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【新装版】 屍喰神楽 ~シニカミカグラ~  作者: 八刀皿 日音
4章 新たな世界へ

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14.きっと、ずっと、それだけのこと


 ――今度は(・・・)どうするのか――


 かの、〈白き黄金の方〉に感じたものと、同じ気配を纏う女性……。

 その女性の問いかけを、ロナは深く噛み締めてみる。


 ……素直に言葉だけを追えば、何を指してそう言われているのかは分からない。

 しかし、不思議と……『心当たり』は感じるのだ。

 明確に言語化は出来ずとも――女性が、何を以てそう語りかけるのか……そこに繋がりを持つ何かを、己の心の内に。


 いや、あるいはそれは、彼女個人の心よりももっと奥深く――。

 存在の根幹を成す、魂たるものに刻まれた記憶であるのかも知れなかった。



「わたしは――」



 存在するのは分かっても、正確には解き明かせない『心当たり』に触れながら……。

 きっと、そればかりは間違いない、変わらないと信じられた芯とでも呼ぶべき感覚を――ロナは、言葉にして紡ぎ出す。



「わたしが、そうするべきだと……。

 きっとそうするのが正しい、と――そう信じたことをするだけ」



「それが、間違いだったとしても?」


 重ねて女性がそう問うと、ロナは微かな苦笑をもらした。



「本当に間違いだったかなんて、後にならないと分からないんじゃない?

 でも、もしもそれが、先んじて明らかに間違いだと思えるものなら……当然、やめる。

 やってから、間違ったと分かったなら――当然、償う。

 そうして、そのために改めて……そうするべきだと、信じたことをする――」


 答えながらロナは、何とも当たり前のことしか言ってないな――などと、自分に呆れるような心持ちだった。

 だがそれこそが、嘘偽り無い、彼女の本心そのものだったのだ。



「そう……ただ、それだけ。

 きっと、ずっと……それだけのこと」



 ロナのそんな答えを、女性はどんな気持ちで受け取ったのか。

 ロナのそれに合わせたように、彼女もまた微苦笑を浮かべつつ……小さく頷いた。



「そう…………そうね。

 きっと、ええ……そういうものなのよね」



 そんな女性に、逆に今度はロナから問いを投げかける。



「わたしからも一ついい?

 あなたは――いいえ、『あなたたち』は。

 いったい、どういう存在なの?」



 かつて出会った、〈白き黄金の方〉のことも思い返しながらのロナの質問に――。



「……その言葉すら、失われて久しいのだったわね」



 女性は、何かを懐かしむように――庭都(ガーデン)の街並みを一度振り返ってから答える。



「わたしたちは――かつて〈シニカミ〉と呼ばれたもの。

 何よりも星に近しく……そして、あなたたちにも近しいもの。

 それ以上は――『語る』のは難しいわね。


 もっとも……あなたには、そうする必要はないかも知れないけれど」



「わたしには……必要、ない……?」


 初めて聞くはずの――それでいて妙に、これまで幾度となく使ってきたかのように馴染む、シニカミという言葉。

 だが、女性の告げた『必要ない』が、そんな奇妙な聞き覚えを指しているわけではないことを、ロナは察していた。



「ええ、そう。

 あなたが目指し続けたもの、目指し続けたところは……そこへ至るためのきっかけは、あなた自身にこそある。

 それは……あなただけでなくなった、あなただからこそ――見出せるはず」



 続く女性のさらなる言葉に、ロナは困惑を禁じ得ない。


 しかし、それもやはり……この対話の始まりとなった問いかけと同様、まったく要領を得ないから――などではなかった。

 むしろその逆だ。


 感じるからだ――それが、己の中の、未だ見出せていない何かに触れるのが。

 確かにそこにあると分かりながら、掴み得ないものに……光を当てているのが。


 そして、それゆえについ、ロナの口を突いて出たのは……こんな言葉だった。



「なら……シニカミとやらのあなたの、今の言葉は。

 わたしがきっかけを得るための、きっかけだった――ということ?」



「……あなたらしい言葉遊びね」


 ロナの軽口めいた冗談に、女性は穏やかに笑む。


「結果としてはそうなったとも言えるけれど……きっと、その必要もなかったのよ。

 そう、そんな必要もないのに、つい言葉にしてしまったのは……。

 わたしはわたしで、つい……嬉しかったから、なのでしょうね。

 ――あなたの内に、懐かしいカケラを見出してしまったから」



 半ば独り言のようにも呟きながら――女性は。

 ゆらりとした動きで、井戸から……ロナから遠ざかる。


 そうして――




「最後にもう一つ、あなたに言葉を贈る――いいえ、返すわ。


 ……顔を、上げなさい。


 この先……いかにつらく、苦しいことがあろうとも――ね」




 言葉通りに、それだけをロナへ言い残して。


 女性は、沈みゆく陽の光に溶けるように――ただ一度の瞬きの間に、その姿を消していた。




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― 新着の感想 ―
そう言えば2話らへんで意味ありげな夢をみてたなーと。 あと屍喰になったばかりだと自我が濃くてほぼ人間と変わらないですけど、さすがにこれだけ時代が進むと浮世離れした神々しさがありますよね。 作品タイトル…
ボンクラさんの哲学を感じますね。
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