表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手の平の『欠落者』たち  作者: 今木照
夏と花火と君
28/40

第十六話 夏の帰り道

2017年7月  台東区

花火の後...午後9時頃



「うわぁ、それにしても凄い人混みね~」


 愛日が俺の横で参ったように零した。

 それもそうだ。花火大会が終わり、今の時間帯は丁度帰宅ラッシュのタイミングとモロ被りしていた。


 駅へと続く道は、途轍もない数の人間達でごった返しており、満足に歩くこともできない。


「こりゃ電車ん中も凄いことになんぞ~」


 優人は腕を伸ばし、まるで人ごとのように呟く。

 優人と馬酔木さんは、俺が例の、『告白』をしたあと暫くすると何処からともなく現れて、無事に合流した。

 その時に優人が気持ち悪くニヤケながら、俺の肩をグーパンしてきたので、恐らく二人はどこかで俺の告白を見物していたのだろう。

 .......本当に勘弁してほしい。


 そうして再び四人が揃った後、屋台などを回りながら皆で夜ご飯を食べ、帰ろうとした頃にはこの人混みが駅まで続いていたという訳だ。

 帰るタイミングは悪かったかもしれないが、そろそろ帰らないときっと各家庭の親御さんたちがうるさいのだからしょうがない(当然俺の家には今日も親はいないけど)。


 大分目的地の駅まで近づいたが、近づけば近づく程人の数が増えているように感じる。数メートル先の交差点なんか人が多すぎて、交通誘導員がさばき切れていない。

 交通誘導員は必死に笛を吹いて、「信号が間もなく赤になりまーす!!ここから後ろの人は下がってくださーい!!」と叫んでいる。

 しかし、押し寄せる人々の波を抑え込めきれていなくて、車道の車が動き出すギリギリまで通行人が横断歩道を横切っていた。


「交通整理の人も大変だね~」


 馬酔木さんが交差点を見ながら穏やかな口調で言う。それに答えるように、車道側を歩いていた愛日も呟く。


「整理の人は頑張ってるのに、無理やり渡ろうとしてる人が多すぎるわね。ああやってお祭り気分のままマナーを守らない人、大っ嫌い」


 愛日は相変わらず尖った口調だが、言っていることは正しい。

 俺たち四人も人混みの中、ゆっくりと交差点に近づき、ようやく横断歩道まで1、2メートルという場所まできた。

 そこでは案の定、誘導員がかなり苦戦をしている様子だった。


 横断歩道を無理矢理渡ろうとする人たちの流れを多少強引に断ち切り、車道に少し飛び出した人達を歩道へと押し返している。


 俺達がそんな光景を眺めていると、どこからか男性の大声が聞こえてきた。

 それは向こう側へ渡った集団の中に居る、一人の男性の声であった。その男性はこちら側に戻ろうと人混みを逆走しながら、しきりに何かを叫んでいる。


「りな!!待ってろ!今戻る!!」


 男性はそう言いながらこちら側に渡ろうとしている。

 しかし、大量の人の波にもまれ、こちら側に近寄るどころかさらに奥へ奥へと流されてしまっている様子だ。

 彼が声をかけた先を見てみると、小さな女の子が一人居た。その女の子は、必死に誘導員の静止を振り解こうとジタバタしている。


「パパ!りなもそっち行く!」


 女の子は誘導員をかいくぐって、赤信号になった横断歩道を渡ろうとしている。

 けれど、そこは流石に誘導員も簡単に通してくれないようであった。


「皆さん!赤信号になりました!一旦おさがりくださーい!...ほら、キミも一回下がってくれ。お父さんは向こう側で待ってるから、次青信号になった時に一緒に行こうね」


「やだやだ!パパのところいくの!パパー!」


 女の子はそれでも抵抗を続けている。何とか向こう側に渡ろうと、必死に体を動かしているが、もう向こう側にお父さんの姿は見えなくなってしまっている。


 車道の信号機が青になり、車が動き始める。

 流石にこちら側で信号待ちをしている人たちも大人しくなり、無理やり渡ろうとする人はいなくなった。


 その時、誘導員が声を上げた。



「あ!!ちょっと!キミ!!」



 その声を聞いた近くの人達が、いっせいに反応をする。

 その誘導員が腕を伸ばした先には、先ほど父親とはぐれてしまった女の子が居た。

 女の子は誘導員の伸ばした手をスルリとかわし、赤信号になった横断歩道を渡ろうとした。


「ヤバいぞ...!」


 俺の横で優人が慌て出す。

 その優人の視線の先を追うと、一台のタクシーが走っていた。

 そのタクシーは、身長の小さい女の子に気が付いていないのか、真っすぐに横断歩道へと突き進んでくる。


 このまま進めば、間違いなくあの女の子と衝突してしまう...!

 そこに居る大勢の人間がその一瞬の出来事に驚愕し、これから先起こるであろう最悪の事態を想像した。


 勿論、それは俺もだった。


 ...しかし、俺の視界にはもう一人、予想外の人間が映りこんだ。

 俺の見ていた光景を横切った、もう一つの人影、


 それは愛日だった。




続く

最後まで読んで頂きありがとうございます。

よろしければ評価、感想もお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