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手の平の『欠落者』たち  作者: 今木照
ソコントコ夜露死苦!多摩川決戦!
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第二十六話 多摩川・掌・リベンジャーズ

2018年5月 東京都 多摩川河川敷にて...



「死ねェ!関西のサルゥ!!」

「んだとォ!?関東のアホンダラがァ!!」


 俺の数十メートル先で、特攻服を着た男たちが盛大に殴り合っている。それはもう、罵詈雑言を互いに浴びせながら、ボコスカボコスカと...


 今俺の前で繰り広げられている喧嘩...、いや、抗争は、先程お互いに突撃を始めた、『愛暗無狂アイアンナックル』と、『裂撃斬弩サウザンドアイ』の衝突によるものだ。


 本当は今頃、俺と一緒に来た(連れ出された)優人は、この大混戦の中に特攻させられている筈なのだが、開戦前から姿の見えない彼はもう逃げたのだろうか。一瞬、俺の掌光病でここに引き戻してやろうかとも考えたが、それは流石に彼が不憫すぎると思い、血も涙もないその行為には及ぶことはなかった。

 かく言う俺も、その前線には行かず、自陣の最奥から戦いを傍観しているだけである。しかし、これは決して、ビビって足が竦んでいるとかではない。決して。

 俺は直接殴り合いには参加しない。そういう愛暗無狂こちらの作戦なのだ。


 コチラの総大将、西尾の横で、俺は背筋を伸ばして戦いを眺めている事しかできない。今、愛暗無狂側で突撃をせずに陣営の最奥に残っているのは、俺と西尾だけであった。

 しかし、この愛暗無狂の中で一番戦闘狂だと思っていた西尾かれが、まだ自陣に残っている事は、率直に疑問だった。ここで黙っていても気まずいだけだと思った俺は、恐る恐る彼の大きな広背筋に話しかけてみることにした。


「あ、あのぅ、なんで西尾...さんは前線に行かないんすか?やっぱ総大将は簡単に前に出ない、的な...?」


 と、質問した俺の頭を、西尾がポーンっとひっぱたく。彼にとっては軽くやったつもりなんだろうが、普通に痛い。


「アホ抜かせ。ワシが行ったらあんな関東の雑魚共、五分もかからんわ」

「じゃ、じゃあなんで...」


 西尾はなんだか楽しそうに、抗争の最前線を眺めている。今のところ、数では負けているものの、愛暗無狂側も大きくやられている感じはしないが...

 西尾は俺の方を振り向くこと無く、前線を眺めたまま、俺の質問に答えてくれた。


「裂撃斬弩・愛が関東トップに上り詰めた戦術、それをぜひ一度、この目で拝みたいんやァ」

「せ、戦術...?」


 俺は西尾の言っていることがよくわからなかった。こんな、殴って蹴って暴言を吐くしか能がなさそうな連中に、戦術もクソもあるのか?

 まぁ詳しくはないが、一応相手も関東最強と謳われている暴走族らしい。きっと、普通の殴り合いで終わるような敵じゃないということだろう。


 そんな話をしながら向こうの総大将、坂東を眺めていると、彼が何やら動き出すのが見えた。彼は100メートル以上先に居るのに加え、乱戦となった前線の間から所々でしか見えないので、かなり目を凝らさないとよく見えない。俺は目を細めて、坂東の動きに注視する。

 どうやら彼は、先程使ったメガホンをまた使用し、何かを喋るつもりのようだった。...そして数秒後、この喧騒を極める河原に、スピーカー越しの坂東の声が響き始める。


「あーテステス。...『裂撃斬弩・愛』、始めるぞ」


(始める...?)


 彼のその一言は間違いなく、戦場の雰囲気を変えた。

 正確に言えば、敵側がいきなり静かになった。そして異様な雰囲気に包まれた戦場に、再び坂東の声が響く。


「....渕元たち、かとっち班と合流してからフォーメーションCで左翼。佐々木班、もっと中央寄れ。そんで遠藤班は右後ろから敵来てるから、さっしー達と一緒にフォメBで。そんでりゅうが班は__」


(な、なんだ?突然わけわかんない事を。...って、まさかこれ、この場全体を指揮してるのか...?)


 そのスピーカーから放たれた機械的な声は、喧騒が飛び交う河原で、一際目立つものだった。

 坂東が放つ言葉はどれも戦略的で、とても複雑なものに感じられる。当然、自分含め愛暗無狂側は坂東かれの言っている言葉の意味なんて、まるで分からない。むしろ、その異常な出来事に動揺し、コチラの士気が下がってすらいる。

 しかし、裂撃斬弩・愛の族員はその指示が聞こえると、目の前の相手を無視してでも動きを変えて、集合したり、広がったりし始める。それは到底、暴走族とは思えないような統率のとれた動きであった。細かい連携のとれた向こうの集団は、まるで巨大な一つの生命体の様にすら見える。


 向こうは陣営を組んでコチラの集団をかく乱し、人数を細かく細かく細分化させている。そうして細かく分散してしまったコチラの隊員を捉えては、囲い込んでじわじわと削っていく。一つ潰し終わったら今度はまた別の小さい塊に行き、それを潰す。

 コチラ側の隊員もその包囲を崩そうと外から突っ込むが、それはそれで別働の班がすぐに押し寄せ、何もできず板挟みになってしまう。このような統率のとれた動きが可能になっているのは、坂東による絶えぬ指示があるからに他ならない。


 徐々に押され始めるコチラの戦況に危機感を持った俺は、慌てて前に立っている西尾に声をかける。


「これって、かなり押されてるっスよね...?っていうか、なんなんすか向こうのあの動き。あんな統率が取れてることにも驚きっスけど、あの坂東って奴、なんであんな的確な指示をあのスピード出せてるんすか...?まるで、空からこの一帯を見下ろしてるみたいな...」


「ほんまに全体を見下ろしとる言うたら、どないする?」


 ...西尾の声は、何故か楽しそうに聞こえた。



(...は?)




 続くッ!

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