第101話 推しと選考結果
今度はクローリスが驚く番であった。
「――イスナロさま?」
「はい。彼はダンジョングランドライバーというソーシャルゲームに登場するキャラクターです。こちらのゲームはある日異世界へ繋がるダンジョンが現れ、プレイヤーはそれを攻略するライバーとなって仲間と共に冒険をする――」
努めて沈黙を保つクローリスへ、まどかさんは手でろくろを回しながら滞りなく回答を続ける。
ラッカリカは笑いをこらえるのに必死そうだった。
「それでイスナロさまはチュートリアルから登場するキャラクターでして、最初こそあまりいい印象はなかったのですが、彼の悲しい境遇が明らかになり、それに負けじと抗い続けたり仲間の窮地には自分を犠牲にしてでも助けようとする姿に思わず心を打たれ――」
……これは、してやられたな。
表情こそ鉄仮面を保っているが、クローリスの眉がすごい形に歪んでいる。
そりゃそうだ。
クローリスの推しもそのイスナロというキャラである。
早口で語るまどかさんの説明は当然クローリスだって知っていることだろうし、何なら今まどかさんが語っていることを一字一句たがわずに暗唱できるはずだ。
今だって激しく頷いて同意したいのを耐えているのか頬杖をつくフリして顎を抑えてるし……
以前、クローリスから『イスナロさま談義』なるものに数時間以上付き合わされた時に聞かされた話と似ているから、説明が間違っていることもないはずだ。
あの時は俺、十五分くらいで寝落ちしたけど……
……まどかさんはクローリスの推しがイスナロだとは知らない。
だからこれは偶然の一致。
単純にまどかさんもイスナロが推しだったというだけ。
しかし、まあ……
まさか、よりにもよってイスナロですか……
「性格はぶっきらぼうないわゆるオレ様キャラなのですがっ、それでいて世話焼きで優しい一面もあり、思わずお世話され――いえ、目標にしたいと考える、あたしの推しです!」
「…………そう、ですか」
だが、少しマズいだろうか。
まどかさんの回答は(ちょっと欲望が漏れ出している部分こそあったが)おおむねは理にかなったモノだろう。
彼女は面接官と推しが被るなんて天文学的確率を考慮なんかしてないはずだし、それでもまどかさんの言葉がクローリスに刺さっているのは確かだ。
しかし、問題は――
……もし、クローリスが同担拒否だったら。
「香出井まどかさん」
「は、はい!」
たっぷり一分ほど時間を使って、クローリスは口を開いた。
長い長い沈黙は、彼女の葛藤の表れか。
その隣ではラッカリカが顔を青くしてクローリスに小声で何かを言おうとしているが、クローリスはそれを聞き入れることなくまどかさんへと向き直った。
ごくり、とまどかさんが生唾を飲み込む。
クローリスはゆっくりと息を吸ってから、告げた。
「採用です」
「「「ええッ!?」」」
「――んあっ?」
俺とラッカリカがずっこけた。
その物音で今までずっと寝ていたシキータが目を覚ましたが、まだ面接が終わってないと分かるやまた顔を伏せて寝てしまった。
いやそこはもう起きとけよ……とも思うが、現状でシキータにツッコめる余裕のある者はいない。
「え、ちょ、クローリス? な、な、なん……」
「……ずっと難色を示してたのに、どういう風の吹き回しだ?」
驚きのあまり言葉にならないラッカリカに代わり俺が問いを投げる。
「おや、イスナロさまともあろう方が分からないのですか?」
「諏成入浪です」
「では諏成さん。これは簡単なことですよ」
そう言って、クローリスは胸を張って言った。
「イスナロさまを好きな人に悪い人はいません」
「「……お、おう?」」
「確かに!」
唖然とする俺とラッカリカをよそに、まどかさんが激しく同意した。
え、そうなの……?




