第105話 旅にトラブルはつきものですよね
「――ぜぇ、ぜぇ……な、なんとか間に合いましたね」
「ああ……なんとか乗れたな」
列車が走り出すのとほとんど同時。
やっとのことで確保した座席を見つけ、俺たちはほっと一息吐いた。
……ホント、ギリギリ間に合ったって感じだな。
高速バスは前日までに予約が必要だが、特急券については当日でも買える。
まあ全席指定席なので席が全部埋まっている可能性もあったが……そこは僻地であるライバータウンだ。
俺たちが乗った車両は人が十人もおらず、空席が多い。
頻繁にライバータウンへ出入りするような人はさほど多くないため、この通り車内はガラガラ。
必要な手続きさえ踏んでいれば、当日券だって簡単に確保することができるというわけだ。
じゃあ、なんでここまでギリギリだったのかってわけだが……
「あ、危ないところでした……これに乗れなかったらホテルのチェックインに間に合わない所でした……」
「危うくコンビニで物色した駅弁を家で食べるハメになりかけてたな……」
そう。
無事に乗車券を入手できたことに安心し、まだ時間があるからとコンビニで移動中の弁当なんかを買っておこうとしたのが運の尽き。
ご丁寧にしっかり駅弁なんかを取り揃えていたコンビニで何を買うかなんだりしている内に、気付けば余裕がなくなってしまったのであった。
ちなみに、ギリギリまで悩んでいたのはクローリスだ。
……乗車するホームを間違えてたのは俺の方だったけど。
まあ何はともあれ。
特急に乗れてしまえば、ひとまずは安心である。
「これが電車……森の中ばかりですね。景色」
「そりゃ森の中だからな。しばらくはそのままだよ」
窓際の席に陣取って車窓を見るクローリスに、俺はシートに身を預ける。
……ライバータウンを出るだけでもう疲れた……
だが、面倒なのはここまで。
ライバータウンさえ出てしまえば、後は途中で新幹線に乗り換えるくらいで、ごく一般的な交通手段を使うことになる。
そうなれば異世界人であるクローリスと言えど面倒な手続きは必要ないし、何なら彼女が乗ってみたいと言っていた普通の電車も利用することになるだろう。
念のため即席で組んだ移動予定を再確認している一方で当のクローリスはというと、けっこうなスピードで流れていく森の風景を興味深げに見つめていた。
……それは楽しんだろうか?
「初めてバスに乗った時も驚きましたが……景色がこんなに早く流れて……」
「……そういえば、お前たちってライバータウンの外へ出たことがなかったのか?」
どうやら思ったより楽しんでいる様子だった。
俺が問うと、クローリスは首肯して応じた。
「はい。――イ、諏成さんの知っているメンバーでは、私が初めてです」
「俺の知ってる……? ああ、そういえばもう一人いるんだっけか?」
確か、初対面の時にちらっと言っていたような気がするな……
ドロリーとアナのインパクトが強すぎてすっかり忘れていた。
「ええっと……行方知れずとか言ってたやつか」
「元々は王宮で副料理長を務めていた子なのですが、こちらの世界の料理に興味を持って飛び出していったっきりになりますね」
「それは……大丈夫なのか?」
「全然大丈夫ではありません」
そらそうだわな。
あまりにも当然の物言いに苦笑する俺に、クローリスは「とはいえ」と据わっていた目を閉じてやれやれと肩をすくめた。
「まあ……彼女はその気になれば多少の毒を食べても平気な方なので、心配は無用でしょう。一応、事前にこの国の野草などは勉強していたようですから」
「……そりゃ、聞く限り食いっぱぐれることはなさそうだが。聞く限りじゃ、その副料理長ってのは女なんだろ? この前のテロリスト共みたいな思想を持った奴だっているし……」
「昔、敵対国の料理に興味があるからと勝手に単身で旅立った挙句、こちらが心配しているのをよそに土産を携えて平然と帰って来るような子ですから。きっと、忘れた頃にでもふらっと帰って来るでしょう」
「……そうですか」
「あと、自由人過ぎるせいで方々に迷惑がかかっているので少しくらい痛い目に合うべきだと思います。今回の手続きもそれで手間取ったので」
さてはお前それが本音だな?




