第十九話 日常
2017年 8月 東京都世田谷区
「おっじゃましまーす!外暑すぎ!」
優人がズカズカと家の中に入り込んでくる。彼の遠慮のなさは、彼の良い所でもあり悪い所でもあると思う。
「ごめん!冷房の温度下げるわ!」
...いや、悪い所でしかないか。
しかし、今回俺が彼に説教をする資格はないのだ。...決して前回のように、彼が俺宛に成人向け雑誌を持ってきたからではない。
今回彼がズカズカ入り込んできたこの家は、俺の家ではないからだ。
そう、ここは愛日の家だ。
「ちょっと優人君、愛日の家なんだから勝手に冷房いじっちゃダメだよ」
横に座っていた馬酔木さんが、優人を優しく注意する。
「たしかに!真紀ちゃんがそう言うならいじんない!」
優人は俺の言う事なんかには耳を貸さないくせに、馬酔木さんの指示には必ず従う。馬酔木さんの権能があれば、優人はなんだってする勢いだ。
(一回、「優人君、全裸で交番に落とし物届けに行って」とか言ってみてくんねぇかな)
そんな彼らの横を通り過ぎた愛日が、机の上にコップを並べながら口を開く。
「冷房の温度なんてなんでもいいけど、とりあえずコレお茶ね」
愛日は色分けされたコップたちを手に取りながらお茶を注いでいく。
「ありがとー愛日!」
「お、ありがと有我」
俺たち四人はあの花火大会以来、頻繁に遊ぶようになっていた。
四人で遊ぶとなると俺の家は狭すぎるので、家が大きい愛日ハウスがみんなの集合場所になりがちだ。
隅田川の花火大会以降、この数日間は四人で沢山遊んだ。
そしてその全ての経験が、今までの人生で体験してこなかったような青く輝くものであった。今までの孤独を塗りつぶしてくれるような、心から笑いあえる時間。
きっと友達が居たら当たり前の景色なのだろうけど、俺と愛日からしたら、全てが初めての経験であった。
そんな毎日のおかげでお互いの距離は更に近くなり、愛日は優人のことを「黒江」と名字で呼び捨てするようになったし、優人も愛日を「有我」と呼び捨てするようになった。(まぁ俺と馬酔木さんはまだお互い、さん付けだが...)
まぁいい、話題を今日のことに戻そう。
今日は愛日の家でとある大会をする予定だ。
その名も...
「愛日の家でゲーム大会!!」
説明しよう!
その名の通りだ!
という事で、愛日はテレビゲーム機を起動させようとしている。
小学生の頃から愛日の家には来ていたが、相も変わらず彼女の家にはゲームソフトが沢山ある。
愛日がゲームをするためにテレビをつけると、馬酔木さんがなにかモゾモゾとリュックを漁りながら声をかけた。
「あ、ゲームちょっと待ってくれる?今日は良い物持って来たんだ~」
馬酔木さんはそう言うと、一枚のDVDディスクを取り出した。
俺達三人はその正体不明のDVDディスクに首を傾げる。
「なに?そのディスク」
愛日は不思議そうに馬酔木さんに問いかけるが、馬酔木さんは答えをはぐらかしながら、そのDVDをテレビの方へもっていく。
「ちょっとDVDプレーヤー借りるねっ」
そう言って馬酔木さんがDVDを再生する。
画面に映った物は...
何かのワイドショーの映像であった。
内容は...、交通事故だろうか?
故障したような車が画面に映し出されている。
「...あ!これってあん時のやつじゃん!」
優人が何かに気づいたのか、騒々しく立ち上がる。
しかし、確かにこの現場には見覚えが...
(...なるほど!思い出した!)
