第十八話 消滅のヒーロー
前回のあらすじ
1人の少女を、「消滅」の力を使い守った愛日。
しかし、周囲の人々はその力への困惑と恐怖を隠すことができなかった。
そこに、1つの拍手が鳴り響く...
2017年 7月 東京 台東区
パチパチパチ
父親が少女に抱き着いたとき、向こうの歩道に居た一人の老人が拍手をした。それは紛れもない、愛日に向けられた賞賛の拍手であった。
その音が、静まり返った現場に響いている。すると、それにつられるように、周りの人達も拍手をし始めた。
パチパチ...
パチパチパチパチ...!
パチパチパチパチパチパチパチ!!
次第に拍手の輪は大きくなり、その交差点を取り囲む人たちの大きな喝采となった。
そしてその音は、車道で立ち尽くしていた愛日を明るく包んだ。誘導員のおじさんも愛日に向かって賞賛の拍手を送っている。
「カッコよかったぜ~!お嬢ちゃん!!」「あんな症状の使い方もあるんだ!!」「アスファルトに穴を開けちゃうなんて、凄い力だよホント!」「ヒーロー!!」
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
四方八方から絶賛する声や、指笛なんかの音が、愛日目がけて飛び交っている。
愛日は最初こそ困惑して立ち尽くしていたものの、次第に恥ずかしくなってしまったのか、俯いたまま足早に俺たちの元へ戻ってきてしまった。俺たちの周りに居た人たちが一斉に愛日に話しかけるが、愛日は赤面したまま顔を上げない。
俺の横に来た愛日は隠れるように俺の背中へと回り、腰の下で俺の手を握ってきた。この光景に思わず感極まり、俺の目頭は熱くなっていた。
彼女自身、自分の掌光病がここまで賞賛される日が来るなんて、とても思っていなかったのだろう。
褒められ慣れていない愛日もとてもかわいい。
「あ、あの!さっき助けてくれた方はどこですか!?」
車道からこちらに向かって声を張り上げていたのは、さっき愛日が助けた女の子の父親だ。どうやら愛日を探しているらしい。
「ほら、愛日、呼んでるよ?」
俺は背後に小さく隠れた愛日に声をかけるが、愛日は首を横に振るだけだ。
しょうがないので俺は愛日の手を引いて父親の前に出る。
「あぁ!貴女!!本当にありがとうございました!!それと、本当にすみませんでした!!」
父親は愛日に深々と頭を下げる。
愛日はどうしたらいいのか分からないように、男性の前であたふたした。
「い、いや、頭を上げてください...。私も、街中で使うには危険な掌光病を使ってしまったので...」
周りの歓声に気圧されたのか、愛日にしては珍しく謙虚な態度を取っている。
父親はそれでも頭を上げなかった。父親のすぐ隣にはさっきの少女が不思議そうに愛日を見ている。
「いえ!勿論、あのタクシーに対する責任は自分が取りますので...!」
思い出したように俺と愛日はタクシーの方に目を向ける。
そこには、横断歩道のほんの1mほど手前で、前輪がアスファルトの溝にハマったまま動けていないタクシーがいたたまれなく佇んでいた。
愛日が俺の横で「やっちゃたぁ...」なんて呟いていたが、父親は構わずに話を続ける。
「失礼ですが、電話番号などをお聞きしてもよろしいですか?後日、またお礼にお伺いさせてください」
愛日は彼の提案に、全力で首を横に振る。
「い、いえいえいえ!お礼なんて結構です!...それより、本当にタクシーは任せてしまって大丈夫なのですか...?」
「もちろん、今回生じたすべての責任は自分が負います。親の義務を果たせなかった自分の落ち度なので...。改めて、本当にすみませんでした!そして、ありがとうございます!!」
父親は再び深々と頭を下げ、娘も父親を真似るようにお辞儀をした。
愛日ははにかんで笑い、恥ずかしそうに俺の目を見てきた。
俺も愛日の目を見返し、笑いかけた。
「ほんと凄いよ、愛日は」
歩道の方を見ると、優人と馬酔木さんが笑ってこちらを眺めていた。
愛日と俺達が帰るときに沸き起こった強い歓声と拍手は、暫く耳から離れそうにない。
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1時間後...
帰りの電車内にて
今、俺たち四人は帰りの満員電車に揺られている。
愛日はあの後沢山の人から声を掛けられて、暫く駅に向かえなかった。電車に乗ったのは結局10時半とかになってしまったが、ひとまずこれで休むことができる。
...と思ったが、優人の横に立っていた馬酔木さんは、我慢できないように喋り出した。
「ねぇねぇ愛日ちゃん!改めてさっきのカッコよかったね!」
「まさか『消滅』の掌光病がアスファルトまで断ち切ってしまうとは...」
馬酔木さんと優人がさっきの件を再び話題に出すと、愛日はムスっとした。
けれど、若干嬉しそうな表情を隠しきれていない。
「さ、さっきの話はもういいでしょ!咄嗟に体が動いたのよ!!」
彼女がそう言うと、馬酔木さんが再び「カッコいいな~」なんて言うから、愛日は再び赤面してしまった。
実際、さっきの救出劇は、思わず息を飲む程カッコよかった。
「あーあ、やっぱ消滅の症状はいいなぁ!」
俺は入替の掌光病があっても何もできなかった自分を責めながら、思わず消滅への憧れを口にしてしまった。
俺の言葉を聞いた愛日は、呆れたように反論する。
「消滅をそんなに羨ましがってるのは昔からアンタくらいよ、源」
俺からしたら、こんな格好いい力を怖がる方が理解不能だ。
「まぁけど、ずっと前から嫌がってたその掌光病も、今回の件で少しは好きになったんじゃないのか?」
愛日は少し黙って自分の手の平を見つめた後、恥ずかしそうに口を開けた。
「ま、まぁ、ちょっとだけ、ね...」
「そうだよな~。あの場に居た人たちはみんな愛日の掌光病を褒めちぎってたもんな?」
そう言うと、愛日は余程恥ずかしくなったのかそっぽを向いてしまった。
ここまでたじたじな愛日を見ることも珍しいので、俺は少し意地悪に追撃をする。
「やっぱあの拍手の渦はすごかったな~。全部愛日に向けられたものだよ?やっぱ滅茶苦茶嬉しかった?ねぇ?」
少しイジリすぎたのか、彼女はムッと俺を睨む。
しかし、次第にその視線は緩くなり、俺から目を背けた。そして、恥ずかしそうにゆっくりと口を開く。
「今日一番うれしかったことは、あの時の拍手なんかじゃなくて、...源の、その...告白だけど...」
(ズッキューーーーン!!)
彼女のその恥じらいを含んだ台詞に、俺は胸を射貫かれる。
いや、射貫かれるどころじゃない。胸を吹き飛ばされる思いだ。
そうだ、今日はさっきの一件が濃ゆすぎて忘れかけていたかもしれないが(無論俺は忘れてなどいないけど)、俺は今日、愛日の『カレシ』になったのだ!!
あぁ、今までの芋くさい自分よ、さらばだ。これからはリア充として、愛日とアンナことやソンナことをしてみせる!
神様ありがとう!今まで人生はハードモードでしたが、今日、最高にカッコカワイイ彼女と、最高に幸せな毎日をゲットできました!!今後はオトコ山根源として、一皮むけたいと思う所存でございます。
俺はこれからの日々に思いを馳せ、胸を躍らせた。
「次のゴールは...フヘへッ」
「...なぁ、源ってニヤケると地味にキモイのな」
「...優人、お前も馬酔木さんと話してるときこんな感じだからな?」
続く!!
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