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手の平の『欠落者』たち  作者: 今木照
夏と花火と君
29/40

第十七話 飛び出したのは

2017年 東京 台東区



 タクシーは、身長の小さい女の子に気が付いていないのか、真っすぐ突き進んでいる。このまま進めば、間違いなくあの女の子と衝突してしまう...!

 そこに居る大勢の人間がその一瞬の出来事に驚愕し、これから先起こるであろう最悪の事態を想像した。


 勿論、それは俺もだった。


 ...しかし、俺の視界にはもう一人、予想外の人間が映りこんだ。

 俺の見ていた光景を横切った、一つの人影、


 それは愛日だった。


 一番車道側に居た愛日は、俺がタクシーに気づく前に危険を察知し、ガードレールを飛び越えて躊躇なく車道に飛び出していたのだ。


「愛日っ!!」


 無意識の内に叫んでいた。

 俺は無我夢中で叫び、何とか愛日達の元に向かおうとしたが、人の塊が車道への道を塞いで近寄ることができない。


 愛日は女の子のすぐ近くまで駆け寄り、もう数メートル先まで接近したタクシーを睨む。女の子は目の前まで迫りくるタクシーに気づいて腰を抜かしたのか、車道の真ん中で立ち尽くしてしまっている。

 そのタイミングで愛日が女の子とタクシーの間に立ち塞がった。ここでタクシードライバーも人の存在に気が付いたのか、一瞬車窓から運転手のひどく驚いたような顔が見えた気がする。


「キャーーーー!!」


 誰かが、愛日が女の子を助けるために身を挺すのかと思ったのか、悲鳴を上げた。

 正直この状況、誰が見たって愛日達は無傷では済まないと思うだろう。実際、俺でも愛日が助かるのか不安で車道に出ようと暴れているのだから。


 しかし、愛日は至って冷静に右手を動かした。

 その右手は素早く斜め下の方へ向けられ、愛日は口を開いた。


「ドライバーさん、ごめんねっ!!」


 彼女はそう言うと、タクシーと自分との間にあるアスファルトに右の手の平を向けて、素早く一文字をなぞった。

 その瞬間、この場面を目撃した全員の目に同じものが映っていた。

 愛日の右手から伸びる、陽炎のような空気の揺れが。


 その直後、タクシーが見えない壁に衝突したかのように、「ガゴンッ!」と大きな音を立てて止まった。

 何が起こったのか、全員が理解できていなかった。


 数秒後、俺は気が付く。

 タクシーの前輪が、アスファルトに刻まれた深い()にハマって動きを止めていることに。


 愛日は『消滅』の力で、アスファルトの一部を消してタクシーの動きを強引に止めて見せたのだ。

 しかし、その場に居合わせた大勢の人間が、目の前で起こった現象を未だに理解できていなかったと思う。

 愛日の症状の事を知らない人達からしてみれば、迫りくるタクシーが唐突に愛日達の目の前で動けなくなったようにしか見えていないのだから。


 タクシーのエアバッグが作動し、車体が浮いたせいで後輪は空回りを繰り返している。皆が唖然として、ただその光景を眺めることしかできなかったのだ。


 暫くの静寂の後、次第に辺りの人達がざわざわと声をあげだした。


「今の見た!?」「車がガゴンって急に止まったんだけど!」「あの飛び出していった子、なにしたの...?」「あれ、絶対掌光病だよ」「あの子の手から変なもやってしてるの出てるの見た!」「なんか道路に穴開いてない?」


 ザワザワ......


 交差点を囲んだ大勢の人たちが次第に状況を把握しだし、皆の目線が愛日に向けられる。


 愛日はその視線に気づき、気まずそうに唇をかんだ。彼女の拳は悔しそうに硬く握られている。


「愛日...」


 俺は知っていた。

 愛日が人前で『消滅』を使わないようにしていたことを。彼女はその掌光病のせいで多くの人から、恐れられ、敬遠され、避けられてきた。

 そんな光景をもう見たくないから、愛日は自ら消滅を隠していたのだ。


 けれど彼女は、目の前の女の子を助ける為に、迷うことなくその力を露わにした。

 その結果が、今だ。

 周りの人々は、理解が及ばないその力への好奇心と恐怖を、隠そうともせず愛日に突き刺す。


 愛日はその視線を感じながら、強く拳を握っていた。

 そして、彼女はその場から逃げ出すように、足早に俺たちの方へと引き返そうとする。俺は愛日に声を掛けようと、車道側に駆け寄った。


 ...その時、俺達と逆方向の歩道から、一人の大声が聞こえた。


「りなっ!!!」


 それはあの少女の父親だった。

 父親は車道に飛び出し、愛日の後ろで座り込んでしまっていた少女に駆け寄った。愛日は少し驚いたのか、一瞬足を止めて二人の方を振り返った。


 父親が少女に抱きつく、

 その時、何かの音が、静まり返った現場に響いた。



「パチパチパチ」



 それは、拍手の音。

 向こうの歩道に居た一人の老人が、拍手をした音だった。

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