「みんな分かったかな?」
馬酔木さんが少し嬉しそうに胸を張る。
「そうです!この番組は、愛日さんが花火大会の後に子供を救った時のものなのです!」
テレビに映っているニュースの画面には、『通りすがりの掌光病罹患者?女児を救ったヒーローは!?』なんて大々的に書かれていた。
全てが分かった愛日は、驚きと気恥ずかしさを混ぜ合わせたような表情をしていた。
「え...!?あれテレビでやったの!?」
「ねー。みんな気づいてないと思って、録画してお父さんにDVDに刷ってもらったんだ!私も偶々見てて驚いたよ!!」
テレビではあの時の親子がインタビューを受けていて、あの日すぐに帰ってしまった愛日へのお礼を長々と述べていた。
今頃あの女の子とお父さんは元気にやっているだろうか。
「あ~もう!テレビとか超恥ずかしいんだけど!」
愛日がほっぺたに手を添えながら目を細めている。
「恥ずかしがるような内容じゃないじゃん。むしろ誇ることだよ。...しかもこれをやったのが愛日だってバレてないんだし」
「そーゆー問題じゃない!」
俺のフォローを愛日が一蹴する。
俺が苦笑いを浮かべていると、隣に居た優人がボソッと聞いてきた。
「それにしても、有我の消滅ってどこまで消せるんだ...?」
「どこまでって、どういうこと?」
俺は優人の質問の意味がよく分からなくて、思わず聞き返す。
「いや、この間は掌光病を使ってアスファルトを削った訳だけどさ、本当に何でも消すことができるのか?」
「うーん、確かにそういわれてみれば...」
以前、愛日は”なんでも”消すことができると言っていた。
...しかし普通に考えて、なんでも消す力なんて存在するのだろうか。
優人が付け足すように補足する。
「例えばもっと硬い物でも消せるのか?とか、どんだけの距離が射程範囲なのか?とか、気にならないか?」
俺らの会話を聞いていた愛日が、少しムスっとした様子で口を尖らせる。
「なに変なこと話し合ってんのよ」
愛日は自身の掌光病を話題に出されるのが嫌いである。俺も自分の掌光病が好きではないので、彼女の気持ちは痛いほどわかる。
...しかし!俺が『消滅』の掌光病に対して、果てしない可能性を感じているのも事実だ。俺は思い切って愛日に提案してみた。
「なぁ愛日、物は試しだ。どこまでの物を消すことができるのか、検証してみないか?」
「嫌よ!っていうか、私の消滅は何でも消せるって言ってるでしょ!」
愛日は間髪入れず、当然のように突っぱねた。
しかし、俺もここで引き下がる気はない。
「けど、どこまで消せるか試したことは無いよな?」
「いや、まぁそうだけど...」
愛日は決まりが悪そうな表情をする。
俺の知的好奇心は止められない。
「よし!それじゃあ各自で、『消滅』でも消せなそうなものを持ってこよう!」
俺は馬酔木さんと優人に提案をしてみた。
正直、優人はともかく、馬酔木さんは乗ってくれるか分からない提案だったが、2人は案外乗り気な様子であった。
「分かった!じゃあ私は家から持ってくるね!」
「ようし!俺もちょっと外に探しに行くぜ!」
その二人の反応に驚いたのか、愛日が声を上ずらせる。
「え!?本当にやるの!?そんなことやらなくていいって~!」
馬酔木さんと優人はそのまま愛日の家から出ようとした。愛日がゲームソフト片手に二人を呼び止めるが、彼らがそれで止まることは無かった。優人と馬酔木さんも余程興味があったのだろう、そのまま駆け出してしまったのだ。
俺は二人がこのゲームに協力してくれたことを内心喜びながら、遅れを取らないように消滅対策を考えることにした。
「それじゃ愛日、俺も探してくるから!」
「はぁ、何でこういう時だけみんな協力するのよ......」
愛日は呆れたように、手に持ったゲームソフトをおでこにあてた。
こうして俺達は、愛日の力で消せない物を探し求める旅へと出発したのであった。
「じゃあ次に集合するのは...」
「「「2時間後に!!!愛日ん家で!!!」」」
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「...なんでみんな私の消滅の話になると、あんな乗り気なわけ?結局私一人だし。あーほんっと。...もう一人でWiiスポーツやってよ」
1人で黙々と100ピンボーリングをしている愛日であった...
「__あ、裏技できた」
続く!




