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【新装版】 屍喰神楽 ~シニカミカグラ~  作者: 八刀皿 日音
4章 新たな世界へ

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17.愚かなる人は、しかし愚かなままではない


 ついに、〈星災(せいさい)〉としか思えない災害が起きたこと――。

 それは大地のみならず、庭都(ガーデン)に住まう人々の心をも大きく揺さぶった。


 ランディら〈白鳥枝党(しらとりしとう)〉の思想を受け入れていた者たち……その多くが、自分たちが道を誤ったからなのでは、という罪悪感を覚える一方で。

 自らの心が素直に共感し、自然と正しいと感じたこと……それが本当に過ちなどというものなのか――とも思え、揺れる心の置き場に迷っていたのだ。


 そうして――枝党の有志やイクサの面々が、さらなる〈星災〉に備えて、避難計画や備蓄物資の分配について早急に計画を練る中……。

 カタス総括たちは、今や庭都では少数派となった、枝党の思想を頑なに避けていた者たちとともに……この事態を招いたのは、旧来のカタスの在り方を破ったからに他ならない――と、枝党の責任を追及する場を設ける。


 その場において、代表者のランディが非を認め、枝党が掲げてきた思想を撤回し、人々に旧来の在り方を取り戻すよう訴えたならば……。

 星もその怒りを鎮め、〈星災〉もまた治まる――そう確信しているかのように。




「……もはやそういう段階の話じゃない、って分からんのかねえ」



 護衛のような形で、ともに登壇することになっているアキがそうこぼせば……ランディは小さく首を振った。



「私は……彼らの気持ちも良く分かるよ。

 それもまたきっと、遙か昔から続いてきた、人の在り方の一つなのだろうからね。

 そして、だからこそ――私たちにとっての、通過儀礼でもあるのだろう」



 アキに応えてランディは、そのまま歩みを進める。


 その行く先は、カタス本部前の広場――本部入り口に続く、緩やかな階段途中の大きな踊り場だ。

 他より小高い場所であるため、視線を廻らせれば……広場に集まった、多くの人々の姿が良く見える。



 彼らは、切っ掛け――あるいは後押しを待っているのだ。

 揺れる己の心を、どちらに定めるべきか……そのための、最後の判断材料を。



 そんな人々に向けて、まずはカタス総括の一人が、彼ら自身の主張を高らかに告げる。


 白鳥枝党の思想は、星が求める人の在り方とは違い――人々を、世界を、果ては星をも害するものであるからこそ。

 星はそうなる前に、今、〈星災〉を以て人々を戒めようとしているのだ――と。

 ゆえに、本当にこの庭都のことを思うのなら……枝党に影響された思想は、過ちとして捨てなければならない――と。



「こうしてこの場に、白鳥枝党の代表である彼が立つのも!

 我らの求めに応じ、その活動を過ちであったと――」


「私たちは」



 総括の主張に割り込む形で、ランディは一歩前に出た。


 その声は、決して大きなものではなく穏やかながら――すみやかに、広場全体へと広がっていく。



「私たちは――皆さんは。そして、人間は……ただ、気付いただけです。

 私たち自身の胸の内に隠れていた想い……日々を生きる中、微かな違和を訴え続けていた、その想いの正体に。


 それはきっと、太古の昔より――人が人として生きるようになってから、誰もが大なり小なり抱き続けてきた、前へ先へと進もうとする意志。

 進化、進歩と呼ばれるような道を行くための、支えとなる力。


 しかしそれは、強い力でもあるがゆえに……幾度となく私たち人は扱いを誤り、災いをももたらしたのでしょう。

 だからこそ星は、〈星災〉をもってそんな人間たちを戒めてきたのでしょう。


 そして、ゆえに私たちは――かつてはあったその意志を胸の内に封じ、前へ先へと歩むことをやめ……緩やかな平和の中に、永きに渡って身を沈めてきました。


 ――人は、愚かです。

 この星に生まれ出でてより、遙かな歳月を閲した今でも――きっと、まだ。


 しかし――完全に愚かなままではないのです。


 幾度も過ちを繰り返す中で、世代を超えて生き続ける中で……ほんの僅かずつでも、学びを得てきたはずです。

 その学びを活かしたい、活かさなければならない――そんな想いを、この身体を流れる血とともに受け継いできたはずなのです。


 そうでなければ……私たちは庭都の穏やかな平和のうちに、それらをきっぱりと捨て去っていたことでしょう。

 違和感として、正体の知れないままに抱き続けることもなかったでしょう。


 そうです、私たちはただ、気付いただけ――思い出しただけです。

 人が、人で在るからこそ持ち得る想いを、意志を。

 連綿と受け継いできた、『人』としての意志を。


 星が私たちを戒めんとするのは、私たちを案じてのことでもあるでしょう。

 ならばなおのこと――私たちは、証明しなければならないのではないでしょうか。


 〈星災〉を恐れることなく――この意志を携えて、前へと進み……。

 戒められずとも、私たちは少しでもより良い道を進んでいけるのだと。

 楽園で守られる日々を出でて――今度こそ、自らの足で歩いて行けるのだと。


 独り立ちの時が来たのだ――と。

 母なるこの星に、示さなければならないのではないでしょうか……!」



 ランディの、静かながら力強い言葉に……迷いを抱いていた人々の目が、上向く。

 霧に惑う中、改めて灯った道標を見上げるように。


 しかし、明確な動きとしての反応を真っ先に見せたのは……彼らではなかった。


 控えめで優しい拍手とともに、ランディへと歩み寄ったのは――彼とは対となる場にいたはずの者。


 カタス総括たる者の一人――シンドだったのだ。




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― 新着の感想 ―
>独り立ちの時が来たのだ――と。 ボンクラさんの作品の多くに通ずるテーマですよね。
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