14.きっと、ずっと、それだけのこと
――今度はどうするのか――
かの、〈白き黄金の方〉に感じたものと、同じ気配を纏う女性……。
その女性の問いかけを、ロナは深く噛み締めてみる。
……素直に言葉だけを追えば、何を指してそう言われているのかは分からない。
しかし、不思議と……『心当たり』は感じるのだ。
明確に言語化は出来ずとも――女性が、何を以てそう語りかけるのか……そこに繋がりを持つ何かを、己の心の内に。
いや、あるいはそれは、彼女個人の心よりももっと奥深く――。
存在の根幹を成す、魂たるものに刻まれた記憶であるのかも知れなかった。
「わたしは――」
存在するのは分かっても、正確には解き明かせない『心当たり』に触れながら……。
きっと、そればかりは間違いない、変わらないと信じられた芯とでも呼ぶべき感覚を――ロナは、言葉にして紡ぎ出す。
「わたしが、そうするべきだと……。
きっとそうするのが正しい、と――そう信じたことをするだけ」
「それが、間違いだったとしても?」
重ねて女性がそう問うと、ロナは微かな苦笑をもらした。
「本当に間違いだったかなんて、後にならないと分からないんじゃない?
でも、もしもそれが、先んじて明らかに間違いだと思えるものなら……当然、やめる。
やってから、間違ったと分かったなら――当然、償う。
そうして、そのために改めて……そうするべきだと、信じたことをする――」
答えながらロナは、何とも当たり前のことしか言ってないな――などと、自分に呆れるような心持ちだった。
だがそれこそが、嘘偽り無い、彼女の本心そのものだったのだ。
「そう……ただ、それだけ。
きっと、ずっと……それだけのこと」
ロナのそんな答えを、女性はどんな気持ちで受け取ったのか。
ロナのそれに合わせたように、彼女もまた微苦笑を浮かべつつ……小さく頷いた。
「そう…………そうね。
きっと、ええ……そういうものなのよね」
そんな女性に、逆に今度はロナから問いを投げかける。
「わたしからも一ついい?
あなたは――いいえ、『あなたたち』は。
いったい、どういう存在なの?」
かつて出会った、〈白き黄金の方〉のことも思い返しながらのロナの質問に――。
「……その言葉すら、失われて久しいのだったわね」
女性は、何かを懐かしむように――庭都の街並みを一度振り返ってから答える。
「わたしたちは――かつて〈シニカミ〉と呼ばれたもの。
何よりも星に近しく……そして、あなたたちにも近しいもの。
それ以上は――『語る』のは難しいわね。
もっとも……あなたには、そうする必要はないかも知れないけれど」
「わたしには……必要、ない……?」
初めて聞くはずの――それでいて妙に、これまで幾度となく使ってきたかのように馴染む、シニカミという言葉。
だが、女性の告げた『必要ない』が、そんな奇妙な聞き覚えを指しているわけではないことを、ロナは察していた。
「ええ、そう。
あなたが目指し続けたもの、目指し続けたところは……そこへ至るためのきっかけは、あなた自身にこそある。
それは……あなただけでなくなった、あなただからこそ――見出せるはず」
続く女性のさらなる言葉に、ロナは困惑を禁じ得ない。
しかし、それもやはり……この対話の始まりとなった問いかけと同様、まったく要領を得ないから――などではなかった。
むしろその逆だ。
感じるからだ――それが、己の中の、未だ見出せていない何かに触れるのが。
確かにそこにあると分かりながら、掴み得ないものに……光を当てているのが。
そして、それゆえについ、ロナの口を突いて出たのは……こんな言葉だった。
「なら……シニカミとやらのあなたの、今の言葉は。
わたしがきっかけを得るための、きっかけだった――ということ?」
「……あなたらしい言葉遊びね」
ロナの軽口めいた冗談に、女性は穏やかに笑む。
「結果としてはそうなったとも言えるけれど……きっと、その必要もなかったのよ。
そう、そんな必要もないのに、つい言葉にしてしまったのは……。
わたしはわたしで、つい……嬉しかったから、なのでしょうね。
――あなたの内に、懐かしいカケラを見出してしまったから」
半ば独り言のようにも呟きながら――女性は。
ゆらりとした動きで、井戸から……ロナから遠ざかる。
そうして――
「最後にもう一つ、あなたに言葉を贈る――いいえ、返すわ。
……顔を、上げなさい。
この先……いかにつらく、苦しいことがあろうとも――ね」
言葉通りに、それだけをロナへ言い残して。
女性は、沈みゆく陽の光に溶けるように――ただ一度の瞬きの間に、その姿を消していた。




