第102話「イスナロさまを好きな人に悪い人はいません」
「「……お、おう?」」
「確かに!」
唖然とする俺とラッカリカをよそに、まどかさんが激しく同意する。
え、そうなの……?
……いやいや。
そんなわけないだろ。
一瞬「二人が言うならそういうものなんだろうな」と納得しかけたが、普通に考えて理論が飛躍している。
いくら同じキャラが好きだからって――
「そうです。よしんば悪事を働くような者がいたとしても――それはイスナロさまにお仕置きをされたいだけ!」
「いるじゃんか悪い人!?」
「……ちょっとされたいかも」
「まどかさんッ!?」
なんでこっちを見ながら呟いてるんですか?
いつの間にかラッカリカまで俺を見ながら何か悩んでるし……
というか俺はイスナロじゃないんだが!
久々にエピライブの今後が心配になって来る俺を置いてけぼりにして、クローリスはコホンと空咳を吐いてからいつもの調子に戻った。
「それに、たとえイスナロさま推しの同志でなかったとしてもまどかさんは採用するつもりでした」
「へっ?」
そうなの?
「イス――諏成さんの指摘通り、最近は特にシキータもBANされずドロリーもダンジョン配信をするようになって事後の手続きなどで手一杯でしたから。今後のことを考えれば人手が欲しいのは事実ですし、何より、サポーターのライセンスをお持ちで事務処理もできる方は貴重かと思いましたので」
「はい! がんばります!」
まどかさんがブンブンと頷いて意思表示する。
それにクローリスも頷いて返した。
「ええ。では、早速ですがこれからよろしくお願い――」
ブブブブ……
締めのセリフを言いかけた所で、リビングにバイブ音が響いた。
「おっと、メールですね。失礼しました」
「あ、どうぞお構いなく」
どうやらテーブルに置いていたクローリスのスマホが出所のようだ。
まどかさんに促され、クローリスは「失礼します」とスマホを手に取って通知画面を見ると――
バタン。
椅子ごと後ろに倒れた。
「え――クローリス!?」
「いきなりどうした!?」
あまりにも予想外の奇行だった。
流石にここまできて面接のための演出、なんてことはないだろう。
俺は真っ先にクローリスへ駆け寄って彼女を抱き起した。
「どうしたクローリス! いったい……」
「こ、これを……」
幸いクローリスには意識があるようだった。
呆然とした彼女が震える手で差し出してきたのは、自分のスマホ。
「……これは、メール?」
いったいどんなメールが届いたというんだ……?
まるで宝くじでも当たったかのようなリアクションだ。
俺はおそるおそるクローリスのスマホに表示されたメールを読み上げる。
ええっと、なになに……
「……当社ゲーム『ダンジョン・グランド・ライバー』開発現場へのご招待キャンペーン当選のお知らせ?」
「それって、イスナロさまの――」
「……(ニコ)」
俺が読み上げると、クローリスはさわやかな笑みを浮かべて力強くガッツポーズをした。
…………俺たちの心配を返してくれ。
◇――――――◆
今更ではあるが、エピライブは企業の体裁を取っているので有給が存在する。
まあ、入社してまだ一ヵ月かそこらの俺には少し先に貰えるモノだが、設立時から在籍しているクローリスにとっては当然あってしかるべきものだ。
これまでは事務回りを一手に担っていたことでロクに使う機会がなかったのだろうけど、まどかさんも採用したことだし、件のキャンペーン当選は有休消化のいい機会であると言えた。
……事務方の仕事に関しては、俺も世話になっている立場だしな。
せっかくの機会だ。
クローリスにはめいっぱい羽を伸ばしてもらうとしよう。
そう思って、俺は笑顔でクローリスを送り出そうと――
「……で、なんで俺も一緒なの?」
「当たり前でしょう。こんな素晴らしい生きた資料をイスナロさまを生み出してくださった開発運営の方々にお見せしなくて何がイスナロさま推しですか!!」
「俺は結納品か何かなの?」
自分で「生きた」とか言ってるのにモノ扱いはやめていただきたい。




