第二十一話 仏恥義理ッ!我ら『愛暗無狂』!!
2018年5月
東京都 とあるコンビニにて...
(よ、よし、落ち着け。俺は今、万全の状態でこの勝負に臨んでいるんだ...!何も躊躇うことは無い!!...そのはずなのに、どうしてこの一歩が出ないんだ...!?)
俺は1人、葛藤していた。そこはコンビニの雑誌コーナー手前。
優人に借りたサングラスとマスク、そして深めの帽子を被って、俺は挙動不審で佇んでいる。
かれこれ15分ほどはここに居るだろうか...
もうお察しの良い人ならば、この見た目でこの場所にいる理由が、何となく分かってしまったかもしれない。
そう、そのとおり。
俺は今、成人向け雑誌を買おうとしているのだッ!
...ふぅ。
俺も今年で中学二年生。中学二年男子の脳みそなんて、ペットボトルキャップくらい単純にできている。
もう単刀直入に言おう。Hなことが気になって気になって仕方がないのだ。
だから俺は今、黒江優人先生監修の元、コンビニの雑誌コーナーにまで足を運んでいるのだ。ちなみに優人は日常的にこういった商品を購入し、同級生に転売なんかして小銭稼ぎをしている。
そんな尊敬なんてできるはずもない、どうしようもない小悪党な男だが、今だけは彼を先生と呼ばざるを得ない。彼にこの変装技術や、確実に雑誌を購入可能な店舗の情報等を提供してもらっているからだ。
優人はいつもこの変装で、ヨボヨボのおじいちゃんしか働いていないこの時間のこのコンビニで、Hな雑誌を購入しているという。
だから、購入は確実に成功するはずなんだ。
...だが!!
俺には、こんな安っぽいピンク色の雑誌に手を伸ばす勇気すらない!!けれども、いつまでもこうして手をこまねいている訳にもいかない...
ここは男らしく勇気を振り絞り、偉大なる大人への第一歩を踏み出そうではないか!
「愛日...ごめん!健全な男子中学生には、なくてはならない物なんだッ!!」
俺は一応彼女である愛日への言い訳と謝罪を呟き、雑誌コーナーへの重い重い一歩を踏みしめた。
そして徐々に鮮明に見えてくる、お目当てのピンク色。俺は高鳴る鼓動を必死に押さえながら、それ目がけて手を伸ばす。
(ついに、...ついにエロ本が俺の手に!!)
ようやく、雑誌の表紙に、俺の人差し指がピトッと触れる__
...その時!!!
「...なんじゃい、ワレェ」
俺の隣から、ドスの利いたコテコテの関西弁が聞こえた。...なぜ、東京のど真ん中のコンビニで、こんな脅迫めいた関西弁が聞こえてくるのか?その理由は、きっと横を見ればわかる。...分かるのだが。
あまりに威圧感の籠ったその声を前に、俺はブリキロボットのようなぎこちない動きで、恐る恐る真隣を覗く。
(......うげっ)
サングラス越しに見たそこには、身長が180㎝はあろうかという恐ろしい男が居た。
剃り込みの入った坊主頭に、日焼けをして黒光りしている筋骨隆々な肉体。この男は厳ついなんてもんじゃない、強者のオーラがこれでもかというほど溢れ出している。
そんな男に俺は今、睨まれているのだ。
「あ...、えぇっと...」
俺は情けないほど狼狽えながら、何とか声を絞り出した。
そして視線を雑誌に移すと、その雑誌に置かれている手が俺のだけではないことに気が付く。
そう、俺が手を伸ばしたその雑誌に、彼もまた手を伸ばしていたのだ。
(あぁ、終わった...。ここまで緻密に練ってきた計画が、今ここで、終了した)
俺は男としての敗北感に苛まれながら、その雑誌から手を引こうとした。もちろん、同時に手を付けたのだから俺にも商品を自分の物だと主張する権利はあるのだろう。
...しかし、今この大男を相手に、こんな俺が権利を主張する度胸を持ち合わせているだろうか?
否、皆無である。
「ス、スンマセン...」
俺はいそいそと雑誌から手を引き、コンビニを後にしようとした。
結局あれだけ葛藤しておきながら、俺は何の成果も得られず、ただコンビニに15分居座ったという事実だけを作り、帰宅するのだ。
(協力してくれた優人には、あとで謝らなきゃ...)
コンビニの自動ドアが俺に反応し開く。外の光が、まるであざ笑うかの様に俺を照らしつけた。
...その瞬間。
「ちっと待ち!...アンちゃん、付いて来いや」
自分の背中に向かって、さっきの大男が語り掛けてきたのだ。
俺はその声に背筋を伸ばされ、静止する。
「え...!?あ、は、はい...」
(...な、ななな、なんで呼び止めるんだよォ~!!?)
冷や汗をマスクに浸み込ませた俺は、大人しくその指示に従うしかなかったのであった。
________________________
1分後 コンビニ横の公園にて...
「なぁアンちゃん。なんで帰ろうとしたんや?ん?」
「兄貴がせっかく目を向けてくれたのに、帰ろうとしてんちゃうぞォ!ヒャッハー!」
「い、いやそれは貴方が同じ雑誌を取ろうとしてたから、...っていうかこのヒャッハー言ってる人だれですか...?」
「あぁ、コイツには構わんくてええ。ワシの子分みたいなもんや」
(いつから家の近所は世紀末になったんだよ...)
俺は今、詰められている。コンビニ横の公園で、さっきのゴツイ男と、コンビニの外で待機していた子分達(?)に何故か詰められているのだ。
俺は潔く諦めて商品を譲ったのだから、もう構うことなく帰してくれれば良かったのに...
「確かに、ワイもあのHな雑誌が欲しかった。せやけど!!ジブンもあのHなヤツが欲しかったんちゃうんか!?」
「ヒャッハー!そうやそうや!」
「い、いやまぁ、そうなんスけど...」
公園でHを連呼するなよ...
「せやったら!男らしく勝負で決めようや!なんかワシが無理矢理取ったみたいで気ぃワルいわ!!」
「しょ、勝負?どういうことっすか...」
大男を目の前で見ると、体つきこそ大人にしか見えないが、顔は意外と若々しかった。そんな彼は妙な漢字が沢山羅列された、真っ白な特攻服を羽織っている。
まぁこの風貌でなんとなく彼がどういう人間か想像できていたが、だからこそ絡まれたくなかった。
「男と男の決め事は勝負で決める!!これがワシら『愛暗無狂』の掟や!!」
「あ、あいあんなっくる...?」
突然出てきた単語の意味こそ分からなかったが、掟とやらに何故か俺が巻き込まれているのだけは理解できた。
しかし、そんな俺を他所に、大男の横に居た例のヒャッハー子分が説明を始めてくれた。
「そう!!俺達は関西最強として恐れられる暴走族『愛暗無狂』、...そしてこのお方が愛暗無狂三代目総長、桜中の鉄人こと、『西尾』様やッ!!ヒャッハーー!!」
その西尾という男は、子分の説明を満足気にニヤケ顔で聞いていた。
...同時に、俺は戦慄した。
(エロ本なんか、買いに来なければよかった...)
続くッ!
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