第104話 ライバータウンの外へ
まあ、クローリスにとってこれが初めての遠出だって言うしな。
それを事前の相談もなく俺が同行することになっているのは何度だって文句を言うつおりだが、だからって拒否して計画をご破算にするつもりもなかった。
……これで断ったら流石に後が怖いし。
事務方の作業を一手に担ってくれるクローリスには俺も日頃からお世話になっているし、頑なになってまで断るだけの理由もない。
まさか旅の荷物までアナによって用意されていたとは思いもよらなかったけど。
……こういうことは初めてでもないしな。
昔は――もっと突然に、こっちの了承を取る前に連れ出されるなんてしょっちゅうだったのだ。
幸いにして行先はゲーム会社だ。
未開の地や危険地帯への冒険なんてことはない。
なら、俺も断る理由はなかった。
「……それで、どうやってライバータウンを出るつもりだ?」
二人して荷物をもって出発して路線バスへ乗り込んだ俺たち。
いつも使う北側のギルドへ向かう路線ではなく、町の南側へと向かう路線である。
町を横断する大きな河川を橋で渡る景色を見ながら俺は同じ二人掛けの席に着いたクローリスへ問いかけた。
「はい。せっかくなので、ここは電車というモノを使おうかと」
「電車……? ああ、特急のことね」
俺たちが暮らすライバータウン森中は、その名の通り他の町とは隔絶された僻地にある。
なので町を出るには、基本的に高速バスや鉄道を利用することになるのだ。
「実は、一度は電車というものに乗ってみたいと思っていたんです。ゲーム内でイスナロさまも乗っていたので」
「なるほどね……それで、チケットはちゃんと用意してるんだろうな?」
「ちけっと」
ぱちくり、とクローリスが目を丸くした。
……まさか。
「クローリス。今回のためにやった手続きについて教えてくれ」
「はい……? ええと、まずはライバータウンを出るための手続きに、先方が用意してくれるというホテルなどの予約……くらいですね」
「……そこからだったかぁ」
バスに揺られながら俺は頭を抱えた。
「え、あの……諏成さん? 電車ってこのバスと同じようにこのパスを使えば問題なく乗れますよね?」
「お前の言う電車なら乗れただろうな」
クローリスが取り出したICカードを見て、俺は肩をすくめた。
ちなみに、彼女のそれはライバータウン内で使える専用のICカードなので他の交通機関では使用できない。
そのあたりのことを説明してやると、クローリスはすぐに顔を真っ青にした。
「ど、どうしましょう諏成さん!? 先方のホテルにはもう今日そちらへ伺うと話していますし……」
「落ち着け落ち着け」
今にも泣き出しそうな顔で俺の肩をガクガクを揺らしてくるクローリスを落ち着かせる。
……どうやら、すごい楽しみにしてたみたいだな。
ホント、俺が一緒にいてよかったよ……
◇――――――◆
「ひとまず、今回の旅程を再確認するぞ」
「はい……」
駅前のバス停留所で下車し、俺たちはその足で駅舎へと入った。
ライバータウンの駅舎はこじんまりとしていて、小さな待合スペースと申し訳程度のコンビニとちょっとした案内窓口がある程度の場所だ。
俺たちは待合スペースに設置されたテーブルに着き、旅程の再確認をすることにした。
「なるほどな……都市部に出てしまえば、後は向こうが用意したホテルなり送迎なりがあると……ずいぶんと大盤振る舞いな会社だな」
「ええ、ゲームとホテルのコラボを記念したキャンペーンでしたので。なので今晩はコラボルームに宿泊して、翌日に開発会社の見学をする……という予定になります」
……言ってしまえば、客寄せのための抽選ってわけか。
「だったら、まずはライバータウンを脱出する手段だな」
「そうなります……」
クローリスは申し訳なさそうに身を縮ませた。
「まさか、電車やバスの乗り方に種類があったとは思いませんでした……」
「……ま、細かい下調べを忘れてしまうくらい楽しみにしてたってことだろ?」
「イスナリさん……」
混ざってる混ざってる。
しかし……うん。
移動手段の確保を勘違いしていただけで、聞いたところだと宿の心配はいらなさそうだ。
念のため手続きも確認したが問題もない。
これなら……まあ大丈夫だな。
「せっかくの遠出なんだ。それが町を出る前に躓いておしまいって言うのも味気ないからな」
「イスナロさま……!」
「……言っておくが、別に俺はこのまま帰ったって一向にかまわないからな?」
「ごめんなさい」




