」
ゆっくりと瞼を閉じて眠りにつくクローリス。
俺は客室乗務員が持って来てくれたひざ掛けをそっと彼女へかけてやった。
……俺たちが降りるまでは約一時間くらい。
睡眠時間にしてみれば微々たるものだが、旅はまだ始まったばかりである。
「……ん、んん」
休める時にはちゃんと休ませてやろう。
そう決めて俺が我慢していたあくびを一つすると、不意にクローリスが身じろぎをしてから――俺の肩に身を預けてきた。
「えへへ、イスナロさま……」
「……だから、俺は入浪だっての」
ぽん、と俺の肩に頭を寄せてきた際にずれたクローリスの眼鏡を直してやりつつ、俺は彼女を揺らさないようにして嘆息する。
……コイツが寝る前にトイレ行っとけばよかったか?
◇――――――◆
クローリスには気の良いことを言ったが、ぶっちゃけ疲れているのは俺も一緒だ。
いつの間にか俺も寝落ちしてしまっていたようで、二人して仲良く終点で乗務員に起こされてしまった。
……お、降りるのが終点でよかった……
特急を降りた俺たちは続けて新幹線に乗り換えて移動すること数時間……
数多の交通機関を駆使することで、俺たちはようやく今日の目的地であるホテルへと到着した。
「や、やっと着いた……」
「ぼーっとしてる暇はありませんよ諏成さん! チェックインしないと!」
げっそりとホテルを見上げる俺をクローリスが引っ張る。
移動中、乗り換え口や移動時間などの計算は全て俺が担当してクローリスはその間クローリスはずっと休んでいたので、今では元気いっぱいだ。
俺は早くベッドで休みたいよ……
「すみません。こちらのキャンペーンで予約をしていた――」
ホテルのフロントでチェックインをするクローリスを尻目に、俺はあくびを一つ噛み殺す。
こっちの手続きは問題なさそうだな。
……見学は明日だっていうし。
ホテルのチェックインさえ済んでしまえば今日のミッションは終了だ。
あとはせいぜい夕飯の心配くらい。
さすがにそれはクローリス一人でも大丈夫だろうし、俺は先に少し仮眠を――
「……確認できました。カップル向けルームでのご予約ですね」
「「カップル?」」
どういうことですか?




